すこし前、2019年6月7日(金)朝刊の訃報欄にこんな記事が掲載されていました。
《岸富美子さん(きし・ふみこ=映画編集者)5月23日午前0時33分に老衰のため東京都小平市の病院で死去した、98歳だった。葬儀と告別式は近親者で済ませた。喪主は長女千蔵真理さん。女性の映画編集者の草分け的存在だった。
1920年(大正9年)中国奉天省営口生まれ。家計を助けるために15歳で京都の第一映画社に入社し編集助手となる。溝口健二「浪華悲歌」(1936)で後に女性監督の草分けとなる助監督・坂根田鶴子の下で編集助手を務め、さらに伊藤大輔といった巨匠作品を手伝った後、JOスタヂオの伊丹万作のもとでアーノルド・ファンクの日独合作映画「新しき土」(1937)に参加した。ドイツの女性編集者アリス・ルードヴィッヒに最新の編集技術を学ぶ。その後、1939年に満州(現中国東北部)に渡り、当時「甘粕正彦が君臨し、李香蘭が花開いた満映」といわれた国策映画会社・満洲映画協会に入社、編集助手として李香蘭主演の「私の鶯」など数多くの作品に関わった。
満映崩壊時、ソ連軍侵攻による玉砕覚悟の必死の籠城も経験した。
その後、中国の内戦に巻き込まれ、内田吐夢監督らと共に東北電影製片廠に残り中国共産党の映画製作に協力・従事した。中国共産党による「精簡」(人員整理)や炭鉱労働、学習会での自己批判など過酷な状況の中で出産。国民的映画「白毛女」(1950)に編集者として参加、アリス・ルードヴィッヒから学んだ編集技術を教えて多くの女性編集者を育て、新中国の映画草創期に映画製作の礎を築いた。しかし、日本人が製作に貢献したという事実は伏せられ、2005年まで「安芙梅」という中国名で記録された。戦中の国策映画で学んだ技術が戦後の新中国で花開くという皮肉にも波瀾万丈の人生は、まさに戦前戦後の激動の映画史を駆け抜けた生き証人といえた。
1953年に日本に帰国、帰国後はレットパージのためフリーランスとして主に独立プロで映画編集を手がけた。2015年(平成27年)映画技術者を顕彰する「一本のクギを讃える会」から長年の功績を表彰された。手記の「満映とわたし」(共著)は舞台化された。》
もう何年も前に見たTVのドキュメンタリー番組で、戦時中、満映で映画製作に携わっていた日本の映画人のうち、戦争が終わっても依然として中国の地にとどまり、中国映画の製作に協力した日本の映画人がいたことは知っていました。
その中に岸富美子さんの名前も入っていて、その6月7日付の社会面に載っていた訃報記事を見たとき、すぐにある程度の反応ができたのだと思います。
その記事を読んだあと「満映」をキイワードにして検索をかけたところ、たまたま満映作品「迎春花」をyou tubeで見られることを知りました。
たしか、当時の満映作品というのはことごとく失われてしまっていて、いまでは作品を見られないと聞いていたので、もう少し調べてみると、日本との提携作品とかなら見ることができると分かりました。
まず、スタッフ・キャストのデータを書いてしまうと、こんな感じです。冒頭の字幕を見ながら転記したので、判読困難な字(なにせ、どれもかなりの達筆です)は、見当で転写したので、誤記の可能性は大いにあります。
(1942満映、撮影協力・松竹)監督・佐々木康、脚本・長瀬喜伴、撮影・野村昊、森田俊保、中根正七、美術・磯部鶴雄、音楽・万城目正、録音・中村鴻一、現像・富田重太郎、平松忠一、編集・濱村義康、台詞指導・王心斎、製作担当・大辻梧郎、磯村忠治、撮影事務・安井正夫、
出演・李香蘭、近衛敏明、浦克、木暮実千代、藤野季夫、吉川満子、那威、張敏、日守新一、戴剣秋、袁敏、曹佩箴、干延江、周凋、王宇培、関操、三和佐智子、路政霖、江雲逵、宮紀久子、下田光子、瀧見すが子、
1942.03.21 9巻 74分 白黒
なるほど、なるほど。
この作品「迎春花」も「撮影協力・松竹」だったので現在でも見ることができるというわけですね。
まだ初々しい木暮実千代(「お嬢様」ふうの我儘っぽい持ち味は最初からだったことがこれでよく分かりました)や、小津作品でおなじみの吉川満子とか、黒澤作品「生きる」で鮮烈な印象のある日守新一の顔も見ることができます、そのほかにも日本名の俳優さんたちがかなり出演している作品です。
タイトルの「迎春花」は、中国旧正月(2月)に咲く「黄梅」のこと、ストーリーも「春を待つ感じ」の冬の奉天(瀋陽)が舞台です。
ある日、日本の建築会社奉天支社に支店長の甥・村川武雄(近衛敏明)が東京から赴任してきます。支店長の娘・八重(木暮実千代)はひそかに彼に想いを寄せているという設定ですが、見た感じ「ひそか」というには、いささか御幣があります。まあ、「もし相手が言い寄ってきたら、そのときは受けてあげてもいいわ」くらいの感じなので、武雄に対する関心度は傍からもあからさまですが、彼女には気高いプライドもあり、あくまでも優位に立ちたいペンディング状態なので、なんらの意思表示や働きかけができないでいるという描かれ方です。
しかし、武雄は、同じ事務所で通訳を務める中国人事務員・白麗(李香蘭)に惹かれていますが、決定的な意思表示をするまでには至りません。彼がなにに躊躇しているのか、とくにその理由の説明もありませんし、中国人の白麗もまた、日本人の八重に気兼ねして武雄との付き合い方の距離を測りかねてはいるものの、激しく拒絶するということはなく、親密そうに歌を歌ったりする場面もあるところを見ると、もしかしたら白麗は、武雄に対してなんらかの「可能性(未練)」を残そうとしているのではないかとも考えたものの、ほかに説明がないというのは、武雄や八重のときの描かれ方と同質の、この映画自体の「煮え切らなさ」に通じてしまうようなものを感じました。
ただし、唯一、武雄がはっきりとした意思をもって「言明する」という場面がありました。
武雄は八重に「白麗は、日本人であるあんたに遠慮してホッケーの試合にでないといっているぞ、彼女にそんなことを思わせることをどう思うのだ」と激しく問い詰めています、日頃は「昼あんどん」みたいな温厚な男(しかも、好意さえ寄せていました)から、そんなふうに言われたら、そりぁ相当なショックだと思います、彼の口から白麗をかばい自分を非難する一方的な言葉を浴びせかけられたわけですから、彼女のダメージは相当なものがあったと思います。
会社の命令で、武雄のハルビン出張に通訳として同行するよう指示されたとき、白麗は、彼らのこじれた関係を取り持とうと八重にも同行を誘いますが、結局、どこまでも煮えきらない武雄の態度に苛立ちを募らせて八重は東京へ戻ってしまいます。そして、これを契機に白麗も北京へ去り、武雄は奉天にひとり帰り、仕事の合間に近所の中国人の子供たちを集めて剣道を教える元の生活に戻ります。
このラストの全員離別の急展開に「なんだ、こりゃ」と、思わず呆れ声をあげた人の感想を読んだことがありましたが、自分としては、物語の収束の性急さを除けば、こういう終わり方もアリかなとは思います。八重の気持ちも白麗の気持ちも、そして、武雄の優柔不断さは、十分に理解の範囲内にあります。
ただ、気に掛かるのは、登場人物のそれぞれが抱え持っているあの「煮え切らなさ」でした。
ここまで、書き進んできて、そうそう、あることを思い出しました。
確かあのドキュメンタリー番組を見たときも、いまと同じように「満映」に興味をもって、自分のブログでも取り上げようかとあれこれ調べてみましたが、資料があまりにも少なすぎて、手掛かりというか、これだという取っ掛かりがどうしてもつかめずに、結果的には平凡な報告みたいなものしか書けなかったのだと記憶しています。
たぶん、どうにかこうにか書きあげたものの、文章にしたものは、番組の内容紹介のようなものにすぎず、自分としては不本意なかたちで終わったという感じでした。
そもそもなにが頓挫した原因だったのかといえば、その理由ははっきりしています。
戦争が終わったというのに、日本の映画人(のなかの幾人か)がなぜ中国にとどまり中国の映画づくりに協力したのか、不可解というよりも、なんだか割り切れない「奇妙」な乖離感のようなものを感じたからだと思います。
彼らが中国から協力を要請されとして、その実体は、「半分暴力的にとどまることを強いられたのではないか」という思いから、「日本人の側から祖国への帰還を先送りしてまで、あくまで善意で中国の地にとどまって映画作りに援助する途を選んだのか」まで、その辺の事情をはっきりと知りたかったのだと思います。
もし、前者の場合(強制留置)なら、そりゃあ、戦勝国ソ連の「捕虜を抑留して酷寒の地に追いやり奴隷のように死ぬほど強制的に酷使した」という例もあるくらいですから、中国にだって、たぶんそいうことなら大いにあり得るだろうなと、かえって納得できる部分はあります、もし、前者ならね。
しかし、仮に後者の場合(善意の協力)だとすると、実に「奇妙」な思いに囚われざるを得ません。
戦時中にあっては、当時の日本の映画批評家たちの「満映」作品を論難する痛烈にして冷淡な反応のその語調だけ見ても、満映作品の稚拙さ・劣悪さは、おおかたの察しがつく冷やかなものばかりです。「論ずるにさえ値しない」という、もはや門前払いの印象です。
例えば、1939年製作の満洲映画協会作品に『知心曲』という作品があります、監督は高原富士郎、解説によるとこの作品を撮る以前は文化映画を撮っていた人とかで、これが最初の劇映画だとありました、「トォキィ技巧概論」1935という著作もあると書き添えてありましたが、「日本映画監督全集」(キネ旬1976)には残念ながらその名を見つけ出すことはできませんでした。
映画についての著作もあるくらいですから、ズブの「素人」ではなかったでしょうが、劇映画には経験の浅かったこういう人でも、当初のころの「満映」では、国策と「中国人慰撫」の緊急の必要から、たとえ経験がどうあれ、意欲さえあれば、どんどん採用していったことがこれだけで推察できます。
この映画『知心曲』をハルビンの映画館で見た岩崎昶は、まずは「失望した」と書き残しています、これが満映の傑作では困る、と。上映した館の中国人の支配人もこの作品には大層不満で、こんな感想を彼に話しました。
「満映の映画は、上海映画に比べて、既に半分の価値しかない。そのうえ、その演出にはなんのリアリティも感じられない。スクリーンに展開されるアクションや会話について、そもそも満人はあのような場合にあのようには言わない、あの身振りや心理の動きは、まさに日本人のものであって中国人としては不自然なものだ」と。
岩崎はその中国人の率直な感想を聞いていちいち納得し、いまさらのように満映の仕事の容易ならざる困難を痛感します。
日本からどんなに優れたプロデューサーや映画人が来ても、中国人の生活や生の言葉をまるで理解しないところで、はたしてこれ以上の仕事ができるだろうか。誰もが、満州の映画がこのままでいいと思っているはずはない、岩崎は、そこにこそ満映の製作首脳部の苦悩があると指摘します、どんなに優れた芸術家でも、その国の民衆の生活様式や心理や感情を知ることなしに「芸術」として民衆の生態を表現することは不可能だと。そう分かってはいるものの、どうにもできないでいる現地の状況というものを述懐しています。
読んでみると、いささか腰が引けた遠慮がちな岩崎の、牙を抜かれた不甲斐ない述懐ですが、ときは戦時下、意のある部分を汲み取って真意の片鱗だけはどうにか理解できるような気がします。
しかし、なにもこうした思いは日本人だけのものではなく、中国人もまた、異国からの支配者・侵略者が、政策として強権をもって押さえにかかってくる象徴として、どこの国のことを描いているのやら分からない「奇妙な映画」(かつての日本映画を片っ端から焼き直したわけですからそれは当然で、無国籍映画と表現しています)を見ることを強いられ、内心では屈辱感と敵意と苦々しい怒りを秘めながら、ウワベは従順を装って微笑を浮かべているという、植民地における被支配者・中国人にとっての「嘘とたてまえ」の象徴として「映画」があったのだと思います。
こうした知識人の賢しらな「だから満映作品はダメなんだ」という迷いに対して、例えば今日出海は、「支配の論理」をむき出しにして、こう一石を投じています。
「文化などまるでない所、そもそも町の姿もろくに無かった所に町を建設し、文化を樹立しようとしてゐるのだ。内地から機構設備や工人をもたらして、内地並みの写真を作ろうと心がけて成功するとも思われない。五民族が、あるいは以上の民族がひとつの国家を作ろうというのに、文化のほうが先にできたなどというとんでもない話があるだろうか。(中略)一朝に建国の実が揚がったとは誰も思うまいが、個々のことになると進歩がない、それをもって文化が低いと断じるとは、どうしたことか。一朝にして成った文化など一体どんなものか、想像すらできぬではないか。(中略)思想が形象化する過程は複雑を極めている。映画は技術だという世迷言は撮影所人種の泣き言にすぎぬ。ぼくは監督たちにも会った。(中略)彼らは傑作を出さぬかも知れぬ。しかし要は傑作ではなく、こうした誠実が文化を支持する柱石であり、文化を育む温床であるということだ。」
支配する側と支配される側とのあいだで、決して埋めることの出来ない溝と亀裂のうえで、互いに本音を隠し虚偽と架空のタテマエで成り立っている「映画」でしかないことを誰もが内心では薄々気がついているのに、それでも、終戦後、日本の映画人たちが「祖国への帰還を先送りしてまで、あくまで善意で中国の地にとどまり中国の映画作りに協力する」なんてことが、あり得るだろうかというのが、自分の素直な疑問でした。
中国人にしたって、満映作品に対して「いい気なものだ」とひそかに冷笑していたに違いない彼らがその怒りの乖離を清算して、日本人の「協力」を受け入れたものとはなんだったのか、いろいろな資料を読んでいく過程で、こんなふうに考えてみました。
満映作品に対して「いい気なものだ」と感じるのは、それは、あくまで抑圧されていた中国人の、あくまで鑑賞者としての態度であって、映画を作る側に現場で身を置いていた中国映画人たち、まだまだ技術的には未熟で、日本人から技術を学び習得しなければならなかった中国人たちにとっては、違った考えを持っていたのかもしれないと。それこそ「タテマエ」と「本音」です。
いままで読んできたものは、植民地にあって、支配する側とされる側のどちら側から見るかという二極的な論点ばかりで、「満映作品」を自立した映画作品として見ようという立場からは、程遠い論議のように感じます。
関東軍がどうの、満州建国や甘粕正彦がどうのというところから語り始められた歴史の本や、大局的なところから論じた戦争史なら、それこそ嫌というほど存在しているのに、当の満映で作られた作品そのものについて言及した資料がほとんどなく、例えば、どういう作品が作られたのか、具体的・逐事的に列挙したような資料が手にすることができなかったからだと思います。
しかも、そのなかでも手にすることのできた限られた資料から読み取れるものといえば、どれもがふたつに引き裂かれているような矛盾と乖離に満ちたものばかりだったということもあります。
日本の植民地支配・管理者にとっての「満映」で作られた作品は、単に、中国人を日本人化しようという目的で作られたふたつの顔(強圧と慰撫)を持っていたものであることが分かります。当時、上海で中国人が撮っていた抗日映画に包囲されている状況下において、対内的にも対外的にも日本の当局者が植民地支配を正当化し対抗するための「宣伝」がどうしても必要とされて、そのひとつが「映画」だったにすぎず、内容的には、中国人への「日本教育」とか「飼い馴らし」にあったのであって、作品の質なんかは二の次、実際、日本の当時の批評家が、この「植民地映画」をまともに論じた(難詰した)ものも幾つかあって、ぼくたちはその惨憺たる評文を孫引きによって読むことができます。
日本国内にあって批評家たちに「満州映画」が箸にも棒にも掛からない愚作だと酷評されていたときに、はたして満映の撮影現場にあっても、意気消沈したり反省したり、みずからの無能さに失望したり自己嫌悪におちいったかどうか、
佐藤忠男の「キネマと砲聲」(岩波現代文庫)という本を読み始めたときに痛感したことがありました。
副題に「日中映画前史」とあるこの本は、満映を調べているいまの自分の調査にはまさに打って付けの本だと、飛びつきました。
自分は、中学のときに教えられた通り、新たな本を読む場合は、最初に「まえがき」を読み、「目次」を眺め、「あとがき」に眼を通してから、おもむろに本文を読み始めるというプロセスをずっと堅持・励行しているのですが、まあ、この本に「まえがき」(著者の執筆意図を知るうえでの早道とかつて教えられました)こそありませんでしたが、「目次」を見ると、書かれているのは、おもに中国映画全般にわたっていて(当然です)、「満映」について書かれている部分といえば、「7、『満州』に日本が夢の工場を作る」と「14、満映が活動する」のふたつの章でした。なるほど、なるほど。
そして、巻末の「著者ノート」には、衝撃的に一文がありました。
「私はこの本を、日中友好のために書いたのであって、現在の中国映画界に無用の波風を立てるために書いたのではない。何人かの中国の友人から、この点について憂慮に充ちた忠告を受けたが、この本を読んでいただければ私の真意は理解していただけると思う。日本の占領下に生きた中国映画人の苦難と苦悩の責任はすべて日本側にある。この本はその日本側において可能な限り中国に友情を保とうとした何人かの日本の映画人の存在を強調したが、だからといって日本人の全体の責任を軽減しようとはまったく思っていない。」
この文章には、映画「迎春花」に感じた「煮え切らなさ」と同質のものが脈々と受け継がれているような気がしました。
●満洲映画協会 全仕事
【1938年(昭和13年)】
★『壮志濁天』(1938満洲映画協会)原作・脚色・監督・坪井與、脚本・仲賢礼、撮影・大森伊八、
出演・王福春、鄭暁君、劉恩甲、張敏、戴剣秋、
匪賊に襲われ、肉親や親友を失った村の青年・劉得功は、匪賊首の馬徳堂を討つために満州国軍に入ることを決意する。恋人の瑞坤は得功を励ましたが、年老いた母や叔父は反対していた。しかし、吉林の第二軍管区に入隊した得功は、やがて伍長に昇進した。そしてある年の匪賊討伐でついに馬徳堂を倒した。得功も深い傷を受けたが、国防婦人会の看護を受けて間もなく治癒した。やがて除隊となって村へ帰ると、村人全員が彼を英雄として迎えた。
