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深夜の告白(中川信夫)

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日本映画専門チャンネル10月の「蔵出し名画座」というコーナーで大変めずらしい(自分がそう思っているだけかもしれませんが)中川信夫監督の「深夜の告白」1949を放映すると知ったので、(DVDはないので)これを見逃しては一大事とばかり、カレンダーに太い赤線でグリグリグリと印をつけたうえで放送時間も書き込んでおきました。

おかげで、今回は見逃すことなく無事に見ることが出来ました(フツーはだいたいは見逃しています)。

たいへん面白く見たのですが、なんだか登場人物のさばき方がもたついている印象を受けました。

最初に、ある新聞記者(池辺良)が、たまたま闇市で見かけた食堂のおやじが戦争中に行方不明になった早川飛行機会社社長の早川道平(小沢栄→栄太郎)だと直感し、尾行するなどして素性を調べていく過程で、迂闊にもこの話が少しずつ部外者(関係者)に知れるところとなり、うわさがひろがって動揺がひろがるという様子が描かれます。

とにかく、政財界の中枢の痛いところを握っているらしいという噂のある影の重要人物です、失踪後、背任横領罪に問われたというのも、なんだか腐敗した政界と司法の癒着がそうさせたかのような策謀くさい説明もあったような気がします。

国家をゆるがすレベルの秘密を握っているらしい彼が表舞台に現れたら、それこそ政財界は大激震をおこして、現内閣の存立も危ぶまれるくらいの大変なことになるぞと匂わせておきながら、この映画では、それらしい発展は一向に描かれません。

描かれているものといえば、不名誉な父の生存を、世間と舅である老男爵に知られたくない若男爵夫人・峰子(三宅邦子)と、戦死したその兄・浩之の駆け落ちの相手・七重(元・女中)が、なんだかごちゃごちゃと口争いをするというのが、おもなストーリーの牽引力で、「松本清張映画」をさんざん見慣れてきた現代の自分たちからすると、この緊迫感のない新聞記者の取材の仕方(取材の秘匿などお構いなしの関係者へダダ漏れ状態です)にはあきれ返るばかりですが、戦後のどさくさに紛れて「行方不明の重要人物が、実は別人に成りすまして生きていた」というストーリーとして恰好の筋立ても、こんな扱いじゃあ散々じゃないですか、と思いながら、キャストをJMDBで一人一人確認していたところ、早川道平の娘でいまは男爵夫人になっている峰子役の三宅邦子の名前が欠落していることに気が付きました。チョイ役ならともかく、早川道平の娘にして男爵夫人・峰子の役は、この映画にとってとても重要な役どころです。失踪後、背任横領罪に問われた父親を恥じて、「早川社長発見」の極秘情報を知らされた時も(同じアパートの住民に強請られて初めて知ったのですが)、喜ぶどころか、できればいままでどおり「失踪状態」が続いてくれることがベストと、舅にもひた隠しにしていたくらいで、それに兄・浩之の愛人七重との関係がギクシャクしたのも、もとはといえば、父親の発見を世間に知られることを拒んでいることが直接の原因でもあります。

この映画には欠かせない主要な役とその俳優の三宅邦子の名前がJMDBから欠落しているのには、少しおどろきました。

JMDBの「深夜の告白」の項目には、こんなふうに掲載されています。自分流に少し加工しましたが。

≪(1949新東宝)製作・竹井諒、筈見恒夫、監督・中川信夫、脚本・八木隆一郎、撮影・河崎喜久三、音楽・伊福部昭、美術・梶由造、録音・片岡造、照明・平岡岩治出演・小沢栄(早川道平)、千田是也(波多野)、青山杉作(波多野の息子)、東山千栄子(波多野の妻)池部良(新聞記者森口茂也)、東野英治郎(松木助作)、月丘千秋(松木キヨ子)村瀬幸子(お初)、山根寿子(七重)
製作=新東宝 1949.06.20 8巻 2,143m 78分 白黒≫

また、逆に「三宅邦子」(実際は「三宅くにこ」とありましたが)の項で検索すると、1949~1950の記事はこんな感じでした。

≪84.1949.02.09 わが恋は燃えぬ  松竹京都  ... 岸田俊子
85.1949.05.04 花婿三段跳び  松竹大船
86.1949.05.09 フランチェスカの鐘  松竹京都
87.1949.09.13 晩春  松竹大船  ... 三輪秋子
88.1949.09.23 まぼろし夫人  松竹京都
89.1949.11.20 獄門島  東横  ... 鬼頭早苗
90.1949.12.05 獄門島 解明篇  東横  ... 鬼頭早苗
91.1950.04.19 女医の診察室  新東宝=滝村プロ
92.1950.07.15 夢は儚なく  東宝=三上プロ
93.1950.09.09 アルプス物語 野性  大泉映画=芸研プロ
94.1950.10.28 薔薇合戦  松竹京都=映画芸術協会  ... 里見真砂≫

「中川信夫」の項の「深夜の告白」のキャストから三宅邦子の名前が欠落している以上、当然「三宅邦子」の項(上記)の「深夜の告白」にも出演した記録がないのは当然ですが、べつにこういう「整合性」ならいりません。でも世界の映画関係者がアクセスするJMDBです、こういう信頼を損なうことがあってはならないと思います。「映画.com」も同様でした。

ただ、試みに、wikiで「三宅邦子」を検索して少し安心しました。そこには、こんなふうに記載されていました。

≪◇小津安二郎監督作品の出演映画
戸田家の兄妹(1941年)
晩春(1949年)
麦秋(1951年)
お茶漬の味(1952年)
東京物語(1953年)
早春(1956年)
お早よう(1959年)
秋日和(1960年)
秋刀魚の味(1962年)

◇その他の出演映画
虞美人草(1935年)
兄とその妹(1936年)
家庭日記(1938年)
お加代の覚悟(1939年)
新女性問答(1939年)
みかへりの塔(1941年)
肖像(1948年)
獄門島(1949年)
★深夜の告白(1949年)
帰郷(1950年)
うず潮(1952年)
郷愁(1952年)
母の初恋(1954年)
絵島生島(1955年)- 天英院
海軍兵学校物語 あゝ江田島(1959年、大映) - 村瀬きく
細雪(1959年)
細雪(1983年)
夢の涯てまでも Until the End of the World (1992年)(ヴィム・ヴェンダース監督作品)≫

まあ、細かく見ていくと疑問がどんどん出てくるので、このくらいにしておきますが、実は、この小文を書きはじめる当初、この映画「深夜の告白」が、作劇的に「市民ケーン」の影響を受けているのではないかとチラッと思った部分もあったので、その線でも検索をかけたのですが、実は、ヒットする情報は、どれもみなビリー・ワイルダーの「超」がつくほどの名作「深夜の告白」の方ばかりで、中川信夫版「深夜の告白」は、残念ながら、今回、日本映画専門チャンネルが放映するということでアップされている関係記事ばかりでした。こればっかりは、仕方のないことですが。

余談ですが「日本映画専門チャンネル」のサイトは「右クリック禁止サイト」で、世間では、すこぶる評判が悪いです。つまらない情報ばかりなのに、思い上がるなと言いたい。

どうも長くなりそうなので、ビリー・ワイルダーの名作「深夜の告白」は、次回に回すことにします。



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