Quantcast
Channel: 映画収集狂
Viewing all articles
Browse latest Browse all 248

忘却とは忘れ去ることなり、O脚とはガニ股のことなり

$
0
0
前回、NHK・BSの「映像の世紀」についての感想を書きました。

自分の書いたものを改めて読み返してみると、ちょっと変ですね。

書き出しは、なにやら直近でみた「映像の世紀 太平洋戦争・熱狂から絶望の1346日」(太平洋戦争開戦にちなんだ企画)について始めようとしているのに、突如、話は飛んで、以前見たシリーズのうちの1本「運命の恋人たち」に移り(いかにも唐突です)、そこで紹介されていた映画、「他の人とは違う Anders als die Andern」(1919)という、映画史上最初の同性愛映画といわれるドイツ映画についての説明をしゃあしゃあと展開しています。

改めて読み返してみると、やっぱり、不自然ですよ、だってなんのために、わざわざ「太平洋戦争・熱狂から絶望の1346日」なんかを最初に持ち出す必要があったのでしょうか、関係ないじゃないですか、われながら訳が分かりません。意味分かんねえよ、というやつです。

「でも、あんただって落ち着けば一人前なんだからさ」とよく配偶者から言われていますが、それで励ましている積もりか、バカヤロー。

そうそう、先日も、こんなことがありました。

最近は、寄るトシナミで、めっきり視力が弱ってきて、眼鏡がないと字が霞んでよく読めません。

ですので、本や新聞を読むときはもちろんですが、やたら字の小さい家電の説明書とか、分別ゴミ収集の一覧表とか、とっさに確かめねばならない緊急事態に直面したときなど眼鏡がないと右往左往七転八倒、もう大変な騒ぎになってしまうのです。

ということで、常に眼鏡を片手に、家のなかをウロウロと移動している始末デス、自分にとっていまや「片手に眼鏡」は必須で、すっかり「肉体の一部化」していて、そもそも、もはや眼鏡を持っているという感覚も意識もありません。

昼食も済んで、食器洗いも終わり、さてひと休み、コーヒーでも入れてゆっくり朝刊でも読むか、「岸田君は、まだ外交ボイコットを渋って、くずぐず意地を張っているのかな」どっこらしょと新聞をテーブルに広げたのですが、あれっ、いつも手に持っているはずの眼鏡がありません。そのとき、はじめて気がつきました。

いまのいままで、確かにこの手に持っていたはずなのに、ないのです。

そんなことってあるだろうかと、しばし、呆然と手のひらを見つめてしまいました。

眼鏡がないとなると、自分がとても不自由することは、分かりすぎるくらい分かっています。

だから、いつも注意を払って、神経質なまでに肌身離さず持ち歩いていたのですから、この突然の眼鏡の消失は、正直ショックでした。

狐につままれたようなマジックかミステリーにでもあったような呆然自失の気分です。

そうそう、持ち歩くことができないときには、仮の置場所(テレビの前とか洗面所の棚とか)というのも決めてあって、そこなども念のために見にいったのですが、やはりそこにもありませんでした。

しかたなく配偶者にも聞きました、あとでつべこべ馬鹿にされるので、本当は聞きたくないのですが、背に腹は代えられません、でもやはり、「心当たりなんかないわよ」と突っぱねられました。

「だから、いつも言ってるでしょう、決まった場所に置いときなさいって」

ほら、きた。だから聞きたくなかったんだってば。

「置いといたんだけどさ。それがないから困ってんじゃないのよ!」

反撃をこうむらない程度の弱々しい逆切れを語尾の方だけ強調してカマしてやりました、せめてもの抵抗です。

そんなふうにして、夕食の時間近くまで脂汗をかきながら心当たりの所はすべて、あっちこっちと散々探したのですが、残念ながら、ついに見つかりませんでした。

「忽然と消える」というのは、まさにこのことです。

まあ、眼鏡のほうは、明日にでも近所の眼鏡屋さんにいって、新しいのを作ってもらえば、それでいいことですが、なんだか気持ち的にどうにも収まらないのです。

でも、いつまでも、ずるずると引きずっているようなコトでもないし、気持ちの負担にするなんてのも馬鹿々々しいとは思うのですが、なんか釈然としません。

きっと、しっかりと自分の管理下に置いて、念には念を入れてこれで絶対大丈夫と確信していたものが、実にあっけなく崩れてしまったことに、言い知れないショックというか、苦々しいものを感じたのだと思います。

あえて言えば「くやしい」というような感じかもしれません。

いつもは辛辣な配偶者も、そこまでは言いませんでしたが、さしずめ「モウロク」という言葉が彼女のやっとの自制心とともに一瞬、過ぎったに違いありません。

意気消沈して戻ってきた食卓には、昼食後、読もうとしていた新聞が、あのときの状態で広げられたままになっています。

徒労感に疲れがいっぺんに出て、どっかりと椅子に座り、「駄目だ、なかったよ!!」と、広げられた新聞に手を突いたとき、新聞の下のなにかが手に触れました。なにかあります。

えっ!? ええっ~!!

それは、半日かけてさんざん探していた眼鏡でした。こんなところにィ・・・。

片手に持っていた眼鏡を無意識にテーブルに置き、その上の新聞を意識して置いて、そのあと「眼鏡がない!」と騒いでいたのでしょうか。

「ハハハ、あった、あったよ、ありました」

台所で夕食の支度をしている配偶者の背中に声を掛けました。

彼女は、身を固くしてマナイタをじっと凝視して一心に手を動かしています。

そのとき、背中が動いて、とても大きな深呼吸をしているらしいことが窺われました。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 248

Trending Articles