この作品は、仮スタジオ完成前のために新京郊外と吉林でのオールロケでほとんど作られた。元マキノ映画の撮影の大森伊八(元P・C・L)のほかは、監督の坪井與(元満州日報社記者)も含めてほとんど素人ばかりで、出演者も近藤伊與吉の特訓を受けた新たに募集したニューフェイスばかりだった。脚本を書いた仲賢礼は、政府の弘報処の役人で映画も満州国軍が活躍する軍の宣伝臭の強い作品になった。この作品は、劇場公開されず、縦貫映画に使われただけなので試作品というところ。嵐寛プロで山中貞雄と仕事(戸波長八郎、磯の源太・抱寝の長脇差)をしたカメラマンの藤井春美は、後輩吉田貞次に「あんなもの、映画のテイをなしておらん」と一蹴し、一度は渡満の要請を蹴ったものの、のちに吉田とともに満映に入社する。
★『明星的誕生』(1938満洲映画協会)原作・脚色・監督・松本光庸、撮影・竹内光雄、照明・松田藤太郎、
出演・何奇人、張敏、孟虹、曹佩箴、高翮、
田舎の青年男女が映画俳優に憧れ、都会に出て首尾よく俳優になることができた。その俳優生活は想像していたようなものではなく、明朗健全なもので彼らのその生活ぶりが展開されていく。坪井與とともに、満映に入社した松本光庸の作品で、彼はそれまで、満日新聞記者として映画評論を書いていた。
★『七功図』(1938満洲映画協会)監督・矢原礼三郎、原作・脚色・裕振民、撮影・杉浦要、
出演・高翮、季燕芬、孫李星、王宇培、劉恩甲、
孫仁の経営する選択屋で働く李意は、その店の娘小茹をひそかな思慕を抱いていた。孫仁は、失業している青年建築家の趙吉、そしてその友人の銭祥に家を貸していた。二人は家賃を払えずに困っているが、小茹は趙吉に同情していた。小茹は趙吉から、李意が自分の事を熱愛していることを聞かされた。
★『満里尋母』(1938満洲映画協会)原作・脚色・監督・坪井與、撮影・大森伊八、
出演・葉苓、郭紹儀、王丹、戴剣秋、
か弱い少年が、母を訪ねて、ただひとりの老人の庇護を頼りに流浪の旅を続け、ついに母にめぐり会う。ヴィクトル・マローの小説「家なき児」を坪井與が脚色し、主演の少年役には女優の葉苓が扮した。娯楽作品として主題歌が挿入され、レコードも吹き込まれた。
★『知心曲』(1939満洲映画協会)監督・高原富士郎、脚本・重松周、撮影・杉浦要、録音・井口博、
出演・杜撰、李鶴、季燕芬、劉恩甲、王宇培、
不良の趙国傑は、ダンスホールで働く恋人の梅麗に、まともな生活をするように説得され、これからは改心してまともになると心に誓った。国傑はある日、子供を轢いて逃げる自動車を目撃した。その自動車を張氏の家まで追うと、その正義心を張氏に惚れ込まれて彼の息子の家庭教師となった。その息子がギャングにさらわれる事件が起こったが、国傑と警官の活躍で解決した。負傷した国傑を看護するのは、国傑に思いを寄せる張氏の令嬢。貧しい花束を抱いて見舞いに来た梅麗は、国傑の将来を思い、身を引こうとした。しかし、国傑は、梅麗のアパートに帰ってきた。
それまで文化映画を撮っていた高原富士郎の始めての劇映画で、著書には「トォキィ技巧概論」1935がある。この映画をハルピンの映画館で見た岩崎昶は失望したと書いている、これが満映の傑作では困る、と。上映した館の支配人も大層不満で、彼からこんな感想を聞く。「満映の映画は、上海映画に比べて既に半分の価値しかない。そのうえ、その演出において何のリアリティも感じられない。スクリーンに展開されるアクションや会話について、そもそも満人はあのやうな場合にあのやうには言わない、あの身振りや心理の動きは、まったく日本的で不自然である」と個々に注釈をつけて不満をもらした。ぼくはそれを聞いていちいち頷ながら、いまさらのように満映の仕事の容易ならぬ難しさを思い知ったのだった。いまのところ、日本からどんなに優れたプロデューサーや芸術家が出かけていったとしても、すぐにこれ以上の仕事はできないに相違ない。しかも、満州の映画がこれであってはいけないこともはっきり分かっているのである。そこに満映の製作首脳部の苦悩がある。どんな国民でも、その生活様式や心理や感情の隅々までを知らずに、これを芸術に表現することは不可能である」
だから満映作品はダメだというこの風評に、今日出海は一石を投じます。
「文化などまるでない所、そもそも町の姿もろくに無かった所に町を建設し、文化を樹立しようとしてゐるのだ。内地から機構設備や工人をもたらして、内地並みの写真を作ろうと心がけて成功するとも思われない。五民族が、あるいは以上の民族がひとつの国家を作ろうというのに、文化のほうが先にできたなどというとんでもない話があるだろうか。(中略)一朝に建国の実が揚がったとは誰も思うまいが、個々のことになると進歩がない、それをもって文化が低いと断じるとは、どうしたことか。一朝にして成った文化など一体どんなものか、想像すらできぬではないか。(中略)思想が形象化する過程は複雑を極めている。映画は技術だという世迷言は撮影所人種の泣き言にすぎぬ。ぼくは監督たちにも会った。(中略)彼らは傑作を出さぬかも知れぬ。しかし要は傑作ではなく、こうした誠実が文化を支持する柱石であり、文化を育む温床であるということだ。」
★『大陸長虹』(1938満洲映画協会)原作・脚色・監督・上砂泰蔵、監督助手・周暁波、撮影・玉置信行、
出演・玉福春、杜撰、鄭暁君、季燕芬、
積鴻は不良の仲間に入り、警察署に留置されたりするので、妹の秀娟はいつも心配していた。積鴻は家に帰った晩、金を持ち出そうとしてあやまってランプの火から火事を起してしまう。秀娟は許婚の李慶恩に救われたものの、慶恩は悪徳警官の策略で放火犯として連行されてしまう。そこに満州建国となった。秀娟は賄賂の金を持って警察へ行ったところ、新国家の警官は正しい者の味方で賄賂など受け取らないと説諭された。慶恩も釈放され、みずからも警官になることを望み、新京の警察官訓練所に入った。妻となった秀娟を連れて、警官となった慶恩は、田舎町に赴任した。渡し舟で子供が溺れたのを慶恩が助けたことから、架橋問題が持ち上がった。やがて橋ができ、町の人々と慶恩夫婦の喜びは大きかった。
監督の上砂泰蔵は、同志社大から新興キネマに入り溝口健二、村田実、内田吐夢の助手を務め、「敵艦見ゆ」1934などを撮ったのち満映に入社した。
【1939年(昭和14年)】
★『蜜月快車』(1939満洲映画協会)監督・上野真嗣、原作・脚色・重松周、撮影・池田専太郎、録音・井口博、
出演・李香蘭、杜寒星、張敏、周凋、戴剣秋、馬旭儀、
子明と淑琴は列車に乗って新京から北京への新婚旅行に出発する。奉天で寝台車に乗り換えたところ、向かいのベッドの男は泥棒で、淑琴のトランクが盗まれてしまう。しかし、泥棒がベッドから転げ落ちてひと騒動おきる。子明と淑琴のあいだでも早くも痴話喧嘩がはじまる。列車が錦県駅に入ると、情婦を連れて北京に向かおうとしていた実業家の孫氏が、ヒステリーの夫人に見つかりひと悶着おきる。さまざまなトラブルを巻き起こして列車は北京へと走り続ける。北京に着いて、ふたりはようやく幸せになる。
李香蘭のデビュー作。大谷俊夫監督「のぞかれた花嫁」(日活多摩川作品)の翻案作品である。日本のB級映画を片っ端から換骨奪胎し満映映画を作った。質より量の、いわば大量生産体制の確立を象徴する一本である。監督の上野真嗣は上砂泰蔵とともに1937年満映に入社した。淑琴を演じた李香蘭は「デビュー作の辛かったこと、恥ずかしかったことは今でも忘れられない」と、自伝に記した。以後、5本立て続けに出演し、李香蘭は人気と名声を高める。そして昭和14年、東宝と提携した渡辺邦男監督「白蘭の歌」「熱砂の誓ひ」が、日本で公開された結果、満映の李香蘭の名は爆発的に高まった。しかし、このことによって、皮肉にも李香蘭は、あくまでも「中国人」でいなければならなかった。彼女の苦悩はここから始まった。
★『田園春光』(1939満洲映画協会)監督・高原富士郎、原作・脚色・山川博、撮影・杉浦要、
出演・李鶴、杜撰、張敏、崔徳厚、
満州の都市と田舎とが背景となり、若い男女の恋がついに田園に実を結び、地方農業の開発に力を注ぐ、満州の農村建設を謳った国策的恋愛映画。
★『國法無私』(1939満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、原作・脚色・楊正仁、撮影・池田専太郎、
出演・郭紹儀、李明、薜海樑、張敏、
法と愛情の岐路に立たされた検察官が、法のために全ての至上をなげうつ。満州国における法の神聖さを謳った水ケ江龍一の入社第一回作品。日活映画「検事とその妹」の翻案である。
★『国境之花』(1939満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、原作・脚色・楊正仁、撮影・藤井春美、
出演・隋尹輔、王麗君、王福春、徐聡、
青年アルタンの父母はソ連外蒙軍にスパイ容疑で射殺され、アルタンは叔父に連れられて内蒙で成長した。やがてアルタンは軍学校に入り、卒業すると見習い士官となって帰郷した。アルタンが思いを寄せている西宝が、アルタンの配属されている守備隊を訪ねた。その帰り、西宝は連行されソ連兵に守備隊に関してのことを尋問される。なにも答えない西宝は夜中に密書を奪って逃走した。その密書により某事件の企みが判明する。日本軍はその先手を打って勝利を収めることができた。アルタンも戦闘中に傷を負ったが、西宝が看病した。
★『富貴春夢』(1939満洲映画協会)監督山内英三・上野真嗣・鈴木重吉
〈プロローグ〉監督・鈴木重吉、脚本・荒牧芳郎、
〈第一話〉監督・山内英三、脚本・図斉与一、
〈第二話〉監督・上野真嗣、脚本・津田不二夫、
〈第三話〉監督・上野真嗣、脚本・長谷川清、
〈第四話〉監督・上野真嗣、脚本・木村能行、
〈第五話〉監督・上野真嗣、脚本・荒牧芳郎、
〈エピローグ〉監督・鈴木重吉、脚本・荒牧芳郎、撮影・藤井春美、
出演・李香蘭、杜撰、張敏、戴剣秋、
百万円という大金を手にした人々のさまざまな物語。第一話は、罪を犯した子と逞しい母親の愛情との双曲線。第二話は、いつも怒鳴られてばかりいる小僧が手にした百万円。第三話は、帝政時代をしのぶイワン将軍の儚い夢。第四話は、豪華な料理よりは焼き芋が大好物の大王少年。第五話は、百万円は手にしたが、その代わりに恋を失う・・・彼方の空中楼閣で、金の神と貧乏の神とが、それらの人々の姿を眺めては人間を幸福にするものはいったい何なのか、首をひねっている。
★『冤魂復仇』(1939満洲映画協会)監督・大谷俊夫、原作・脚色・高柳春雄、撮影・大森伊八、
出演・張書達、劉恩甲、李香蘭、周凋、
満映最初のお化け映画で勧善懲悪の意思を持つお化けが活躍する。佐藤忠男は「キネマと砲聲」で、当時の野口久光の「満映作品に望む」を紹介している。「ここにはアメリカ製喜劇の型をそのままに、李香蘭をヒロインに、張書達、劉恩甲をコメディアンに見立てた仕草をやらしている。ピンからキリまで、てんでアメリカ映画の模倣なのだ。ローレル、ハーディの二巻物の同じ単純な構成、いや全然これは二巻物の台本である。その二巻物の台本を九巻に撮ってしまったのだからたまらない。これが映画に訓練されていない満人大衆に理解させるための映画手法というなら、もう何も言う言葉はない。・・・日本は将来の満州国の幸福を約束しなければならないと同様、満州映画の芸術発展を全責任を持って当たらなければならない」(キネ旬「日本映画監督全集」の「大谷俊夫」項中、岸松雄の記述からの孫引き)
★『慈母涙』(1939満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、原作・脚色・荒牧芳郎、撮影・藤井春美、
出演・李明、張敏、李鶴、杜撰、崔徳厚、王宇培、周凋、趙玉佩、
美貌の歌手・李麗淬は、資産家の息子・曹鳳閣との子・兆鵬を産む。しかし、鳳閣は、麗淬との結婚を両親が許さない。そして鳳閣は曹愛茄と結婚させられてしまう。麗淬は、乳飲み子を抱えて吉林の友人を訪ねるが友人は既に転居していた。行く当てもなく吹雪の中をさまよったあげく倒れていた麗淬母子は成財夫婦に助けられる。わが子を成財夫婦に預け、麗淬は、奉天に働きに出る。八年たっても子宝に恵まれない鳳閣は、成財夫婦を騙して兆鵬を連れ去る。事情を聞いた麗淬は兆鵬を取り戻すが、しかし、兆鵬は成財夫婦になついており、麗淬にはなつこうとしない。麗淬は兆鵬の幸福を祈りながら、ふたたび北満へと働きに出てゆく。本作品は曽根純三監督「母三人」(新興キネマ)の翻案作品である。
★『真仮姉妹』(1939満洲映画協会)監督・高原富士郎、脚色・長谷川清、撮影・島津為三郎、音楽・長沼精一、
出演・李明、鄭暁君、王宇培、杜撰、張敏、徐聡、季燕芬、
吉林の片田舎、郁芬と郁芳の姉妹は年老いた母の手一つで育てられた。その母は、臨終の床で姉の郁芬に遺言書を渡し、それを妹に見せるように言い残して息絶えた。郁芬がその遺言書を盗み読むと、そこには妹がある大金持ちの娘で、郁芬の母はその乳母であることが記されていた。郁芬は遺言書を破り捨てると、ある日、母の告白により自分は金持ちの娘であることが分かったと妹に語る。姉の言葉を信じた妹の郁芳は、姉の留守にふと目にした新聞の尋ね人が姉のことと知り、その広告主に手紙を出す。やがて姉は周佑臣に引き取られ、そして佑臣の甥の李家璧と婚約する。しかし、かつての恋人の王琦が現れて郁芬に結婚を迫る。相手にされなかった王琦は、嵐の夜に郁芬を殺し、自らも命を絶った。死の間際、息も絶え絶えの郁芬は、皆に真実を話すと息を引き取った。
★『煙鬼』(1939満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、原作・坂田昇、脚色・中村能行、撮影・藤井春美、
出演・周凋、李顕廷、馬旭儀、季燕芬、張翊、徐聡
銀行員をしている依健章の娘小菊は周家に嫁ぐ。しかし、周家は阿片屋の王某に借金があり、父の健章は、そのために不当貸付をし、自らも阿片屋へと入っていく。小菊は虐待から逃れるために家出をし、戒煙所に勤める。健章の息子・萬年は警官だが、父の不始末に耐え切れず辞表を出す。しかし、所長に諭されて思いとどまる。健章は、王某から逃れることができずに、ケシ畑の管理をさせられている。やがて萬年の所属する警官隊がここを襲い、健章は死ぬ。萬年は父の死を悲しみながらも、阿片の害悪と闘う決意を新たにする。題名の「煙鬼」とは阿片患者のこと。満州の阿片断禁政策を強調するための吉林省からの委嘱作品で公募脚本を助監督・古賀正二が手を加えた。
★『東遊記』(1939満洲映画協会・製作提携・東宝映画)監督・大谷俊夫、原作・脚色・高柳春雄、撮影・大森伊八、
出演・劉恩甲、李香蘭、霧立のぼる、原節子、高峰秀子、藤原釜足、沢村貞子、小島洋々、
満州の片田舎に住む陳と宋は、東京で華やかな生活を送っている友人・王からの手紙に心躍らされ東京へ行く決心をする。東京へ着くとサンドイッチマンの仕事をしながら友人・王を探す。やがてあたりの仕事が認められて化粧品会社の宣伝の仕事につき、美人タイピストの麗琴が通訳として付けられる。その後、二人は昭和映画の俳優となり、ある日、満州料理店で王と出会う。通訳の麗琴は王の妻の姉であり、しかも日本人の愛人がいることが分かった。その麗琴の結婚を機に、二人はふたたび満州へ帰って働くことを決意した。満州国民に日本を紹介する目的で、当方の協力の下に作られた。日本公開は1940年。
東遊記 1939満映系 李香蘭
★『鐡血慧心』美しき犠牲(1939満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・高柳春雄、撮影・杉浦要、
出演・李香蘭、趙愛蘋、姚鷺、劉恩甲、杜撰、隋尹輔、李顕廷、
密輸業者を討伐する警士の献身的な活躍を描く。1941年「美しき犠牲」の題名(日本映画貿易株式会社提供)で日本でも公開された。山口猛の「幻のキネマ・満映-甘粕正彦と活動屋群像-」(平凡社)19頁には、日本公開時のポスター(大写しの李香蘭)を掲載していて、その本文の解説では中国における「満映」の微妙な立場に言及している。
《戦前のプロキノ運動の中心的メンバーであり、満州の製作に関係して、戦後もジャーナリストとして活躍した北川鉄夫(当時は西村隆三と名乗っていた)は、はっきりと言い切っている。「『満映』は日本の映画史における恥部である」と。一方この満映作品については、今日見ることができないこともあり、評価をすることは難しい。ただ、当時の一般的な作品評価はきわめて低く、「映画旬報」でも、酷評に近いものが多い。たとえば「鐡血慧心」にしても、「映画旬報」(昭和16.10.21号)では、「すぐれた映画を紹介するのが輸入業者の公徳心ならこの作品は輸入しない方がいい」、さらには「この映画の内容は粗悪」とまで評されている。ならば、満映は芸術性とは無縁だったのかといえば、これには、はっきり「否」と答えることができる。・・・いわば、満映の芸術的価値は、その時点で結実しなくとも、未来ということでは、大きな貢献をしたのである。国内的には、内田吐夢、加藤泰から吉田貞次、坪井誠といった、日本を代表するまでになる多くの監督、技術者を生み出したことを見れば十分だろう。のみならず、中国に対してでも、その後の中国映画に旧満映の人々が及ぼした影響は大きなものがある。すでに、彼(亡くなる一年程前の八木保太郎)には、かつての豪傑の面影はなく死因の直接的な箇所である足がかなり痛そうで、話すのも辛そうだった。それでも、満映について、彼は悲痛にこう叫んだ。「あそこの写真は違うんだ!」日本人が関わりながら、中国人のための映画制作をしている奇妙さ。できあがった国籍不明の混血児とも言うべき作品。ここで、彼は筆を取ることなく、製作事務に励んでいた。だが、八木は、思想では正反対であるはずの甘粕の信奉者であることを隠そうともしなかった。不思議なことに立場として正反対にいる人も、八木同様、ほとんど例外なく、この甘粕正彦に対して親近感を示す。「満映は恥」とする北川鉄夫でさえ、甘粕が魅力的であることを否定しないどころか、「人物の大きさは首相級」と、人間的魅力を、むしろ誰よりもよく語っているほどである。こうした矛盾。それは満映という国策映画会社のもつ本質ではなかったのだろうか。満州という侵略国家の中の文化的象徴としての満映、橋頭堡としての満映が、片や中国人の映画を育て、密接な人間関係が成立してしまった。満映には、そうした矛盾が、至るところに渦巻いていたのである。右翼や軍人に対してはもちろん、左翼の人々に対しても、驚くほど深い洞察力を持っていた甘粕正彦に、それは凝縮していたかもしれない。》
鉄血慧心 1939満映系 李香蘭
★『白蘭の歌 前篇』製作・森田信義、演出・渡辺邦男、製作主任・斎藤久、脚色・木村千依男、原作・久米正雄、撮影・友成達雄、音楽・服部正、演奏・P.C.L.管弦楽団、主題歌・「白蘭の歌」(詞・サトウ・ハチロー、曲・竹内信幸、歌・伊藤久男、二葉あき子)、「いとしあの星」(詞・久米正雄、曲・服部良一、歌・渡辺はま子)、装置・北猛夫、録音・鈴木勇、照明・岸田九一郎、編集・岩下広一、満語監修・首藤弘、製作=東宝映画(東京撮影所)1939.11.30 日本劇場 2,128m 78分 35mm 白黒
出演・長谷川一夫(松村康吉)、斎藤英雄(次弟 徳雄)、中村英雄(末弟 克之)、中村健峰(三人の父)、山根千世子(三人の母)、山根寿子(松村京子)、霧立のぼる(松村杏子)、悦ちゃん(悦子)、清川虹子(芸者歌丸)、高堂国典(建設局長 八丁)、小杉義男(康吉の親友 秋山三郎)、御橋公(康吉の叔父)、江波和子(その娘)、榊田敬治(移民村団長)、谷三平(移民村の隣人 世話役安田)、加藤欣子(その女房)、原文雄(測量隊長 大森)、大杉晋(隊員 鈴木)、手塚勝巳(隊員 三浦)、李香蘭(李雪香)、王宇培(雪香の父 李苑東)、崔徳厚(李苑東の義弟 程応棋)、徐聡(その息子 程資文)、趙書琴(下婢)、芦芸庭(趙祐臣)、李林(苦力場)、張翊(山荘の下男)、薫波(密偵)、宋来(敗残兵A)、当波(敗残兵B)、華愚(敗残兵C)、進藤英太郎(義勇軍訓練所長 後藤)、小島洋々(満鉄総裁)、生方賢一郎(副総裁)、藤田進(満鉄理事)、藤輪欣治(満鉄理事)、柏原徹(満鉄理事)、江藤勇(運輸局長)、伊藤洋(文書課長)、横山運平(下男)、三條利喜江(カフェーのマダム)、
★『白蘭の歌 後篇』
製作・森田信義、演出・渡辺邦男、製作主任・斎藤久、脚色・木村千依男、原作・久米正雄、撮影・友成達雄、音楽・服部正、演奏・P.C.L.管弦楽団、主題歌・「白蘭の歌」(詞・サトウ・ハチロー、曲・竹内信幸、歌・伊藤久男、二葉あき子)、「いとしあの星」(詞・久米正雄、曲・服部良一、歌・渡辺はま子)、装置・北猛夫、録音・鈴木勇、照明・岸田九一郎、編集・岩下広一、満語監修・首藤弘、製作=東宝映画(東京撮影所)1939.11.30 日本劇場 1,812m 66分 35mm 白黒
出演・長谷川一夫(松村康吉)、斎藤英雄(次弟 徳雄)、中村英雄(末弟 克之)、中村健峰(三人の父)、山根千世子(三人の母)、山根寿子(松村京子)、霧立のぼる(松村杏子)、悦ちゃん(悦子)、清川虹子(芸者歌丸)、高堂国典(建設局長 八丁)、小杉義男(康吉の親友 秋山三郎)、御橋公(康吉の叔父)、江波和子(その娘)、榊田敬治(移民村団長)、谷三平(移民村の隣人 世話役安田)、加藤欣子(その女房)、原文雄(測量隊長 大森)、大杉晋(隊員 鈴木)、手塚勝巳(隊員 三浦)、李香蘭(李雪香)、王宇培(雪香の父 李苑東)、崔徳厚(李苑東の義弟 程応棋)、徐聡(その息子 程資文)、趙書琴(下婢)、芦芸庭(趙祐臣)、李林(苦力場)、張翊(山荘の下男)、薫波(密偵)、宋来(敗残兵A)、当波(敗残兵B)、華愚(敗残兵C)、進藤英太郎(義勇軍訓練所長 後藤)、小島洋々(満鉄総裁)、生方賢一郎(副総裁)、藤田進(満鉄理事)、藤輪欣治(満鉄理事)、柏原徹(満鉄理事)、江藤勇(運輸局長)、伊藤洋(文書課長)、横山運平(下男)、三條利喜江(カフェーのマダム)、
満鉄の優秀な技師・村松はが熱河の豪族の娘と恋に落ち、上司の娘や父が遺言で薦めた養女との縁談も断る。長谷川一夫と初共演の李香蘭は、生粋の満州娘として登場し、大陸の理想化されたイメージと一体化して絶大な人気を博した。長谷川一夫にとっては東宝入社以来、初めての現代劇だった。
☆あるサイトで「白蘭の歌」を東宝との提携作品と表示しているものがありましたが、jmdbによると、どうも「製作=東宝映画(東京撮影所)」らしく、あきらかに「製作・提携東宝映画」は誤りのようですが、満映映画の常連俳優が多数参加しており、満映にとっても重要な重要な作品だと思うので、当一覧に加えることにしました。
白蘭の歌・前後篇 1939東宝系 李香蘭
【1940年(昭和15年)】
★『愛焔』(1940満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・楊葉、撮影・遠藤灊吉、
出演・李明、李顕廷、王福春、趙愛蘋、
李警士の妹・素雲は村の豪農の息子・王景福の児を産むが、王の両親は二人の結婚を許さない。素雲は子どもを他へ預け、新京で看護婦となって働く。しかし、留守中に子どもは病死してしまう。そして王には別の女との結婚話が持ち上がっていた。警士は妹を思って王の両親に結婚を許してくれるよう頼むが無駄だった。王の結婚式の日がきた。なにも知らない素雲は、子どもと王に会うのを楽しみにかえってきた。恋人に裏切られたことを知った素雲は、思い余って王の家に放火してしまう。やがて兄の言葉に従い、墓に眠る子供に別れを告げると、裁きを受けるために自首して出るのだった。
★『現代日本』(1940満洲映画協会)監督・脚本・大谷俊夫、撮影・杉浦要、
出演・周凋、隋尹輔、徐聡、白玫、中田弘二、風見章子、日暮里子、
宋と陳は、それぞれ満州国と中華民国の村長をしている。そして宋の息子・英福、陳の娘・桂芳もそれぞれに日本に留学中である。恋人同士のふたりの誘いで、宋と陳は日本見物の旅に出る。一緒に神戸に着いた宋と陳は、英福と桂芳の案内で神戸、大阪、奈良、京都と見物し、日本の美しさに感心する。旅はさらに名古屋、東京へと続く。東京では、皇紀二千六百年紀念の祝典の真っ最中で、宋と陳はすっかり日本通になる。英福と桂芳の結婚も手っ取り早く取り決めると、飛行機に乗って帰国の途についた。
★『如花美眷』(1940満洲映画協会)監督・脚本・荒牧芳郎、撮影・池田専太郎、
出演・郭紹儀、隋尹輔、白玫、陶滋心、
身寄りのない麗仙と麗英の姉妹は楊家に引き取られて生活していた。楊家には会社員の兄・克勤と絵の勉強のために洋行している弟・克明がいた。克勤と麗仙とは相愛の中だったが、克明が帰国すると麗仙の心は克明に移っていった。克勤は二人の仲を知って、自ら東辺道の支社へと転勤していった。麗仙は克明と結婚したが、克明の放蕩、そしてむかしの愛人の出現から悲観のあまり家出をする。しかし、克勤に諌められてふたたび固く結ばれる。やがて克勤も麗英と結ばれて新しい生活を始めた。
★『情海航程』(1940満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・熙野(八木寛、長畑博司、張我権)、撮影・藤井春美、
出演・徐聡、季燕芬、白玫、崔徳厚、
王世寛は、幼少のころに両親を失い、張家の世話を受けていた。世寛を見込んだ張家は、世寛が大学を卒業したのち、娘の素琴と結婚させることを約束して、彼を日本へ留学させた。世寛がいなくなったのを幸いに、かねてより素琴に横恋慕していた李永禄は金の力で無理やり素琴と結婚してしまう。世寛は、急いで帰国したものの学生の身分では何もできるはずもなく、自暴自棄になって、高利貸・鄭夫人の手先となった。素事の夫は放蕩三昧の生活から、商売も破綻、世寛より金の援助を受けることになる。そして世寛の悪辣さに逆上し彼を射殺しようとするが、素琴に阻まれてかえって自ら死んでしまう。素琴も自責の念から命を絶とうとするが救われる。病床の素琴を前に、世寛はふたたび人生に幸福を見出す。日満脚本家共同による第一回作品で、熙野は三人の共同のペンネーム。満映が洪熙街にあったことに由来する。なお坪井與の記録では、荒牧芳郎の脚本とある。
★『誰知她的心』(1940満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・熙野(八木寛、長畑博司、張我権)、撮影・谷本精史、
出演・葉苓、王麗君、李顕廷、白玫、
小英は、周家の女中として働いていたが、きれいな着物も着られず、化粧ひとつすることのできない今の境遇が情けなく、周家の娘のような令嬢生活に憧れていた。折りしも周一家が旅行に出ることになり、広い豪邸の留守を預かる女中の小英と王媽のふたりは、伸び伸びとした日を迎える。周家の娘の着物を着てすっかり令嬢気取りの小英を、趙喆生は周家の令嬢と誤解して、ふたりの仲は急速に発展する。小英が本当のことを言い出すことができないうちに、とうとう一家が旅行から帰ってくる日がきた。騙されたことを知った趙喆生は怒り、小英も田舎に帰る決心をする。しかし、一度は起こった趙喆生も純情な小英が犯した夢を許して、改めて彼女の手を固く握りなおすのだった。周暁波に次ぐ満州側の二人目の監督による作品。
★『有明自遠方来』(1940満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・張我権、撮影・藤井春美、
出演・徐聡、杜撰、白玫、李鶴、陶滋心、
徐緩と佩娟の新婚家庭に、徐緩の同窓で鉱山師として山を渡り歩いている豪傑の趙自強が突然闖入してきた。この闖入者、一日中酒ばかり飲み、酔うと金鉱主の令嬢を助けた武勇談を繰り返す。二人は夫婦喧嘩の芝居をしてなんとか追い出そうとするが、俺が新しい女房を世話すると言い出して佩娟を追い出し、金鉱主の令嬢秀敏との見合いの段取りまでする。見合いの席上、徐緩は白痴を装って難を逃れると、金鉱主は娘の結婚相手は趙自強と決め、押し問答となる。さすがの豪傑も困ってふたたび鉱山に逃げ去り、徐緩と佩娟にも甘い新婚生活が戻ってきた。
★『風潮』(1940満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、撮影・谷本精史、
出演・張敏、徐聡、季燕芬、趙愛蘋、
女工の小香は、社長の弟である俊明と相愛の仲だった。やがて二人は結婚、娘雪苓も生まれて楽しい日々を送っていた。しかし、俊明が研究のために日本へ行っているあいだ、財産目当てから二人の結婚にも反対した社長の妾は、小香に姦通の濡れ衣を着せ、家から追い出してしまう。小香は雪苓を同善堂に預けると自活の道を求めた。それから二十年、雪苓は同善堂で乳児の世話をしながら、女学校に通っている。雪苓の学友美英の兄紹華は、雪苓との結婚を望んでいるが、両親から素性のはっきりしない女はダメだと反対されている。美英の乳母となっている小香はそれを知って、同善堂長を通じて雪苓が俊明の子であることを知らせる。やがて、雪苓と紹華の結婚式の日がくる。小香は母と名乗れぬ悲しみを胸に二人の幸福を祈っていた。満州側監督・周暁波による初めての作品で脚本もオリジナル。
★『芸苑情侶』(1940満洲映画協会)監督・大谷俊夫、脚本・荒牧芳郎、撮影・池田専太郎、
出演・季燕芬、白玫、杜撰、徐聡、周凋、
憧れの新京での舞台を目前にして、火災のために解散した旧劇芝居の一座の花形女優李碧雲は、育ての親である陳百歳、それに蘭芳、連栄とともに自分を捨てた両親を探しに新京にきた。碧雲は連栄を愛していたが、連栄は蘭芳に心惹かれていた。しかし、蘭芳は苦しい生活から逃れるため金持ちの元へ走った。残った二人の生活もいよいよ窮した。しかし、運良く碧雲の美声が放送局に認められ、専属となって放送されたことから両親ともめぐり会うことができた。碧雲は李家に引き取られることになったが、幼いときから辛酸をともにした一座の人々と芸への執着を諦められず、両親の許しを得て一座を再興する。そして、一座の憧れであった新京の舞台を踏む日がきた。
★『流浪歌女』(1940満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・楊葉、撮影・福島宏、
出演・李明、陶滋心、李顕廷、戴剣秋、周凋、
淑玲、淑瑯の姉妹は、瞼の母に逢える日を唯一の楽しみとして、冷酷な呉のもとで太鼓叩きの芸人として働いていた。内気なふたりだったが、呉が淑瑯を売り飛ばそうとしたのに堪りかね、呉のもとを逃れる。そして妹は盲目の姉の手を引き、奉天にいるという母を探し求めて流浪の旅に出た。歌をうたって僅かな稼ぎを得ながら苦しいたびを続けるふたりは、ときには諍いを起こしながらも遂に母にめぐり会い、薄幸のふたりにもようやく楽しい日々が訪れる。
★『人馬平安』(1940満洲映画協会)監督・高原富士郎、脚本・中村能行、周藍田、撮影・福島宏、
出演・劉恩甲、張敏、張書達、王麗君、呼玉麟、
城内の裏長屋に住む馬車夫の張は、酒好きで仕事嫌いのその日暮しをしていた。今朝も女房に叩き起こされて仕事には出たものの、人通りの少ないところを選んで流すので客はさっぱり寄り付かない。ところがある夜、酔っぱらいの客が代金のかわりにおいていった籤が一万円の当選と分かり、有頂天になって豪遊する。しかし、家に帰ると、女房から番号が一桁違うと教えられ今度は真っ青になる。それからは心を入れ替えて真面目に働くようになった。懸命に働いたので生活にも余裕ができてきた一年後、女房が突然張の前に一万円を差し出す。あのときに張が一万円を握ったらますます怠け者になると思って女房が嘘をついたのである。同時に子供ができたことを知らされ、張はもっと精を出して仕事をするのだった。高原富士郎の始めての喜劇作品。
★『王属官』(1940満洲映画協会)監督・高橋紀、藤川研一、原作・牛島春子、脚色・高柳春雄、撮影・杉浦要、
出演・趙剛、王三、馬雪筠、張剣秋、
満州建国後、日も浅い頃、属官の王文章は恋人麗英の待つ故郷へ帰ってきた。この村ではまだ地方官吏が税金を不当に徴収するなどの横暴が行われている。麗英の父も娘に人並みの結婚をさせてあげたいばかりに趙牌長の手先となって不正を働いている一人である。不正に気がついた王は麗英との結婚を延期して急ぎ帰任した。発覚を恐れた趙は虚偽の報告書を提出したものの、非を悔いた王の父が一味の名簿を盗み出して王に手渡そうとした。しかし、一味に見つかって半殺しの目にあい、名簿を麗英に渡すと息絶えた。証拠を手にした王は一味を検挙して事件は解決する。王は喜びのむんみんに迎えられ、麗英と結婚式場に向かった。新聞に連載されて好評を博した小説が原作。作者の牛島春子は満州国官吏夫人。新京の大同劇団によるユニット出演作品。
★『新生』(1940満洲映画協会)監督・高原富士郎、原作・姜学潜、脚色・周藍田、撮影・遠藤灊吉、
出演・董波、劉恩甲、徐聡、孟虹、
青年訓練所の出現は、昔ながらに営々と働く老人たちの間では、反対の声が多かったが青年たちからは大いに歓迎された。その青年訓練所を卒業した王維国、章郎、呉漢の三人が村に帰ってきた。そして彼らによって奉仕隊が組織されて各地の刈入れなどに派遣されると、青年たちの心もようやく老人たちに通じた。派遣地では、そこで知り合った村の娘・毛蘭香と呉漢との結婚が発表された。満州の協和会青年運動を描いた作品。
★『現代男児』(1940満洲映画協会)監督・脚本・山内英三、撮影・池田専太郎、藤井春美、
出演・杜撰、崔徳厚、陶滋心、王影英、
自動車修理工の梁国平は国兵徴兵検査に合格、妻の雪英に励まされて入営する。国平の田舎の地主は国平の妹・小麗に思いを寄せているが、その思いが叶わないので、梁一家に恨みを抱いていた。刈入れの季節が来て、梁一家も家族総出で野良仕事に励むが、兄の国英が病気で働けないために、なかなか捗らない。そこへちょうど帰郷した国平も刈入れを手伝うが、帰営時間に遅れてしまう。わけを聴いた体調の情けで翌日に特別休暇が許される。帰郷してふたたび刈入れに精を出ていると、隊長と戦友たちが手伝いにきてくれた。またたくまに刈り入れは進んでいった。夕陽の沈む頃、刈入れを終えた国平は感激の涙を浮かべて村民に送られ戦友たちと兵営に帰っていった。
★『地平線上』(1940満洲映画協会)監督・脚色・荒牧芳郎、原作・宮本陸三、撮影・谷本精史、
出演・劉白、王潔衷、白苹、馬黛娟、
レンガ積みの現場で働く苦力頭の郭は忠実に黙々と仕事をしていたが、もうひとりの苦力頭の修は事業主に賃金の値上げを要求していた。その修の横恋慕に、現場監督の楊と郭の娘・蘭光の恋は急速に進展する。賃上げ要求が通らず、恋にも破れた修は、手下の苦力を連れて現場から引き上げてしまう。困った楊が郭に相談すると、郭は徹夜してでも工事を期日までに仕上げることを約束した。ある日、楊が銀行に工事の金を受け取りに、蘭光と一緒に楽しそうに歩いていく姿を見た修は、銀行の帰りを狙って大金を奪おうとする。王は重傷を負いながらも現場まで逃げ帰るが、金を井戸に投げ込むと息絶える。犯人は修とにらんだ郭は、井戸の金を取りにきた修を待ち伏せし、格闘の末に修を射殺。しかし、郭もまた修の銃弾に倒れた。
★『大地秋光』(1940満洲映画協会)監督・島田太一、脚本・高森文夫、撮影・南田常治、
出演・崔徳厚、李顕廷、李景秋、葉苓、
農夫の崔は、古い頭の持ち主で、息子の明徳が勧める新しい耕作法には耳を貸さず、依然として昔ながらの農法に頼っていた。一方、李はそれとは正反対で、県の技術員の指導を受けて積極的に科学的な農法を取り入れていた。李の娘・小蘭は、親同士が両極端ながらも明徳とは仲が良かった。秋の収穫、李は賞状を受けるほど豊作だったが、崔の家はさんざんで、家畜も病気になっていた。目の前のどうすることもできない現実には、さすがの崔も考えを改めないわけにはいかなかった。そして、来年からは新しい農法に切り替えていくことを明徳と小蘭のふたりに誓うのだった。
★『劉先生回顧』(1940満洲映画協会)監督・山内英三、撮影・遠藤灊吉、
出演・崔徳厚、安琪、葉苓、趙愛蘋、
劉は立派な腕を持つ彫刻の職人だったが、賭博に夢中になり、今日も祭りに着せる娘・素琴の着物を質に入れてしまった。母親の王梅が、娘の着物を質から出してくれるよう別の質草を都合したのだが、途中に賭博場が立っていることを知ると、ふらふらと入り、無理して工面した金をすべて使ってしまった。金に窮した劉は素琴を抵当にして高利貸しから金を借りる。しかし、期日が来ても劉には返すあてがない。素琴は父の素行と一家を救うために自ら身を売る決心をする。それを聞いた素琴の恋人・宋は、自分の蓄えで素琴を救う。ようやく自分の過ちに気づいた劉は、ふたたび仕事に腕を振るう決意を新たにするのだった。
★『都市的洪流』(1940満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、撮影・島津為三郎、
出演・杜撰、孟虹、鄭暁君、王宇培、
鳳姐は、町の金貸しの手代・李四に借金のかたとして連れて行かれることになった。鳳姐は恋人の小三子も連れて行くことを条件に村を離れた。李四の主人で好色漢の林は、さっそく鳳姐を自分の女中にしてちょっかいを出す。虚栄に目のくらんだ鳳姐は、やがて放蕩ナ生活に溺れていく。金の魅力に負けて恋人を棄て林と結婚した林太太は鳳姐の出現で自分の座を奪われることとなり、同じく自棄になっている小三子と不倫の関係に陥る。数年後、爛れ腐敗した生活に疲れた鳳姐と小三子は、むかしの二人に戻って村に帰ろうとするが、鳳姐は、いまの自分にその資格がないことを書き残して姿を消した。小三子は彼女が残していった着物を抱え、丘の上に立ち尽くしていつまでも鳳姐の呼び続けた。
★『胖痩閙三更』(1940満洲映画協会)監督・脚本・新田稔、撮影・谷本精史、
出演・那娜、劉恩甲、張書達、
二巻ものの短編喜劇
★『黎明曙光』(1940満洲映画協会・製作提携・松竹、大同劇団)監督・山内英三、原作・脚色・荒牧芳郎、撮影・遠藤灊吉、
出演・季燕芬、徐聡、笠智衆、周凋、杜撰、西村青兒、王宇培、惆長渹、
満州建国当時、東辺道にて匪賊絶滅工作のさなかに殉職した警察官・清水裕吉の物語。松竹との提携第一回作品。満映初のオーンプンセットが組まれた。満州帝国国務総理製作指定作品、満映・松竹・大同劇団提携映画。ポスターには、「建国の聖業に当たり、烈々たる精神を以って人柱となりし英霊は、いま、安らかに眠る。王道楽土の国の礎は永遠に堅く、その栄光は銀幕に燦たり」とある。
支那の夜・前後篇 1940東宝系 李香蘭
熱砂の誓ひ 1940東宝系 李香蘭
孫悟空 1940東宝系 李香蘭
【1941年(昭和16年)】
★『籬畔花香』(1941満洲映画協会)監督・宋紹宗、脚本・熙野(八木寛)、撮影・島津為三郎、
出演・張静、劉潮、杜撰、王影英、張敏、孟虹、
魏雄飛は、童養媳婦児(他人の娘を幼少のときよりもらって女中として使い成長の後、息子に娶る妻のこと)の小鈴を嫁にもせずに、情婦を引っ張り込んでいた。ある日、情婦に愛想をつかされた雄飛は、小鈴に挑みかかるが、小鈴は魏の家を逃げ出し、李の家の門前で気を失って倒れてしまう。しかし、李の娘・敏華に助けられ、やがて李家の女中として働くようになった。夏になると李の息子・頌華が新京の大学から帰郷してきた。小鈴と頌華の二人はやがて離れられぬ間になっていった。小鈴が李家にいることを知った雄飛は図図しく金をせびりにきた。そして小鈴がすでに頌華の子供を孕んでいることを知ると、それをタネに李夫人をゆすった。はじめて事情を知った李夫人は、臨月の小鈴を追い出してしまった。頌華を頼って新京に出るが、急いで帰郷する頌華と入れ違いになり、旅館で産気づいて倒れる。小鈴のお産は重かったが、孫の顔を見て李夫人もようやく二人の結婚を許した。
★『她的秘密』(1941満洲映画協会)監督・脚本・朱文順、撮影・島津為三郎、
出演・王麗君、徐聡、隋尹輔、呉菲菲、
梅雪音の父は、彼女を金持ちの尊重の息子に嫁がせようとして田舎に呼び寄せた。しかし、雪音は、家を飛び出して恋人・程大鵬のもとへ走った。大鵬の父が病死すると程の家は没落した。大鵬も学業を続けることができなくなった。かねてより大鵬に思いを寄せる歌手の宋丹馥は彼に学費を援助することで結婚を迫った。大鵬は断ったものの、それを知った雪音は、大鵬の将来を思って姿を消した。大鵬は宋丹馥と結婚した。それから二十年、大鵬とのあいだに雪音が生んだ子・懐音は、大鵬のもとで立派な青年となり結婚の話も進んでいる。大鵬は偶然に新京で雪音に出逢い、再びむかしの思いが甦る。それを知った懐音の結婚相手の親は、縁談を拒否してきた。懐音は自分の母親とも知らずに雪音を責める。雪音は何事も語ることなく再び身を引く。懐音の結婚式の夜、雪音が着とくとの知らせが届いた。懐音は大鵬と病床に駆けつけるが、懐音から「お母さん」と呼ばれるのを聞きながら、雪音は静かに息を引き取った。
★『雙妹涙』(1941満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・安龍斉、
出演・季燕芬、馬黛娟、隋尹輔、
李栄春は白華と相愛の仲だったが、白華の父から貧しさゆえに結婚を反対され新京へ働きに出る。白華は李を追って新京へ向かうが、すでに李は引っ越したあとだった。白華は百貨店に勤めながら、李を探すことを決めると、そこで同年輩の秀蘭と仲良くなった。李はある工場で働いていたが、その隣が病む祖父を抱えた秀蘭の家だった。親切に面倒を見てくれる李を秀蘭は兄と呼び、その噂を白華にもするのだが、白華はそれが李であるとは知らないでいる。秀蘭の祖父はやがて秀蘭を李に託して息を引き取る。しかし、今度は李が過労のために倒れる。秀蘭は自分のみを犠牲にして李を入院させようとすると、それを知った白華は彼女を助け、そして、兄と呼ばれている人が李であることを初めて知る。しかし、李は二人に見守られつつ息絶える。白華と秀蘭は互いに力を合わせて職場に生きることを誓い合った。
★『新婚記』(1941満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・熙野(八木寛)、撮影・福島宏、
出演・劉恩甲、白玫、李景秋、
関克武は社長の娘・宵音と結婚したが、お嬢様育ちの宵音は、気の弱い克武をこきつかう。田舎の父から訪問するという便りに、惨めな生活を見られたくない克武は、同僚の張に相談する。張は、家庭での暴君的な亭主振りを克武に見せ付けるが、しかし、実は張も恐妻家で腕時計を買ってやるという約束で妻と一芝居演じたのだった。克武は宵音に哀願して、やっと父を安心させて田舎に返すことができた。ある夜、社宅の隣組精神を宵音が冒涜したことから、日頃から苦々しく思っていた同僚たちの怒りが爆発した。社長の娘だからと躊躇する主任を押し切り、克武を後押しして宵音を懲らしめる。宵音は起こって実家に帰ってしまうが、かつて恐妻家だった父親に諭され、ようやく自分の非を悟った。晴れた日曜日、隣組同士のピクニックでは、皆が明るく合唱した。坪井與の記録では、脚本の熙野は、八木寛、張我権、長畑博司の三人の共同になっている。
★『天上人間』(1941満洲映画協会)監督・周暁波、脚本・張南、撮影・遠藤灊吉、
出演・季燕芬、杜撰、陶滋心、張奕、
蹴球の選手・呉廷玉は、妹の友人である趙芸芳と愛し合っている。しかし、芸芳の父母は、彼女の卒業を待って従兄と結婚させるつもりでいる。やがて学校を終えた芸芳は耐え切れずに家出して廷玉のもとに走る。二人の固い決意に両家は結婚を許すことにする。ところが、子供もでき、平凡な家庭生活が訪れると、廷玉は飽きてしまい茶社の歌手・艶紅に心引かれ、毎日のように通うようになる。彼女にそそのかされてハルピンに駆け落ちした廷玉は艶紅と情夫の孫根に計られて金を巻き上げられ、阿片密売者の汚名を着せられることになる。ハルピンに駆けつけた廷玉の父の力で無実が判明し、一方、艶紅と情夫の孫根は捕らえられた。悪夢から覚めた廷玉は病床の妻に心から詫びるのだった。
★『雨暴花残』(1941満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・劉果全、撮影・島津為三郎、
出演・李顕廷、張静、趙愛蘋、劉潮、鄭暁君、
東京で二年余りの研究を積んで新京へ帰った新進の画家・汪仁良は、自分を待っているはずの愛人・桂芳が、親友の作家・週明敏と同棲していることを知った。汪は、桂芳のために身を引く決意をするが、実は桂芳はいまでも汪を愛し、気弱さから執拗な周の誘惑に勝てないでいるのだった。汪は周に桂芳を託して去っていった。やがて周は自分の戯曲があル劇団によって上演されるようになり、その劇団の女優・麗娜と深い仲になる。身重の桂芳は、周の心を再び取り戻そうとするが、病に倒れてしまう。桂芳の友人・玉華からの知らせを受けた汪は、新京へかけつけると、死に瀕している桂芳を前に、誓いを破った周を激しく責めた。自分の非を思い知らされた周は、悄然と雨の中を去っていく。そのとき、麗娜を周に奪われた劇団員の俳優の刃に刺されて倒れる。その頃、汪と玉華の看病も空しく桂芳は息絶えた。
★『巾幗男児』(1941満洲映画協会)監督・王則、脚本・梁孟庚、撮影・遠藤灊吉、
出演・王麗君、李顕廷、張奕、戴剣秋、張敏、
小珍珠は母をつれて父を訪ねるため、父・張国祥のいる炭鉱の鉱夫募集に、男装して応募する。採用された小珍珠は父母と一緒に暮らすようになるが、しかし、賭博好きの父はいつも借金のために料理屋の馬二虎から責められている。ある夜、小珍珠は馬に女であることを見破られ脅迫されて馬の店で女給として働かされた。組頭の斉は、馬と共謀して鉱夫への配給品を私腹におさめていたが、それも露見する日がきて、呉大福が組頭になった。小珍珠にしつこく言い寄る馬は、呉大福に倒され、呉大福は初めて小珍珠の男装の秘密を知る。そして二人の間には幸福が訪れた。
★『運転時来』(1941満洲映画協会)監督・高原富士郎、原作・鈴木重三郎、脚色・張我権、撮影・池田専太郎、
出演・劉恩甲、張書達、季燕芬、
仲の良い街頭商人の劉と張は、茶社の女・蘭芳の気を引こうと、商売に身が入らないほどお互いに張り合っている。挙句の果てに一攫千金を夢見て北満の鉱山に出かけるが、山の酒場に蘭芳とそっくりの鳳珍がいて、二人はここでも張り合うことになる。大晦日の夜、二人は財布をはたいて鳳珍を招待するが、吹雪にまぎれて迷い込んできたのは虎だった。ますます激しくなる吹雪に小屋ごと二人は谷底に転落する。しかし、かろうじて助かった二人は金塊を発見して、一躍大金持ちになる。モーニング姿の金持ちになったふたりは、蘭芳のいる茶社を再び訪れるが、そこに蘭芳と鳳珍がいて、姿かたちがそっくりならと、それぞれに仲良く収まる。
★『明星日記』(1941満洲映画協会)監督・脚本・山内英三、撮影・福島宏、
出演・劉恩甲、葉苓、李顕廷、
ホテルのガラス拭きの劉と、エレベーターガールの葉苓は互いに淡い恋心を抱いて仲良く働いていた。劉は、いつの日にか映画スターになることを夢見ていた。そして、その苦労が報われて、ようよっと端役で映画に出演できることになった。しかし、葉苓には主役を得ることができたと嘘の手紙を書いてしまう。ところがある日、撮影所の重役と監督の徐が、葉苓のいるホテルに宿泊した。そして、葉苓をひと目で気に入り、女優としてスカウトし入社させた。劉は嘘がばれるので戸惑っていると、徐からラヴシーンのセリフをつけてもらっている葉苓を見てカッとなり、彼女を殴りつけてしまう。葉苓から事情を聞いた徐は劉を抜擢し主役にする。そして葉苓も一本撮り終えたら家庭の人となることを約束して二人はまた元の仲に戻る。
★『黄金夢』(1941満洲映画協会)監督・大谷俊夫、脚本・安関、撮影・福島宏、
出演・蕭大昌、趙愛蘋、姚鷺、葉苓、劉恩甲、張書達、
金鉱掘りに全財産をつぎ込み、借金で首の廻らなくなった王所斉は、支配人から有望な鉱脈が発見されたという知らせを受けるが、五千円の資金の都合がつかない。王の娘・麗芳をひそかに思う高利貸しの銭銅秀は、麗芳が自分の息子の家庭教師になることを条件に出資を引き受ける。王は理学博士の牛米国を連れて鉱脈の鑑定に赴くが、牛博士は実は考古学の学者で鉱脈の鑑定どころではなくなる。皆が悲嘆しているところへ次男が、第二夫人に五万円の富くじが当たったことを知らせにきた。さらに、鉱脈も金こそ出なかったが、契丹の古都であることが牛博士によって発見された。
★『鏡花水月』(1941満洲映画協会)監督・谷俊(大谷俊夫)、脚本・姜衍、撮影・池田専太郎、
出演・浦克、馬黛娟、
常発の父は、小さな別荘以外は何の財産も残さずに死んだ。隣家の娘・桂芬に再会を約し、常発は仕事もない村をあとに都会に出て行った。しかし、お人よしの常発はやっとある会社の計算係に就職したものの、同僚や酒場の女に騙されて三ヶ月でクビになった。悄然として帰郷し、桂芬の家に居候するが、ある日、桂芬の父から自分の別荘に幽霊が出るという話を聞く。常発は別荘に入ると、一巻の奇書を発見した。それによって忍者の隠身術を体得する。そこで再び都会へ行き、かつて自分を騙した者たちを片っ端からやっつける。しかし、ふと目覚めると、それはすべて夢の中の出来事。常発は桂芬の愛情を感じながら田舎で働くべきだと思い直す。
★『花瓶探索』(1941満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・呂平(長畑博司)、撮影・藤井春美、
出演・劉志人、董波、鄭暁君、陶滋心、
探偵事務所を開いている劉と張は、隣の家の富豪・李の娘の姉妹とそれぞれに仲が良い。その李が遺産のありかをかいた紙片を残して死ぬと、正夫人と第二夫人との間で争いが起き正夫人と二人の娘は追い出されてしまう。一週間ほどして、李から遺言状を預かっていた弁護士が現れ、紙片の絵は李が愛蔵していた花瓶であることが判明した。しかし、その花瓶は既に売り払ってしまっていた。映画会社が買い取ったことを突き止めると、花瓶をめぐって第二夫人の息の掛かった無頼漢と、スタジオの中で争奪戦を繰り広げる。ようやく花瓶を取り戻し、探偵二人は遺産を受け継いだ姉妹二人とめでたくゴールインする。
★『患難交響楽』(1941満洲映画協会)監督・張天賜、撮影・谷本精史、
出演・周凋、趙成巽、浦克、王瑛、
裏町のみすぼらしい旅社に住む音楽家、小説家、画家の三人は、貧乏暮らしで家賃の支払いも半年以上滞っている始末である。しかも仲が悪くて喧嘩ばかりしている。ある日、音楽家が、自分の友人を頼って歌の修行に出てきた女を、宿がないので旅社に連れて帰ってくる。旅社の住民がそれぞれに好奇の目を向けるが、彼女が仲に入ることによって三人の仲も良くなり、力を合わせて精進することになる。そこへ旅社の主人が借金で困っていることを聞き、三人は恩返しにと芝居の興行を思い立つ。台本は小説家、音楽は音楽家、装置は画家、出演者は旅社の住民全員、そして出し物は「孟姜女」と決まる。この思い切った興行は大当たりをとり、主人の借金どころか一躍成金になり、そのうえ方々から出演の依頼が殺到し引っ張りだこになる。
★『幻夢曲』(1941満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、撮影・島津為三郎、
出演・徐聡、孟虹、杜撰、白玫、
有名な歌手・白萍のステージを見た微娜と麗々は、彼の美貌と美声に心惹かれた。麗々は毎日のように白萍を訪れるが、白萍のほうは微娜に心を寄せていて、彼女が閨秀詩人であることから自分の歌の作詞を依頼する。二人の恋は急速に発展するが、古風な考えの微娜の母親は二人の結婚を許さず、外出することさえ禁じた。白萍は奉天での公演を終えると微娜の作詞による「幻夢曲」の発表会のために新京に帰ってくる。しかし、面会を拒絶されると、自分を捨てたものと誤解し、ステージで倒れてしまう。麗々は病の白萍を西洋に誘い出すと、それを聞いた微娜も家を抜け出してあとを追う。しかし、二人の仲の良いところを見ると悄然として帰郷し、そのまま病床についてしまった。娘の憔悴した姿を見た父親は白萍に手紙を出す。白萍は微娜の病床を訪れ、母親もようやく二人の結婚を許した。
★『鉄漢』(1941満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・尚元度、撮影・撮影・遠藤灊吉、
出演・李顕廷、季燕芬、
奉天城の城壁に近い貧民外に住む鍛冶屋の趙は、このあたりの顔役・王大全の子分として綿布の闇取引に一役買っている。趙はトラックの修理を頼んできた運転手の劉も加担させようとするが、劉はきっぱりと拒否する。闇取引の夜、小鳳は養父の趙に強要されて警察の目を誤魔化す役をするが、事情を知らない劉が通りかかって小鳳を助け、自宅に連れ帰ってしまう。闇取引は失敗する。起こった王は小鳳を連れ去る。劉は王の家が城壁の真下にあるのを幸いに、上からロープを使って屋敷に忍び込み、小鳳を救い出すことに成功する。必死にロープを伝って城壁を登ると、古びた城壁の一部が悪人たちの頭上に崩れ落ちていき、二人は無事に逃れることができた。奉天協和劇団の脚本による。坪井與の記録では撮影は気賀靖吾になっているという。
★『家』(1941満洲映画協会)監督・脚本・王則、撮影・池田専太郎、
出演・張敏、周凋、劉潮、鄭暁君、姚鷺、
代々が鍛冶屋の王家は、父の死後、老母の姚氏、長男の家福が仕事を継いでいた。そして生活の因習的でつつましくそのために洋画を勉強している家禄や女学生の桂芬はいつも兄・家福とぶつかっていた。家福にとっては姉の桂芳がいつも生活費の無心を言ってくることが不満で、なにかと波風が絶えない。ある日、桂芳の夫が新事業のために千円の融資を頼んできたことから家福もついに怒りを爆発させてしまう。老母は皆のいざこざから神経衰弱で倒れ、やがて重体に陥る。皆は老母の病気を前にしてようやく目が覚め、家福も、そして家禄や桂芬も老母を中心にして家を守っていくことを誓うのだった。
★『園林春色』(1941満洲映画協会)監督・周暁波、脚本・熙野(長畑博司)、撮影・谷本精史、
出演・杜撰、孟虹、候志昂、
林檎園の管理人の家には、桂芬と和甫の姉弟がいたが、親戚の孤児・小蘭が引き取られてくる。農園には作男の進財もいて、四人はすぐに仲良くなる。ある日、農園の持ち主は和甫の気性に惚れ込み、町の農学校に入学させて、卒業後は管理を任せる約束をする。十年の歳月が流れて和甫は学業を終えて再び農園に帰ってくる。小蘭は美しい娘に成長していて、和甫は妹としてではなく小蘭を娘として見るようになるが、小蘭から進財を愛していることを聞かされて苦悩する。しかし、嫉妬する自分を恥じて父母に二人が結婚できるように説く。なにも気づいていない小蘭は、和甫に感謝しつつ進財のもとに嫁いでいった。
★『奇童歴険記』(1941満洲映画協会)監督・徐紹周、脚本・王智侠、撮影・遠藤灊吉、
出演・趙愛蘋、葉生、戴剣秋、王兆義、馬曼麗、
幼いときに両親をなくした王宏模少年は、継母の宋氏に育てられていた。宋氏は王少年につらく当たっていた。王少年の仲良しは馮兄妹、それに墓守の谷平老人だった。ある夜、馮少年と王少年は、村の不良・趙が墓地で金持ちを刺殺、谷平老人に口止めしているところを目撃した。谷平老人にかかる嫌疑を、王少年は訴えでて趙が犯人であることを証言する。趙は山の中に姿を隠すが、山遊びに行って皆とはぐれた王少年と馮菊児が迷い込んだ洞窟が、趙の隠れ家だった。しかし、趙は誤って谷底に落ち、王少年は洞窟の中に貴重な古鼎を発見して表彰される。継母もようやく前非を悔い、王少年を可愛がるようになった。
★『荒唐英雄』(1941満洲映画協会)監督・脚本・張天賜、撮影・谷本精史、
出演・浦克、張暁敏、馬黛娟、
王大凡は大学を出て三年経つが、まだ就職もできない。恋人の麗華のすすめで体育雑誌社の記者に応募し、運良く就職することができた。運動のことなど皆目分からぬ大凡を主任は首にしようとするが、大凡はあるマラソン退会の取材中に犬に終われて選手団にまぎれ、間違って優勝者にされてしまったことから、社長の信任を得ることになった。そこで運動界の権威・馬博士の奉天での講演の随行を命じられるが、馬博士は汽車に乗り遅れ、大凡ひとりが奉天にいく。大凡が馬博士とそっくりなことから間違えられて大歓迎を受ける。じきに化けの皮が剥がれるが、町外れで馬車夫にハンドバックを奪われようとしている令嬢をたすけると、それが社長の令嬢と分かって一躍課長に抜擢され、晴れて麗華と結婚することになった。
★『満庭芳』(1941満洲映画協会)監督・王則、脚本・張我権、撮影・池田専太郎、
出演・徐聡、王麗君、孟虹、李顕廷、隋尹輔、
梁其祥は娘二人の嫁いだあと、まだ国民学校に通う息子の成長を楽しみに余生を送っている。姉の玉敏は請負師の周誠に嫁いだが、夫が事業に失敗して貧乏していた。妹の玉鳳は、建築会社で働く林長華に嫁いでいるが、夫が薄給でもかまわず虚栄心が強くて濫費を重ね、やがて夫が会社の金を使い込むまでになる。林は退職金で清算するつもりで、其祥にすべてを打ち明けた。もとはといえば自分の娘の濫費から出たこと、其祥は千五百円の金を出してやる。しかし、林は周がようやく落札した請負工事の保証金に困っていることを知り、その金を周に貸し与えてしまう。周からその話を聞いた其祥は、林の思いやりに感動して改めて林に金を与え玉鳳も自分の非を悟るのだった。
★『青春進行曲』(1941満洲映画協会)監督・張天賜、脚本・張我権、
出演・董波、趙成巽、張奕、張暁敏、孟虹、
蒋達夫は母を失い田舎の祖父母のもとで育てられていたが、大学卒業とともに、会社の支配人をしている父・実甫に呼ばれて都会に出てくる。父は達夫を試練のために平社員として入社させる。達夫は同僚の高佩時とアパートに同居するが、佩時が管理人の娘・秀琳を思っているのを知り、橋渡しをしてやる。ところが、秀琳は達夫に思いを寄せていた。一方、達夫は、集金の際に顧客の柳と取っ組み合いの喧嘩をするが、柳の娘・柳莉が中に入っておさめ、この柳莉からも達夫は好意を寄せられる。秀琳は嫉妬から佩時に気持ちが向いていく。ある日、達夫と佩時は副支配人が同業者と結託して、経理をごまかそうとしていることを知ると、二人の活躍でその証拠を掴み陰謀を暴く。実甫は大手柄の息子を支配人に、佩時を副支配人に任命した。やがて達夫と柳莉、佩時と秀琳の二組は幸福を掴む。
★『王麻子膏薬』(1941満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・張我権、撮影・福島宏、
出演・周凋、劉志人、陶滋心、張氷玉、劉恩甲、
街の一角にある平民娯楽場の市場に覗き眼鏡屋の店を出している王麻子、手品師の王俊子は、さっぱり客が入らず金にならない。一方、京韻太鼓の桂芬と桂香の姉妹は人気を呼んでいる。4人は同じ田舎から出てきた仲間である。王麻子は、儲からない覗き眼鏡屋を諦め、市場の主人・牛若旦那から金を借りて王麻子膏薬屋をひらく。王俊子も負けてはならじと、桂香の援助でその向かいに老王麻子膏薬屋をひらく。仲の良かった二人も商売上の争いから喧嘩を始める。桂芬と桂香がとりなして、今度は共同して店を持つことになる。しかし、桂芬に手を出そうとして逆に王麻子たちに袋叩きにされた牛若旦那は、王たちの店を叩き潰してしまう。追い出された4人は、街を捨てて再び仲良く田舎へと帰っていった。
★『小放牛』(1941満洲映画協会)監督・王則、撮影・遠藤灊吉、
出演・世枢、孟虹、
牛飼いの朱曲が郊外で放牛していると、村娘の雲姐が通りかかり、杏花村への道を尋ねる。朱曲は道を教えるかわりに、娘に歌を歌ってくれるように頼む。仕方なく娘は歌いだすが、一曲終えると、また頼まれる。そのうちに朱曲も歌いだし、二人は歌のやり取りに連れて踊り、舞い始める。京劇の舞台をそのまま撮影した巡回映写用の作品で四巻の短編。この牛飼いの役を演じては他に並ぶものがないといわれた王長林の、その高弟・世枢が主役を務める。世枢は、王長林亡きあとの第一人者といわれた。
★『玉堂春』(1941満洲映画協会)監督・王心斉、指揮・大谷俊夫、撮影・池田専太郎、島津為三郎、
出演・趙嘯瀾、尚富霞、朱遇春、朱徳奎、
金持ちの息子・王金龍は、源氏名を玉堂春と名乗る芸妓の蘚三と相愛の仲となって金を使い果たしてしまう。蘚三はひそかに王金龍に金を与え都に上って出世し自分を再び迎えに来てくれるように頼む。王金龍は途中で強盗に金を奪われるが、再び蘚三から金を与えられて都へ急ぐ。その後、蘚三は妾として売り飛ばされるが、売られた先の男の女房には情夫がいて、女房は情夫と共謀のうえ夫を毒殺、その罪を蘚三になすり付ける。蘚三は巡按署で裁判を受けることになる。裁判の日、巡按使としてこの事件を裁くのは王金龍であった。王金龍は犯人として出廷したのが蘚三だったので、その場で気絶してしまう。医者の手当てを受けて再び開廷されるが、王金龍は、自分の過去まで明るみに出され、私情を挟むことは許されないので、上司の裁断を乞う。そして心を鬼にして、慕い寄ろうとしてくる蘚三を退廷させる。「小放牛」と同様、京劇の舞台をそのまま撮影したもので、巡回映写用として作られた。映画は前半の部分の舞台劇をカット、裁判の場面の後半のみを作品にしている。王心斉の監督昇進第1回作品で、主役の蘚三を演じた趙嘯瀾は、梅蘭芳と並ぶ四大名女形のひとりといわれる尚小雲の高弟である。巡回で民衆に大好評を得た。
★『夜未明』(1941満洲映画協会)監督・脚本・張天賜、撮影・福島宏、
出演・周凋、馬黛娟、趙恥、浦克、
北満の小さな町で旅行者を営む楊は、温厚な人柄だったが、裏では、呉服屋と称して時おり新京から訪れる王から阿片を仕入れる密売者だった。しかし、楊自身は古い人々と同様に阿片を売ることを罪悪だとは考えていなかった。楊は妻を亡くしたあと、娘の小蘭を目に入れても痛くないような可愛がり様だったが、その小蘭が新京での学業を終えて帰ってくることになった。ある日、小蘭は、父の阿片を見つけると、新時代の教養を身につけた彼女は父を責めて阿片の密売をやめさせる。小蘭が留守のあいだに訪れた王はふたたび阿片の密売を続けさせようとして楊と争い、誤って自分の刃で自らの命を落す。楊は死体を始末するが、やがて王の息子・棟材が父を探しに来た。楊は良心の呵責から、自殺する積りで家を出た。遺書を見た小蘭と棟材は楊を追って馬車を走らせるのだった。坪井與の記録では昭和16年の項に収録されている。
★『春風野草』(1941満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・楊葉、撮影・藤井春美
出演・隋尹輔、白玫、劉志人、陶滋心、
会社員の周超の妻・芳梅は、ある日、周の帰宅が遅かったことから喧嘩となり家を飛び出して、親友の華の家に駆け込む。しかし、華も小説家の夫・李博文と夫婦喧嘩の最中だった。突然転がり込んできた芳梅を前に、喧嘩を一時中断、李夫婦は甘ったるい芝居を打つ。それを見せ付けられた芳梅は堪らずふたたび夫の元へ帰っていく。芳梅が帰ると、李夫婦もさっきまでの喧嘩はやんで、李は明日までといわれていた放送劇を、たったいま体験したばかりの二組の夫婦喧嘩をネタにして書き上げた。翌日の夜、二組の夫婦はそれぞれに放送劇を楽しんで聞いていた。坪井與の記録では昭和16年の項に収録されている。
★『龍争虎闘』前篇・後篇(1941満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・姜衍(姜学潜)、撮影・藤井春美、
出演・徐聡、蕭大昌、張敏、白玫、崔徳厚、張暁敏、隋尹輔、
(前篇)李懐玉は、老母と兄・懐風との三人で貧しい生活を送っている。しかし幼児から山野を駆けあるいは、経書に親しみ、文武両道に秀でた青年に育っていた。官吏登用令が発せられて武芸にすぐれたものを募集することを知って、懐玉は受験の意を固めるが、かつて婚約を結んだ月英の父・呉員外に旅費を借用にてったところ、呉は小銭をやって追い返そうとする。呉の若い後妻・艶雲がを引き止めて歓待すると、呉は二人の間を誤解し、さらに月英との縁を断つために懐玉の暗殺を企てる。月英は小間使いから暗殺の話を聞くと懐玉の部屋にしのんできた刺客を殺し、懐玉に旅費を与えて出発させる。兄・懐風は懐玉の帰りの遅いのを心配して呉の家に談判に赴き、はずみで召使を傷つけてしまう。怒った呉は老母と懐風を捕らえるが、男装した月英の働きで逃げ出す。月英は懐玉を追うが、出会うことができずに、山中で匪首の白狼に襲われる。
(後篇)女ながらも武芸で鍛えた月英に白狼はあっさりと屈服した、義兄弟の縁を月英に乞う。一方、懐玉は、途中で道連れになった葛欽洪と雨宿りのためにある寺に立ち寄る。月英もこの寺に宿を求めるがこの寺は賊の巣窟で、葛欽洪は殺されてしまう。乱闘の末、懐玉は、月英と知らずにまた別れてしまう。やがて試験の日、懐玉は及第するが、遅れてきた月英は、相手を懐玉と知らずに試合を申し込む。試合が始まって月英は、相手が懐玉と気づいたものの懐玉は、男装している月英に気づかず、真剣勝負を挑む。月英は、わざと試合に負け、ようやく一切を知った懐玉は、月英、老母、兄・懐風を伴って故郷へと帰っていった。
唐代の武侠小説をヒントにした満映最初の古装片(時代劇)、日本のチャンバラ映画のテクニックを導入して「胭脂」とともに日本でも高く評価された作品である、興行的にも記録破りの好成績をおさめた。この作品の脚本を書いた姜衍(姜学潜)は、甘粕正彦が満映に入れた人物、満映で中国脚本家として養成された。実は秘密国民党員だったことから、日頃憲兵に目をつけられ、ある日、憲兵に連れ去られた、八木保太郎がそのゆくえを必死になって探したというエピソードが残っている。結局、甘粕の尽力で彼を無事取り返すことができるのだが、探し回る八木が満州における公安機関が林立し、あまりにも複雑すぎて、どこから探せばいいのか分からなかったという「複雑な連れ去られた先」を紹介している。満州内には当時、日本特務機関、日本憲兵隊、満州国憲兵隊、満州国国家警察、市警察、日本領事館警察、刑事警察、満州国特務機関、鉄道警察、と計9機関もあり、それぞれが独立して活動して縄張り争いがはげしく、たがいに反目しているので、結局どこを探せばいいのか途方にくれたという。満映で働く中国人もそこで職を得ているからといって、なにも保護されたり特別扱いされているわけではなく、中国人は日本の官憲に始終目をつけられ監視されており、街の本屋で左翼系の本(そもそもそれが仕掛けられた罠で)を立ち読みしてだけでも、特務機関とつながっている店主から密告されてすぐさま拘束され、ひどい拷問にあったという。
蘇州の夜 1941松竹系 李香蘭
【1942年(昭和17年)】
★『迎春花』(1942満映、撮影協力・松竹)監督・佐々木康、脚本・長瀬喜伴、撮影・野村昊、森田俊保、中根正七、美術・磯部鶴雄、音楽・万城目正、録音・中村鴻一、現像・富田重太郎、平松忠一、編集・濱村義康、台詞指導・王心斎、製作担当・大辻梧郎、磯村忠治、撮影事務・安井正夫、1942.03.21 9巻 74分 白黒
出演・李香蘭、近衛敏明、浦克、木暮実千代、藤野季夫、吉川満子、那威、張敏、日守新一、戴剣秋、袁敏、曹佩箴、干延江、周凋、王宇培、関操、三和佐智子、路政霖、江雲逵、宮紀久子、下田光子、瀧見すが子、
佐藤忠男は「キネマと砲聲」のなかで、当時「キネマ旬報」に掲載されたこの作品の批評として「・・・それにしても之は何という貧しい作品であろう。之は観客を喜ばしめ、楽しませるものを僅かしか持っていない。物語は先ずよいとしても、映画表現の貧困さは、結局、此映画が、李香蘭を売りものにした興業価値に頼る以外に取り柄の無いという感じを与える。二人の女性に日満夫人を象徴せしめた脚本の組み立ては大船映画の常道であるとしても、此処には二人の女の心は明確に汲み取れるほどには描かれていない。・・・満映作品には、之に及ばぬものが数限りなくあるには違いないが、松竹スタッフの全面的な生産である点、それが満映作品としての輝かしい存在理由を持たぬ点に、何よりの不備が感じられる。」(1942.4.21号・村上忠久)とこの作品を酷評するだけでは足りず、満映の一般の作品は、さらに水準が低いはずだと決め付けられたと紹介している。
★『胭脂』(1942満洲映画協会)監督・谷俊、脚本・柴田天馬、撮影・池田専太郎、
出演・鄭暁君、隋尹輔、趙愛蘋、杜撰、候志昂、郭宛、浦克、
終日刺繍をして孝行している胭脂は、向かいに住む龔の妻・王氏と日頃から仲が良いが、王氏は軽口の女だった。ある日、遊びに来ていた王氏を送るために通りに出たところ、通りかかった青年・顎秋隼を見そめる。行商人の夫が留守がちなのを幸い、王氏は宿介という青年と深い仲になっていたが、宿介が顎と同学であることから王氏は仲を取り持つ約束をした。その話を聞いた宿介は、胭脂の家に顎だと偽って忍び込み、胭脂に迫った。胭脂に撥ね付けられたものの、鞋を盗んで逃げる。鞋を男に渡すことは女が全てを許すしるしとされている。しかし、宿介は途中で鞋を落としてしまい、毛大、張三、李四の誰かがそれを拾う。そして拾った人物は胭脂の家に忍び込むが、部屋を間違えて起きてきた父親を殺してしまう。胭脂は鞋を持ち去った男が顎だと思っていたので、それを供述すると嫌疑は顎に掛かった。しかし、裁判ののち、毛大、張三、李四も捕らえられその中から真犯人も判明した。やがて胭脂と顎はめでたく結ばれる。
原作は、清代の小説「聊斎志異」で、京劇「胭脂判」としてもよく知られた怪異譚。脚色の柴田天馬は「聊斎志異」の研究家で、そして大の映画ファンでもあり、満映の嘱託になっていた。坪井與の記録では昭和17年(康徳9年)の項目におさめられている。佐藤忠男の「キネマと砲聲」には、「従来、北京語映画として作られながら、東北三省(満州)以外に公開されなかった満映の劇映画(娯民映画)から優秀作品を選んで、上海ではじめて公開した。それは「龍争闘虎」と「胭脂」の二本であり、ことに後者は情感のある秀作であった。」と高く評価されたことを紹介している。
★『瓔珞公主』(1942満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・姜衍、撮影・島津為三郎、
出演・李顕廷、劉潮、趙成巽、安琪、徐聡、趙愛蘋、張静、
遠い昔、魁量とよばれる国は、土地は肥え、五穀は豊穣、民は太平を謳歌し、国王は仁慈の心厚く、城下は賑わっていた。国王夫妻は19歳になる公主に婿を取ることが唯一の望みである。そこで4人の重臣達の公子から婿を選ぶことに決め、親書を送った。やがて、何声春、馬得勝、厳重福、魏鳴が集められたが、魏鳴ひとりだけが献上物も持たずに逞しい体を粗衣に包んだだけで現れた。公主は、それぞれに魔鬼山に棲む龍の目を取ってくるように難題を与えると、何声春、馬得勝、厳重福の三人は龍に近づくこともできず偽の龍眼を持ち帰って公主を欺こうとするが、魏鳴は龍を倒して龍眼を手に入れる。公主は三人の偽物をすぐに見抜き、魏鳴はめでたく公主を得て、魁量国の王位を継いだ。この作品は、坪井與の記録には昭和17年(康徳9年)の項目に収録されている。
★『黄河』(1942満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、助監督・徐紹周、撮影・谷本靖史、美術・伊藤彊、
出演・周凋、徐聡、張奕、孟虹、王麗君、隋尹輔、王影英、李香蘭、王字培、
孫唯倹は先祖代々より黄河畔に住む農民だが、盲目の母と妹を抱えて貧乏のどん底生活をしている。わずかな麦畑さえ地主・万才の抵当に入っている。妹の小玉は万才の三男・発泉と許婚であるが、万才はもはや喜んではいなかった。麦畑の刈り入れがきて、唯倹は抵当をめぐって趙と争い、誤って傷つけてしまったことから流浪の旅にでる。その頃、日支の戦いは激烈を極め、敗走する中国軍は黄河を決壊させて日本軍の進路を阻んだ。唯倹は故郷に帰ってみると、家は跡形もなく、村から遠くはなれたところで、ようやく母や妹にめぐり会えた。発泉の兄・発有は中国軍の遊撃隊長だが、民衆の苦しみを眼前にして悩んでいる。しかし、さらに破壊工作の命令が下る。躊躇する発有は、政治局員に狙われるが、それを知った次男の発源が殺されてしまう。発有は政治局員を射殺して日本軍に協力する態度をしめす。決壊された黄河に、軍民協力のもとで新たな堤防が作られ始めた。
黄河 1942満映系 李香蘭
★『歌女恨』(1942満洲映画協会)監督・朱文順、原作・樑孟庚、脚本・丁明(山内英三)、撮影・藤井春美、
出演・白玫、浦克、趙愛蘋、楊恵人、李景秋、呉菲菲、劉恩甲、張静、江雲達、蕭大昌、
若く美しい譚小黛の率いる譚一座は、旅興行の途中、馬車を引く馬が足を痛めて動けなくなってしまった。そこへ通りかかった騎馬の青年・王仲菲は、事情を知って譚小黛を駅まで送り届けた。都会に帰ったある夜、小黛はふたたび王仲菲にめぐり会った。彼はある地主の息子で、叔父の娘・淑鳳と結婚することになっていたが、この再会から二人は愛し合うようになる。二人の秘密を知った義母は、王の叔父と王の通う学校へ密告し二人の仲を割こうとした。叔父は小黛を訪れ、王の将来のために別れてくれるように頼んだ。小黛は願いを聞き入れ王に絶縁状を送った。小黛は旅先の宿で好色の銭に力づくで迫られたが、そのとき、銭に棄てられた妾が飛び込んできて銭を撃った。小黛は、子供を抱いた妾を哀れに思って、自分で罪を着ようとし、裁判を受けた。しかし、真犯人は名乗り出て、小黛は犯人の子供を育て上げることを誓うのだった。
★『一順百順』(1942満洲映画協会)監督・脚本・王心斎、撮影・福島宏、
出演・浦克、張奕、葉苓、周凋、陶滋心、王安、
大順は、子供のときに両親を失い、いまは自動車掃除夫をしている。大順はタイピストの小萍を愛しているのだが、彼女の父が欲張りで金のない大順の結婚を許さない。大順は、自動車掃除夫をやめて、海水浴場の救護員の仕事につく。しかし、彼は泳ぐことができない。ある日、舟の中で遊んでいると、突然助けを求める声がした。自分が泳げないことも忘れて、夢中で海に飛び込む。無事に助けた相手は前の会社の社長令嬢だった。社長からお礼として千円を送られた大順は、ふたたび前の会社に復職できた。そしてめでたく小萍とも結婚することができた。
★『雁南飛』 : 監督楊葉
★『皆大歓喜』 : 監督王心斎
★『黒痣美人』(1942満洲映画協会)監督・劉国権・笠井輝二、脚本・佐竹陸男、撮影・気賀靖吾、
防諜をテーマとした三巻の短編映画。
★『花和尚魯智深 水滸伝初集』(1942満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・何群、張我権、撮影・中根正七、
出演・陳鎮中、李顕廷、徐聡、蕭大昌、戴剣秋、張静、劉恩甲、浦克、杜撰、趙愛蘋、白玫、
金翠蓮と父親は酒楼で琵琶を弾き歌を唄うことで生活している。金翠蓮は愛人の趙が東京に行くための旅費を鎮関西に借りている。一方で鄭に妾のなるように責め立てられている。鄭はある日、場銭の取立てに来て、棒使いの豪傑・李忠、李忠の弟子・史進と争い大騒ぎを起す。そこへ乱暴者の魯達も加わり鄭の一味を追い払う。李忠、史進、魯達の三人は意気投合して酒楼にあがる。そこで翠蓮親子の話を聞いた三人は金を出し合い親子を東京の趙のところへ旅立たせる。翠蓮は趙と出会い、いままでのイキサツを語る。魯達は懸賞を懸けられ追われるが、趙にかくまわれ、やがて五台山文殊院の智真長老を頼って出家し、智深と法名を名乗る。しかし、大酒を飲んで手に負えず、大相祥寺にやることにする。魯智深は長老に感謝し、預けていた禅杖と戒刀を受け取るために旅にでる。
★『娘娘廟』(1942満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・姜衍、撮影・遠藤灊吉、
出演・曹佩箴、張静、馬黛娟、徐聡、張奕、張敏、趙愛蘋、戴剣秋、王瑛、張望、陳鎮中、劉恩甲、郭範、鄭暁君、張暁敏、張氷玉、陶滋心、呉菲菲、周凋、何奇人、王影英、馬旭儀、蕭大昌、
王母娘娘の大殿で三人の天女・碧宵、瓊宵、雲宵が唄い踊っている。これを見た来客の九天娘娘は、三人に天露の酒を与える。酔った三人は、王母娘娘の怒りに触れて下界に追放される。そして、それぞれに下界で生まれ変わり育つ。やがて文武両道を教えられ、ある夜、馬賊が襲来するが、三人の娘は撃退する。そして王娘娘の声で「早く天に帰れ」という夢を見る。三人の娘が歩き疲れていると、若者の馬車に救われ、お礼の歌を唄うと、天に昇っていく。若者は、村人にこのことを告げると、村では娘たちの座っていた石の上に廟を建て三人を祭った。
満鉄広報部で、カメラマン藤井静が隣の丘にカメラをすえ、ズームレンズの威力を駆使して、大石橋の娘々廟に詣でる素朴な農民の姿を精密にとらえた「娘々廟会」(製作は満鉄映画制作所で日本初の文化短編映画とされている)とは別の作品で、解説を中村伸郎が語っている。この娘々廟は、満人の信仰厚く、満州各地にあるが、なかでもこの大石橋郊外迷鎮山の祭りは一番にぎやかで、春になれば農民たちは遠くからこの祭りのためにやってくるその様子が沿道の屋台店とともに親愛を込めて描かれている。この作品を編集・構成したのは名編集者・芥川光蔵、本作は彼の代表作のひとつである。このほか「ガンジュール」、「草原バルガ」、「秘境熱河」があり日本国内でも高く評価され、いずれも佳作としてベストテンを賑わし、あるいはランクされた。彼は青地忠三とともに戦前の日本を代表する記録映画作家のひとりである。1930年の「ガンジュール」は、北蒙古最大のラマ廟の祭礼を記録したもので、美文調のタイトルと原住民の情緒的な描き方が注目された。「草原バルガ」は、満州コロンバイル、バルガ地方の草原風景と遊牧蒙古人の生活をフォトジェニックにとらえ、茫洋として果てしない大陸の風景を巧みに活写した。
★『愛的微笑』(1942満洲映画協会)監督・丁明、脚本・荒牧芳郎・佐竹陸男、撮影・中根正七、美術・堀保治、
出演・葉笙、曹佩箴、王芳明、李唐、干延江、江運達、張敏、畢影、
楊春生は家は貧しかったが、学校では首席を通して
董先生に愛されていた。同じ組の達元は、そんな春生を妬んでいて、いつも意地悪だた。組で万年筆が紛失したときも、春生のせいにした。学校ではグライダーを飛ばすのが流行っているが、買ってもらうことができない春生は、肯定の隅からさびしく眺めているだけだった。しかし、ある日、誘惑に負けて玩具店からグライダーを盗んでしまった。姉はそれを知って、グライダーを店に返させた。店の主人は正直な行為に感心して、かえって大きなグライダーをくれた。生徒たちが写生に出かけた日のこと、達元の画用紙が風に飛ばされて河の中に落ちてしまった。春生は河に入ってそれを拾おうとするが、溺れそうになり、董先生に助けられた。それからは達元と春生は友達になって、運動会では肩を組んで二人三脚に出場するのだった。
★『雁南飛』(1942満洲映画協会)監督・楊葉、脚本・荒牧芳郎、撮影・池田専太郎、
出演・李顕廷、鄭暁君、李景秋、李雪娜、趙恥、陶滋心、杜撰、張愛蘋、蕭大昌、李映、
発動船の機関夫をしている楊徳成は、船主の銭世忠の娘・王華と愛し合っている。しかし、世忠は二千円の金を持ってこなければ、娘との結婚は許さないと楊徳成に言い渡す。楊は、金を稼ぐために地方に出かけて行く。王華と楊とのあいだには、名吉という子供も生まれていたのだが、八年という歳月が流れ、王華の父母は新しい船長の劉源泉との結婚を娘に勧めた。父親のいない名吉を不憫に思って王華は結婚を決意する。三人は幸福だった。そんにところに楊が二千円の金を貯めて帰ってきた。王華は自分の不実を詫びたが、楊は承知できなかった。しかし、劉を実の父親だと信じている名吉の姿を見て、自分から身を引くのだった。そして金をためる九年のあいだ、自分を励ましてくれた義侠の女・静英を懐かしく思い出だしていた。
★『皆大歓喜』(1942満洲映画協会)監督・王心斎、脚本・八木寛、撮影・福島宏、
出演・張敏、徐明徳、劉婉淑、趙愛蘋、浦克、徐頴、王安、
田舎のおばあさんの所へ新京にいる長女・喜英と次男・克定から、建国十周年祝賀行事に来るよう誘いがくる。喜英は病院長の夫人だが、ヒステリーで嫉妬深い。祖母が来たら夫を困らせようと企んでいる。克定は新聞記者で、祖母に結婚の許しを得ようと思っている。三男は博覧会場で会計兼ボーイの仕事につき、妻があるが祖母には隠している。博覧会場で落ち合った一家は、すべてをおばあさんがうまく裁いて、まるい収めてくれる。おばあさんはまた、豊年の喜びに湧く田舎へと帰っていった。
★『恨海難塡』(1942満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・丁明、撮影・竹村康和、
出演・徐聡、李顕廷、張静、張慧、趙成巽、隋尹輔、葉苓、陶滋心、
検事・楊国は、妻・秀娟、そして子供の春生と平穏な日々を送っている。そこへ、長年外国で暮らしていた弟の国祚が帰ってきた。かつては秀娟と愛を語ったことのある国祚は、秀娟に金を要求した。そして、もし金を出さなければ、昔もらった秀娟からの手紙を楊国にばらすと脅迫した。秀娟はやむなく信托証書を渡すが、国祚はさらに兄の実印を使って金を手に入れる。しかし、悪党の馮に撃たれて金も証書も奪われる。馮は秀娟の美貌にも目をつけ脅迫する。やがて秀娟は全てを告白して裁きを待つのだった。
★『黒瞼賊 前篇 後篇』(1942満洲映画協会)監督・張天賜、脚本・丁明、姜衍、撮影・藤井春美、
出演・周凋、白崇武、劉恩甲、畢影、王宇培、趙愛蘋、陶滋心、張奕、馬黛娟、戴剣秋、
ある県域で武士ばかりが狙われる殺人事件が起こる。犯人は黒瞼賊と思われているが、捕手頭の高順には手に負えない。高順は呂明と呼ばれるせむしの画家を、その腕を見て武芸達者の者と判断した。呂明は妓館の紫花を描いている。夏輝と名乗る青年武士も足しげく通ってくる。父を黒瞼賊に殺された青年剣客の魏良は、やがて夏輝と一騎打ちをする。高順は夏輝を殺人事件の犯人と見て家を襲うが、夏輝は平然として奥に消えると入れ替わりに黒瞼賊が現れる。高順は地下室に突き落とされ、黒瞼賊の高笑いが響き渡る。やがて犯人が追い詰められるときがくる。呂明は変装をとると夏輝になり、そして、その正体は黒瞼賊であることを自ら暴いて倒れる。張天賜の監督による初めての古装片。前篇 後篇に分かれ、張奕が呂明、夏輝、黒瞼賊の三役を演じている。
★『豹子頭林冲 水滸伝第二集』(1942満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・熙野(八木寛、長畑博司、張我権)、撮影・深田金之助、
出演・周凋、王麗君、王芳蘭、李顕廷、趙成巽、陳鎮中、徐聡、
近衛兵の槍術の師範・林沖は、教頭・張の娘・貞娘と許婚だった。ある日、林沖は街中で鉄の禅杖を振り回している一人の僧を押し留めた。有名な花和尚・魯智深であった。二人はすぐに意気投合して酒楼で義兄弟の縁を結ぶと花和尚の大相祥寺へ出かけた。そのとき、ちょうど貞娘が大相祥寺へお参りに来ていたが、貞娘は狩猟の帰りらしい立派な服装の若者に言い寄られて楼上に連れ込まれようとしていた。林沖は若者を打ち倒そうとしたところ、自分の上官・高大尉の息子・高衛内であることから許してやる。高衛内は林沖をなんとかして陥れようと画策する。新しい刀を購入した林沖は、高大尉の使いが、自分の刀と比べたいことを伝えに来たので役所へ出向く。しかし、役所には誰もいず、白虎節堂の中まで入ってしまった。そこは軍の規律で誰も入ってはならない場所だった。そこへ高大尉があらわれ、林沖を取り押さえる。計られた林沖は裁判の後、滄洲へ流罪となる。高衛内の部下は、林沖の護送途中で殺してしまうよう役人に金を与える。しかし、これを花和尚が聞きつけ、やがて衛内もその部下を斬り捨てる。駆けつけた貞娘は、うれし泣きに泣いて林沖と抱き合うのだった。
★『五千万人の合唱』(1942満洲映画協会)監督・大谷俊夫・朱文順、製作・伊東弘、監修・多田満男(牧野満男)、脚本・谷俊・爵青、撮影・藤井春美・福島宏、美術・堀保治、録音・大森伊八、編集・石野誠三、
満州建国十周年の紀念映画として企画された。詳細は不明。坪井與の記録には「作られなかったのではないか」との記述がある。
★勤労的女性(1942満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
★健康的小国民(1942満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
【1943年(昭和18年)】
★『誓ひの合唱』(1943満洲映画協会)製作・藤本真澄、監督・脚本・島津保次郎、撮影・鈴木博、音楽・服部良一、美術・松山崇、録音・鈴木勇、照明・平田光治
出演・李香蘭、黒川弥太郎、鳥羽陽之助、清水将夫、河野秋武、石島房太郎、浅田健三、佐山亮、冬木京三、西村慎、生方明、中村彰、黒井洵、載剣秋、灰田勝彦、
製作=東宝映画=満州映画協会 1943.08.12 紅系 10巻 2,321m 85分 白黒
誓ひの合唱 1943満映系 李香蘭
★『碧血艶影』(1943満洲映画協会)監督・劉国権、脚本・丁明、撮影・気賀靖吾、
出演・徐聡、周凋、張奕、浦克、趙成巽、張静、陳鎮中、李瑞、
金富貴という富豪の家に十万円を要求する脅迫状が届いた。現金を指定の場所に置くと警官が張り込んでいたにもかかわらず持ち去られてしまう。何文才の手下の一人・張甲祖とその女房・蘇秀麗、そして羅子安の三人組が企てた事件だった。終われる犯人の一人・秀麗は、寺の僧に返送して隠れていたが、何文才に突き止められる。そこへ警官が踏み込んできた。金を隠した場所を言わない秀麗を何文才が撃つ。秀麗は倒れながらも何文才を撃ち、金の場所を示す言葉を残して死ぬ。蘇秀麗は、金富貴の家で働く女中・秀麗の姉だった。二人で仲良く暮らすことを夢見て犯した過ちだった。
★『求婚啓事』(1943満洲映画協会)監督・王心斎、脚本・佐竹陸男、撮影・福島宏、
出演・周凋、葉苓、杜撰、浦克、江雲達、梅秋、趙愛蘋、
大順百貨店主の呉国卿は、十年前に妻を失い、いまでは一人娘の芳娥の成長を楽しみにしている。芳娥は、父が再婚しない限りは、一生父のそばにいる積りであった。しかし、ある日、百貨店で逢った田華圃に心惹かれる。国卿は、紅蓮という女の元に通い詰めていたが、紅蓮とその情夫に金をゆすられる。ある日、新聞の求婚広告を見て、国卿は、その相手と会うことになる。しかし、相手の方女史を訪ねたところ、広告のことは何も知らないという。その犯人は芳娥だった。方女史は芳娥の女学校時代の先生だった。やがて国卿と方女史、芳娥と華圃の二組の夫婦がめでたく誕生する。
★『銀翼恋歌』(1943満洲映画協会)監督・大谷俊夫、脚本・長畑博司、撮影・竹村佐久象、
出演・徐聡、戴剣秋、王麗君、趙成巽、陳鎮中、張奕、浦克、趙愛蘋、孟虹、馬黛娟、袁敏、
林志人と秦大華の操縦する小型飛行機が鏡泊湖畔に不時着した。そこで知り合った可憐な乙女・小鳳は、母を失い、叔父を頼って新京に出てきて李家の女中となって働いた。下男として働く従兄の金吾は小鳳をものにしようと狙い、叔母は売り飛ばそうともくろんでいる。ある日、小鳳は、街に出て志人と再会し、飛行場を訪ねて飛行機に乗せてもらう。小鳳は、志人から結婚を申し込まれるが、その頃、金吾は金を使い込んで李家をグビになり、小鳳も家を追われた。全てを諦めて小鳳は身売りすることを承知し、代金はそのまま志人に研究費として送るのだった。落ち込んでいる志人を大華は花街を連れて行く。そこで、いまは雪梅と名乗っている小鳳だった。小鳳は、鏡泊湖に逃げ帰った。志人もあとを追ったが、ときすでに遅く、湖上に小鳳の清らかな姿を見つけた。小鳳は、志人の腕の中で静に息絶えた。
★『白馬剣客』(1943満洲映画協会)監督・張天賜、脚本・八木寛、撮影・藤井春美、
出演・張奕、呉恩鵬、浦克、華影、張暁敏、周凋、戴剣秋、王英影、
城主・陳大守には、白爵のほかに、側室の段氏の子・実念の二人の子供がいた。大守は、跡継ぎを白爵と決めていた。段氏は自分の子供を立てたいという念願で一杯だった。その頃、白爵のみを案ずる重臣たちが、黒衣隊と称する騎馬隊に次々と殺された。白爵派は、黒衣隊を討つには周志傑の帰りを待つよりほかなかった。しかし、帰ってきた志傑は、黒衣隊に恐怖心さえ抱いている様子で、一同は大いに失望した。志傑の恋人・勝姑の父・呂悦まで黒衣隊に殺されるに及んで、勝姑も志傑の不甲斐なさに憤慨する。段氏側は、大宴会を開きその席で大守暗殺さえ企てる。そこへ白馬剣客が現れ、賊を倒す。白馬剣客の仮面の下は志傑その人であった。勝姑は彼の忠誠にただ涙を浮かべた。
★『富貴之家』(1943満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、撮影・福島宏、
出演・張敏、王宇培、白玫、周凋、呉菲菲、常娜、梅枝、隋尹輔、張奕、馬黛娟、江雲達、何奇人、陳鎮中、劉恩甲、
大家族丁家の長男・世業は、一家の権力者として家事の一切を妻・大嫂に任せている。次男・世家は、遊び好きで密かに女を作っている。長女・治範は楽天的である。大嫂は、治範を邪魔者扱いして早く嫁にやろうとする。三男・世勤は日本留学中、次女・治平も女学生で学友の桂芬は、兄・世勤と意気投合している。暗い雰囲気の家庭を、帰国した世勤は改革しようとする。しかし、大嫂は治平に結婚を強制しようとして、治平を自殺に追い込む。世勤は大嫂と口論の末、大嫂を殺してしまう。家の財産を自分のものにしようとたくらんでいた長兄の反省を、ようやく牢獄につながれている世勤は知る。桂芬の同情を得て、未来の新生に希望をつないでいる。
★『却後鴛鴦』(1943満洲映画協会)監督・脚本・朱文順、
出演・浦克、張静、徐聡、趙愛蘋、孟虹、張奕、王麗君、王宇培、曹佩箴、江雲達、袁敏、
金持ちの息子・唐鴻志の家には、孤児で従妹の陶英華が引き取られている。英華はすでに鴻志のタネを宿しているが、継母は自分の姪・玉茹と鴻志を結婚させて家を牛耳ろうと思っている。しかし、鴻志が承知しないので英華を弟の家に追いやってしまう。英華は死を考えたこともあるが、腹の中の子供のために仕事を転々としながら、仕事場の同僚の家で出産する。ふたたび鴻志とめぐり会ったとき、子供はすでに死んでいた。鴻志の父は、自分の非を悔いて、財産の一部で貧しい子供たちのために平民学校を創立する。ようやく鴻志と英華の二人も幸せをふたたび取り戻すのだった。
★『千金花子』(1943満洲映画協会)監督・王心斎、撮影・福島宏、
詳細不明
★『燕青と李獅子』水滸伝第三集(1943満洲映画協会)監督・張天賜、脚本・八木寛、撮影・島津為三郎、
燕青は任侠の若者、縁あって梁山泊の宋江の世話になる。宋江は、自分たち梁山泊の連中は悪党ではなく、正義と義侠のために挺身していることを天子に奏上するため、東京城に向かう。しかし、天子は面会しようとはしない。天子の愛している芸妓・李獅子が、宋江に従ってきた青燕に惚れ込んでしまう。李獅子の手引きでようやく宋江は目的を果たすことができる。
★『白雪芳踪』(1943満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・馮宝樹、撮影・竹村佐久象、音楽・満映国楽研究部、
出演・張敏、趙成巽、白玫、張素君、華影、戴剣秋、
金持ちの紳士・魏以康は、妻の死後、十回忌の夜、社交界の花形である燕影と再婚するために、女中の呉媽に縁を切ることを伝える。呉媽とのあいだに仲明という男の子までもうけた関係だったが、家を追われて呉媽は仲明の手を引き街をさまよう。ある日、歌う唄いの少女・蓮芳とその祖父との二人連れと知り合い、互いに力を合わせて生活することになる。蓮芳は、歌手としてある茶館と契約した。すこしは収入も安定して仲明も小学校へ通うことができる。それから十二年、仲明は大学生になり、蓮芳と相愛の仲になっている。その頃、魏以康は、燕影との生活にも失敗し、さらに投機にも失敗して破産してしまう。ある夜、魏以康は、茶館で蓮芳を見初め、家に連れ込んで手篭めにしてしまう。魏の家で蓮芳は呉媽と仲明が写っている写真を見つけ、呉媽の告白から過去を知ることになる。蓮芳は汚れた体になったいま、家を出て仲明から去っていく。祖父の死を契機に蓮芳は看護婦となって働くが、ある日、病院に危篤の身となった魏以康が運ばれてくる。魏以康は過去を悔いて呉媽と仲明に会いたいと訴えるが、仲明は自分の過去を知って怒り、会おうとしない。やがて魏以康は息を引き取った。仲明は蓮芳を探したが、ふたたび蓮芳は仲明の前から姿を消して遠くへ去っていった。
★『今朝帯露帰』(1943満洲映画協会)監督・楊葉、脚本・原健一郎、
詳細不明
★『サヨンの鐘』(1943松竹(下加茂撮影所)・台湾総督府・満州映画協会)監督・清水宏、脚本・長瀬喜伴、牛田宏、斎藤寅四郎、撮影・猪飼助太郎、音楽・古賀政男、挿入歌・「サヨンの歌」詩・西条八十、曲・古賀政男、唄・李香蘭、「なつかしの蕃社」唄・霧島昇 菊池章子、「サヨンの鐘」唄・渡辺はま子、美術・江坂実、装飾・井上常次郎、録音・妹尾芳三郎、編集・猪飼助太郎、斎藤寅四郎、衣裳・柴田鉄造、字幕・藤岡秀三郎
出演・李香蘭(サヨン)、近衛敏明(武田先生)、大山健二(村井部長)、若水絹子(その妻)、島崎溌(サブロ)、中川健三(モーナ)、三村秀子(ナミナ)、水原弘志(豚買・サヨンの父)、中村実(ターヤ)、応援参加・桜蕃社
1943.07.01 紅系 9巻 2,520m 92分 白黒
サヨンの鐘 1943満映系 李香蘭
★『萬世流芳』(1942・公開1943中華聯合製片公司=中華電影=満映)監督・張善琨・卜萬蒼・朱石麟・馬徐維邦・楊小仲、
出演・陳雲裳(靜嫻)、袁美雲(玉屏)、李香蘭(鳳姑)、高占非(林則徐)、王引(潘達年)、
阿片戦争 (1840-1842) 百周年記念作品で、中国のトップ俳優4人と李香蘭が共演した話題作。当時広東で阿片の取締りにあたっていた英雄的な大臣林則徐の伝記映画として製作された。中華聯合製片公司と中華電影 (中華電影公司) は日本占領下の上海の国策映画会社 (1943年に合併して中華聯合電影公司) で、満州の国策映画会社満映 (満州映画協会) との共同製作。当初、「反英」のコンセプトで製作されたが、中国人は「抗日映画」と読み替えてヒットしたという。硬質な官憲の伝記映画というよりは、あまいメロドラマと割り切ってみた方が楽しめる。登場する女性3人は女優陣が演技を競う。林則徐が最初に客として招かれた福建巡撫の家の娘靜嫻は林則徐に縁談を断られ、尼寺に篭って阿片中毒を直す薬「戒煙丸」作りに精を出す、阿片戦争が始まると民衆軍を率いて戦い戦死する。福建巡撫の後に林則徐が客として招かれた元県令の家の娘玉屏は、病に倒れた林則徐を看病し、その縁で妻となる。玉屏は母の阿片中毒を直すために「戒煙丸」を求めることで靜嫻と出会い、阿片と戦う林則徐を共に支える。李香蘭が演じるのは阿片窟に出入りする飴売りの娘鳳姑で、阿片中毒で身を崩した潘達年(林則徐の学友)を支えて社会復帰させる妻を演じている。潘達年の阿片中毒を直すために「戒煙丸」を求める鳳姑も靜嫻と知り合う。林則徐の出世や、潘達年の阿片中毒や社会復帰の描写は淡白に描かれているが、女性の成就しない恋、献身、微妙な三角関係と女性間の友情を描いた部分はメロドラマ色が強い。阿片窟で飴売りする靜嫻が阿片窟で飴売りのふりをして『売糖歌』を歌う場面が印象的である。林則徐らの阿片の害毒と国を憂う直接的なセリフよりも、むしろ李香蘭の歌の方が、むしろ説得力があると評された。
萬世流芳 1943満映系 李香蘭
★戦ひの街 1943松竹系 李香蘭
★開拓の花嫁(1943満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
★野菜の貯蔵(1943満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
★暖房の焚方(1943満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
【1944年(昭和19年)】
★『虱は怖い』(1944満洲映画協会)演出・加藤泰通、脚本・今井新、撮影・吉田貞次、動撮(アニメーション)・笹谷岩男、森川信英、音楽・金城聖巻・新京音楽団、照明・山根秀一、2巻 14分 白黒 原題:子虱的怕可
加藤泰(通)が満映で撮った文化映画。実写部分のさまざまな映画技法や当時としては高水準のアニメーションを駆使することによって面白い作品になっている。満映時代にはもう1本『軍官学校』(1944)という作品もある。(原題;子虱的怕可)』(アニメーション;2巻14分)
★『軍官学校』(1944満洲映画協会)演出・脚本・加藤泰通、撮影・黒田武一郎
製作・満州映画協会 白黒
★『晩香玉』(1944満洲映画協会)監督・周暁波、脚本・姜学潜、撮影・藤井春美、王福春、
出演・浦克、白玫、寒梅、屠保光、徐聡、
寒梅は、大連の出身でこの作品でデビューした新人。この一本でスターとなり、「蘇少妹」の主役に抜擢されることになる。
★『緑林外史』(1944満洲映画協会)監督・王心斎、脚本・栗原有三、撮影・近藤稔、
出演・浦克、陳鎮中、曹佩箴、
建国前に監獄に入っていた緑林出身の馬賊が、建国後に出獄して都会に出てくるが、以前の社会とは一変。勝手が違って失敗ばかりする。
★『好孩子』(1944満洲映画協会)監督・池田督、脚本・館岡謙之助、撮影・竹村康和、
出演・干延江、
少年教育を目的とした少年院を舞台とした物語。多くの中学生がエキストラとして参加した。
★『愛與讐』(1944満洲映画協会)監督・笠井輝二、原作・原健一郎、脚本・熙野(八木寛、長畑博司、張我権)、撮影・岸寛身、
出演・孟虹、杜撰、張敏、徐聡、張奕、
文芸作品で、国務院芸術賞を受けた。
★『血濺芙蓉』(1944満洲映画協会)監督・広瀬数夫、脚本・原健一郎、撮影・竹村康和・王福春、
出演・徐聡、白姍、隋尹輔、芦田伸介、
活劇物で監督・広瀬数夫が俳優・ハヤブサ・ヒデト時代のアクロバット芸を披露している。新京放送局放送劇団員の芦田伸介が出演している。
★『夜襲風』(1944満洲映画協会)監督・広瀬数夫、脚本・原健一郎、撮影・福島宏、
周凋、張奕、隋尹輔、李顕廷。
活劇物。助監督の池田督が作った予告編から優れていて好評だった。
★『映城風光』(1944満洲映画協会)監督・大谷俊夫、撮影・深田金之助、
撮影風景を面白く見せる風景映画。
★『妙掃狼煙』原題:王順出世記(1944満洲映画協会)監督・脚本・大谷俊夫、撮影・深田金之助
詳細不明。
★『化雨春風』(1944満洲映画協会)監督・不明、脚本・佐竹陸夫・片岡董、
良家の子だが、臆病な小学生が、遠足に行ってグライダーを見学。そのプロペラを傷つけてしまう。小学生は心配のあまり荒野をさまようが、やがて父の力で気丈夫な子供に成長していく。
★『一代婚潮』(1944満洲映画協会)監督・周暁波、脚本・楊輔仁、
出演・孟虹、杜撰、張敏、周凋、冯露、丹江、云逵、
★『百花亭』(1944満洲映画協会)監督・張天賜、
張奕、寧波、顧萍、寒梅、王人路。
★『月弄花影』(1944満洲映画協会)監督・広瀬数夫、脚本・原健一郎、撮影・深田金之助、音楽・竹内輪治、
出演・李顕廷、顧萍、王宇培、
満映第一回の歌謡映画。歌の上手な人気少女を新京放送局よりスカウトし、顧萍という名前でデビューさせた。
★『私の鶯』(1944満洲映画協会)監督・脚本・島津保次郎、企画製作・岩崎昶、原作・大仏次郎、撮影・福島宏、音楽・服部良一、助監督・池田督、製作提携東宝、
出演・李香蘭、千葉早智子、黒井旬(二本柳寛)、進藤英太郎、グリゴリー・サヤーピン、ヴィクトル・ラウロフ、ニコライ・トルストホーフ、オリガ・エルグコーア、
満州事変で北満にいた日本人一家はそれぞれにはぐれてしまい、母をなくした娘は日系ロシア人の交響楽団員の一人に拾われる。やがて娘は歌手となり、父ともふたたびハルビンでめぐり会う。しかし、養父は最後の舞台で倒れて、娘に看取られて息を引き取る。娘は墓前でひとり「私の鶯」を歌う。戦争の中で家族の別離と再会を描いた東宝との提携作品。内地から演技指導の厳しい名匠島津保次郎を迎え、満映の総力をあげて作った自信作といえる。原作は大仏次郎による「ハルビンの歌姫」。主題歌のほか、李香蘭が次々と名曲を歌う音楽映画。当時、ハルビンの劇場で活躍していた白系ロシア人の歌手を多数出演させ、オペラやロシア歌謡を盛り込み、本編で交わされる会話はほとんどロシア語という異色のミュージカル映画である。しかし、この作品は、昭和19年3月に完成しても一般公開されなかった。内務省の検閲で時局に会わずという理由で公開見送りとされ、満州でもそれに倣ったとされている。しかし、昭和59年に「放浪の歌姫」と改題されたプリントが発見された、当初二時間近くあったものが、半分ほどに再編集されたプリントで、昭和61年6月「私の鶯 ハルピンの歌姫」として一般にも公開された。再編集された短縮版とはいえ脚本は残っているので欠落部分の類推は可能である。一説によると、戦勝国(ソビエト、中国)に差しさわりのある部分は遠慮してカットしたとみられる。満映作品として現在唯一見ることのできる満州映画協会娯民映画である。この作品の撮影中、昭和18年3月に、内田吐夢が脚本家・新藤兼人と「陸戦の華・戦車隊」のロケハンのために渡満していて、島津保次郎の撮影隊と会ったという。1960年代の初めに北京の中国電影資料館の外国映画の整理の仕事をしたアメリカ人の映画史家ジェイ・レイダは、この映画をボルシェヴィキを攻撃・非難している反共映画とした。しかし、元の完全版を見ている大塚有章は、「未完の旅路」五巻で「しかし、あの映画自体は愚劣だったな。シナリオも島津氏が書いたと聞いていたが、仮にも反共映画を作ろうというのなら、少なくとも監督は共産主義のABCくらいは勉強してかからねば駄目だと思うな。ハルビンのキャバレーを舞台にして共産主義者が暗躍しているところを描いたつもりだろうが、あそこまでお粗末では張り合う気も起こらんな」と述懐した。
★室内園芸(1944満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
★野戦軍楽隊 1944松竹系 李香蘭
【1945年(昭和20年)】
★『虎狼闘艶』(1945満洲映画協会)監督・大谷俊夫・池田督、脚本・館岡謙之助、撮影・深田金之助、進行主任・牧野寅太郎、
出演・王心賂、薛素煕、
森林匪賊の物語。虎の出てくる場面が見せ場となるはずだったが、動物園の虎を借りることができず、縫いぐるみと実写のカットバックを用いた。
京劇の舞台女優・薛素煕を抜擢して、龍井から森林鉄道で入った奥地で撮影を開始したが、その鉄道で監督の池田督が足を挟まれ大怪我をするという事故があった。急遽、進行主任の牧野寅太郎が、池田督の書いた絵コンテをカメラマンの深田金之助に渡して撮影は続けられた。撮影末期には池田が5月の大量応召で戦地へ向かうこととなり、さらに深田金之助も撮影終了と同時に招集されたが甘粕が軍に掛け合い南嶺からの外出を許されて完成作品を見ることができた。この作品の完成は、池田の師・広瀬数夫によってなされた。池田督は、甘粕からの特別な書状を持っていたにもかかわらず、誰にも見せることなく、ソ連参戦、日本敗戦で捕虜になり、シベリアへ送られた。
★『芝蘭夜曲』(1945満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・周暁波、撮影・杉浦要、音楽・武川寛海、
出演・曹佩箴、
大石橋、娘娘廟を背景とする地での男女の甘い恋物語。
★『蘭花特攻隊』(1945満洲映画協会)監督・笠井輝二、脚本・館岡謙之助、撮影・岸寛身、音楽・武川寛海、
出演・水島道太郎、小杉勇、
昭和20年1月以来、上記のスタッフ・キャストで製作を進行、しかし5月になって笠井輝二監督の応召、そして飛行機の不足から製作中止となった。
★『蘇少妹』(1945満洲映画協会)監督・木村荘十二、脚本・姜学潜・長畑博司、撮影・杉山公平、音楽・武川寛海、
出演・寒梅、
題名の蘇少妹は、宋の詩人・蘇東坡の妹をさすが、実際には妹はなく、伝説中の人物。セットを組み、撮影を開始したところで終戦、未完成に終わった。杉山公平撮影技師は、藤フィルムと交渉して、ラストの部分をカラーにしたい希望があったという。
★『大地逢春』(1945満洲映画協会)監督・周暁波
出演・水島道太郎、小杉勇、
★『夜半鐘声』(1945満洲映画協会)監督・王心斎
出演・王芬蘭
★『租界的夜景』仮題(1945満洲映画協会)脚本・笠井輝二、
昭和19年より満映と華北電影との提携、大東亜省協力作品として笠井輝二が脚本を書き上げた。「脚本が大東亜省の許可を得たので、満映の中村監督、気賀キャメラマン等が華北へ出張、製作スタッフは満映、俳優は華北の企画のもとに天津租界を背景として英国の謀略を描くもの」と、雑誌「日本映画」に紹介された。
●満映における中国人俳優たち
杜撰、周凋、浦克、白玫、江雲逵、王宇培、王安、王影英、王瑛、王麗君、王芳蘭、王芳明、楊恵人、干延江、呉菲菲、劉恩甲、何奇人、戴剣秋、徐聡、李映、李顕廷、李景秋、李雪娜、季燕芬、李唐、李瑞、陳鎮中、曹佩箴、陶滋心、蕭大昌、孟虹、張静、張敏、張望、張奕、張暁敏、張氷玉、張素君、馬黛娟、趙愛蘋、趙成巽、趙恥、趙嘯瀾、張慧、朱徳奎、葉苓、葉笙、隋尹輔、鄭暁君、董波、馬旭儀、安琪、高翮、朱遇春、畢影、杜寒星、劉潮、郭範、尚富霞、候志昂、顧萍、寒梅、袁敏、常娜、梅枝、梅秋、徐明徳、劉婉淑、徐頴、白崇武、李香蘭、
【「満州映画協会」関係文献】国立国会図書館調べ
★満洲映画 [復刻版] 雑誌 ゆまに書房, 2012-2013 東京関西 冊子体
★満州の記録 : 満映フィルムに映された満州 図書 集英社, 1995.8 東京関西 冊子体
★満映男演員名簿 図書 [満洲映画協会], [1940] 東京 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★満映女演員名簿 図書 [満洲映画協会], [1940] 東京 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★「満州映画協会」研究史の整理と今後の展望 雑誌記事 池川 玲子 掲載誌 Image & gender : イメージ&ジェンダー研究会機関誌 7 2007.3 p.99~103 東京 冊子体
★満州映画協会の繁栄と悲劇--大スター李香蘭と甘粕理事長の自決 雑誌記事 掲載誌 政経人 47(5) 2000.05 p.66~74 冊子体
★満映 : 甘粕正彦と活動屋群像 幻のキネマ 図書 山口猛 著. 平凡社, 1989.8 東京関西 冊子体
★幻のキネマ満映 : 甘粕正彦と活動屋群像 (平凡社ライブラリー ; 588) 図書 山口猛 著. 平凡社, 2006.9 東京 冊子体
★「満州」移民映画とジェンダー : 満州映画協会女性監督・坂根田鶴子を中心として 博士論文 池川玲子 [著]. [池川玲子], [2006] 関西 冊子体
★映画随談(第14回)満州映画協会 : 配給部配給係が観た満州とシベリア(1) 雑誌記事 佐伯 知紀 掲載誌 映画撮影 (219):2018.11 p.70-73 東京関西 冊子体
★映画随談(第15回)満州映画協会 : 配給部配給係が観た満州とシベリア(2) 雑誌記事 佐伯 知紀 掲載誌 映画撮影 (220):2019.2 p.60-63 東京関西 冊子体
★甘粕正彦と李香蘭 : 満映という舞台 図書 小林英夫 著. 勉誠出版, 2015.7 東京関西 冊子体
★満映とわたし 図書 岸富美子, 石井妙子 著. 文藝春秋, 2015.8 東京関西 冊子体
★新中国映画の形成 : 旧満州映画協会から東北電影制作所 博士論文 向陽 [著]. [向陽], [2008] 関西 冊子体
★岸富美子(きしふみこ)(元満州映画協会編集者) 甘粕正彦と満洲映画「94歳最後の証言」 雑誌記事 石井 妙子 掲載誌 文芸春秋 92(12):2014.10 p.320-330 東京関西 冊子体
★満映 : 国策映画の諸相 図書 胡昶, 古泉 著, 横地剛, 間ふさ子 訳. パンドラ, 1999.9 東京関西 冊子体 / オンライン
★文化映画 雑誌 文化映画協会 東京 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★文化映画 1(5) 雑誌 文化映画協会, 1938-06 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★文化映画 1(4) 雑誌 文化映画協会, 1938-05 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★初期満映の活動に関する資料--雑誌『月刊満洲』の映画関連記事 (特集 ヴィジュアリズムの光と影--〈満洲〉&東京) 雑誌記事 有馬 学 掲載誌 朱夏 : 文化探究誌 / 『朱夏』編集部 編 (22) 2007.10 p.36~58 東京 冊子体 / オンライン
★映画技術 雑誌 映画出版社 [編]. 映画出版社, 1941-1943 <雑35-335> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★映画技術 6(1) 雑誌 映画出版社 [編]. 映画出版社, 1943-07 <雑35-335> デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★教材映画 雑誌 十六ミリ映画教育普及会 東京 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★教材映画 (64) 雑誌 十六ミリ映画教育普及会, 1940-06 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★講座日本映画 4 (戦争と日本映画) 図書 今村昌平 [ほか]編. 岩波書店, 1986.7 フィリピン映画/寺見元恵/290日本占領下のインドネシア映画/ユサ・ビラン ; 翻訳/浜下昌宏/300満州映画協会/佐藤忠男/312満映崩壊後の日々/森川和雄 ; 鈴木尚之 ; 新藤兼人/324戦後の大衆文化/鶴見俊介 東京関西 冊子体 / オンライン
★朱夏 : 文化探究誌 雑誌 『朱夏』編集部 編. せらび書房, 1991-2007 東京関西 デジタル 国立国会図書館限定 オンライン
★朱夏 : 文化探究誌 (7) 雑誌 『朱夏』編集部 編. せらび書房, 1994-08 .jp2)中薗英助「わが北京留恋の記」 / 田中益三 / p50~51 (0027.jp2)「証言 満州映画協会」を観る / M・T生 / p58~59 (0031.jp2)小特集<サラワク州の今・昔> サラワク デジタル 国立国会図書館限定 冊子体 / オンライン
★文化映画 雑誌 映画日本社 東京関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★文化映画 2(9)(20) 雑誌 映画日本社, 1942-09 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★文化映画 2(5) 雑誌 映画日本社, 1942-05 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★満洲行政経済年報 昭和17-18年版(康徳9-10年) 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 昭和17-18 <14.5-944> 関西 オンライン
★満洲行政経済年報 昭和18年版(康徳10年) 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 昭和17-18 <14.5-944> デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★満洲行政経済年報 昭和17年版(康徳9年) 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 昭和17-18 <14.5-944> デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★満洲行政経済年報 昭和17-18年版 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, [19--] <317.9225-M178-N> 関西 オンライン
★満洲行政経済年報 昭和18年版 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 〔19--〕 <317.9225-M178-N> デジタル 国立国会図書館限定 オンライン
★満洲行政経済年報 昭和17年版 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 〔19--〕 <317.9225-M178-N> デジタル 国立国会図書館限定 冊子体
★矢原礼三郎--経歴及び著作目録 雑誌記事 与小田 隆一 掲載誌 久留米大学文学部紀要. 国際文化学科編 / 久留米大学文学部 [編] (25) 2008.3 p.39~49 東京 冊子体
★満洲から筑豊へ : 幻灯『せんぷりせんじが笑った!』(1956)をめぐる「工作者」たちのゆきかい 雑誌記事 鷲谷 花 掲載誌 映像学 / 日本映像学会 [編] (96):2016 p.5-26 東京関西 冊子体 / オンライン
★映画テレビ技術 = The motion picture & TV engineering 雑誌 日本映画テレビ技術協会, 1965- 東京関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★映画テレビ技術 = The motion picture & TV engineering (465) 雑誌 日本映画テレビ技術協会, 1991-05 『夜の鼓』(1) / 都築政昭 / p40~46 (0028.jp2)長春映画制作所訪問・報告 残影・満州映画協会(下) / 八木信忠 / p47~51 (0031.jp2)TVニュースの現場から 湾岸情勢取材を終 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★映画テレビ技術 = The motion picture & TV engineering (464)
雑誌 日本映画テレビ技術協会, 1991-04 長春映画制作所訪問・報告--残影・満州映画協会(上) / 八木信忠 / p18~22 (0015.jp2)湾岸戦争のなかの国際映画祭--テヘランか デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★満洲国策会社綜合要覧 図書 満洲事情案内所, 1939 <335.49-M178m> 関西 デジタル インターネット公開 冊子体
★図説満州帝国の戦跡 (ふくろうの本) 図書 太平洋戦争研究会 編, 水島吉隆 著. 河出書房新社, 2008.7 首都//94長春の街を歩く 和洋中を折衷した「満州風」建築物の数々//98東洋一のスタジオを擁した満州映画協会//104第5章 ハルビンロシアが築いた国際都市//110ハルビンの街を歩く ヨーロッパの香り漂う 東京関西 冊子体 / オンライン
★映画国策の前進 図書 山田英吉 著. 厚生閣, 1940 <778-Y158e> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★映画国策の前進 図書 山田英吉 著. 厚生閣, 昭15 <773-91> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 マイクロ / オンライン
★映画国策の前進 3版 図書 山田英吉 著. 厚生閣, 昭和15 <特219-301> 東京関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★満洲国策会社綜合要覧 康徳6年度 (満洲事情案内所報告 ; 第54号) 図書 満洲事情案内所 編. 満洲事情案内所, 康徳6 <789-94> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★滿洲映画. Manchou movie magazine 日文版 雑誌 滿洲映畫發行所, 1937-[1939] 東京 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★滿洲映画. Manchou movie magazine 2(8) 日文版 雑誌 滿洲映畫發行所, 1938-09 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★滿洲映画. Manchou movie magazine 2(5) 日文版 雑誌 滿洲映畫發行所, 1938-05 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★満洲帝国 : 満鉄・満映・関東軍の謎と真実 (洋泉社MOOK) 図書 洋泉社, 2014.11 東京関西 冊子体 / オンライン
★ダイヤモンド産業全書 第13 図書 ダイヤモンド社, 昭13 <744-83> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 マイクロ / オンライン
★映画戦 (朝日新選書 ; 13) 図書 津村秀夫 著. 朝日新聞社, 昭和19 <778-Ts74-9ウ> 東京関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★映画戦 (朝日新選書) 図書 津村秀夫 著. 朝日新聞社, 1944 <778-Tu735e7> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★メディアのなかの「帝国」 (岩波講座「帝国」日本の学知 ; 第4巻) 図書 山本武利 責任編集. 岩波書店, 2006.3 東京関西 冊子体 / オンライン
★帝国の銀幕 : 十五年戦争と日本映画 博士論文 Peter Brown High [著] p236 (0126.jp2)2「王道楽土」への招待 / p238 (0127.jp2)3 李香蘭と満州映画協会 / p241 (0128.jp2)4「支那人を描け!」 / p246 (0131.jp2)第8章 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★写真集成近代日本の建築 7 図書 ゆまに書房, 2012.3 東京関西 冊子体 / オンライン
★特殊会社準特殊会社法令及定款集 康徳5年 (調資B5 ; 第10号) 図書 満州中央銀行調査課, 1938 東京 デジタル インターネット公開 冊子体
★二〇世紀満洲歴史事典 図書 貴志俊彦, 松重充浩, 松村史紀 編. 吉川弘文館, 2012.12 東京関西 冊子体
★秘密のファイル : CIAの対日工作 下 図書 春名幹男 著. 共同通信社, 2000.4 ,155,162,164,330マルコムX//(上)56丸紅//(下)390丸山真男//(上)432満州映画協会(満映)//(上)351満州国//(上)235,351,411 (下)79,162,164満州国通信 東京関西 冊子体
★新聞集成昭和編年史 昭和15年度版 1 図書 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1992.10 四七〇津田左右吉博士の取調べ一段落//四七一「ロツパと兵隊」三月の北野劇場//四七一「満州人の少女」満州映画協会//四七一八日ソ連の対芬平和提議・社説//四七一銃後の自粛・社説//四七一ソ連・フィンランド和平交渉 東京関西 冊子体
★新聞集成昭和編年史 昭和14年度版 4 (十月~十二月) 図書 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1992.8 年度輸入洋画百二十本に決る//七三一青年アジア連盟、問題の映画ガンガデイン上映反対に請願書//七三一満州映画協会、映画で日本紹介//七三一蒙古活仏大阪朝日新聞社来訪//七三一元ひとのみち事件結審//七三一二三日議 東京関西 冊子体
★新聞集成昭和編年史 昭和15年度版 4 図書 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1993.4 壮丁武道大会//三〇〇新考案「祝典結び」//三〇〇馬の売上二十五万円・日本競馬会阪神競馬場//三〇〇満州映画協会、上映も直営に//三〇〇八日蘭印の驕慢を戒しむ・社説//三〇〇米大統領第三期施政への片鱗//三〇一ブ 東京関西 冊子体
★新聞集成昭和編年史 昭和13年度版 3 図書 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1991.8 /三七四満蒙、意外な大収穫・演劇行脚の一行帰途へ//三七五仏文豪ジイド氏の作品映画化に横槍//三七五満州映画協会、支那を舞台に進出//三七五映画ニユース・「雪山のアルバム」他//三七五五日国境事件の折衝・社説//
《岸富美子さん(きし・ふみこ=映画編集者)5月23日午前0時33分に老衰のため東京都小平市の病院で死去した、98歳だった。葬儀と告別式は近親者で済ませた。喪主は長女千蔵真理さん。女性の映画編集者の草分け的存在だった。
1920年(大正9年)中国奉天省営口生まれ。家計を助けるために15歳で京都の第一映画社に入社し編集助手となる。溝口健二「浪華悲歌」(1936)で後に女性監督の草分けとなる助監督・坂根田鶴子の下で編集助手を務め、さらに伊藤大輔といった巨匠作品を手伝った後、JOスタヂオの伊丹万作のもとでアーノルド・ファンクの日独合作映画「新しき土」(1937)に参加した。ドイツの女性編集者アリス・ルードヴィッヒに最新の編集技術を学ぶ。その後、1939年に満州(現中国東北部)に渡り、当時「甘粕正彦が君臨し、李香蘭が花開いた満映」といわれた国策映画会社・満洲映画協会に入社、編集助手として李香蘭主演の「私の鶯」など数多くの作品に関わった。
満映崩壊時、ソ連軍侵攻による玉砕覚悟の必死の籠城も経験した。
その後、中国の内戦に巻き込まれ、内田吐夢監督らと共に東北電影製片廠に残り中国共産党の映画製作に協力・従事した。中国共産党による「精簡」(人員整理)や炭鉱労働、学習会での自己批判など過酷な状況の中で出産。国民的映画「白毛女」(1950)に編集者として参加、アリス・ルードヴィッヒから学んだ編集技術を教えて多くの女性編集者を育て、新中国の映画草創期に映画製作の礎を築いた。しかし、日本人が製作に貢献したという事実は伏せられ、2005年まで「安芙梅」という中国名で記録された。戦中の国策映画で学んだ技術が戦後の新中国で花開くという皮肉にも波瀾万丈の人生は、まさに戦前戦後の激動の映画史を駆け抜けた生き証人といえた。
1953年に日本に帰国、帰国後はレットパージのためフリーランスとして主に独立プロで映画編集を手がけた。2015年(平成27年)映画技術者を顕彰する「一本のクギを讃える会」から長年の功績を表彰された。手記の「満映とわたし」(共著)は舞台化された。》
もう何年も前に見たTVのドキュメンタリー番組で、戦時中、満映で映画製作に携わっていた日本の映画人のうち、戦争が終わっても依然として中国の地にとどまり、中国映画の製作に協力した日本の映画人がいたことは知っていました。
その中に岸富美子さんの名前も入っていて、その6月7日付の社会面に載っていた訃報記事を見たとき、すぐにある程度の反応ができたのだと思います。
その記事を読んだあと「満映」をキイワードにして検索をかけたところ、たまたま満映作品「迎春花」をyou tubeで見られることを知りました。
たしか、当時の満映作品というのはことごとく失われてしまっていて、いまでは作品を見られないと聞いていたので、もう少し調べてみると、日本との提携作品とかなら見ることができると分かりました。
まず、スタッフ・キャストのデータを書いてしまうと、こんな感じです。冒頭の字幕を見ながら転記したので、判読困難な字(なにせ、どれもかなりの達筆です)は、見当で転写したので、誤記の可能性は大いにあります。
(1942満映、撮影協力・松竹)監督・佐々木康、脚本・長瀬喜伴、撮影・野村昊、森田俊保、中根正七、美術・磯部鶴雄、音楽・万城目正、録音・中村鴻一、現像・富田重太郎、平松忠一、編集・濱村義康、台詞指導・王心斎、製作担当・大辻梧郎、磯村忠治、撮影事務・安井正夫、
出演・李香蘭、近衛敏明、浦克、木暮実千代、藤野季夫、吉川満子、那威、張敏、日守新一、戴剣秋、袁敏、曹佩箴、干延江、周凋、王宇培、関操、三和佐智子、路政霖、江雲逵、宮紀久子、下田光子、瀧見すが子、
1942.03.21 9巻 74分 白黒
なるほど、なるほど。
この作品「迎春花」も「撮影協力・松竹」だったので現在でも見ることができるというわけですね。
まだ初々しい木暮実千代(「お嬢様」ふうの我儘っぽい持ち味は最初からだったことがこれでよく分かりました)や、小津作品でおなじみの吉川満子とか、黒澤作品「生きる」で鮮烈な印象のある日守新一の顔も見ることができます、そのほかにも日本名の俳優さんたちがかなり出演している作品です。
タイトルの「迎春花」は、中国旧正月(2月)に咲く「黄梅」のこと、ストーリーも「春を待つ感じ」の冬の奉天(瀋陽)が舞台です。
ある日、日本の建築会社奉天支社に支店長の甥・村川武雄(近衛敏明)が東京から赴任してきます。支店長の娘・八重(木暮実千代)はひそかに彼に想いを寄せているという設定ですが、見た感じ「ひそか」というには、いささか御幣があります。まあ、「もし相手が言い寄ってきたら、そのときは受けてあげてもいいわ」くらいの感じなので、武雄に対する関心度は傍からもあからさまですが、彼女には気高いプライドもあり、あくまでも優位に立ちたいペンディング状態なので、なんらの意思表示や働きかけができないでいるという描かれ方です。
しかし、武雄は、同じ事務所で通訳を務める中国人事務員・白麗(李香蘭)に惹かれていますが、決定的な意思表示をするまでには至りません。彼がなにに躊躇しているのか、とくにその理由の説明もありませんし、中国人の白麗もまた、日本人の八重に気兼ねして武雄との付き合い方の距離を測りかねてはいるものの、激しく拒絶するということはなく、親密そうに歌を歌ったりする場面もあるところを見ると、もしかしたら白麗は、武雄に対してなんらかの「可能性(未練)」を残そうとしているのではないかとも考えたものの、ほかに説明がないというのは、武雄や八重のときの描かれ方と同質の、この映画自体の「煮え切らなさ」に通じてしまうようなものを感じました。
ただし、唯一、武雄がはっきりとした意思をもって「言明する」という場面がありました。
武雄は八重に「白麗は、日本人であるあんたに遠慮してホッケーの試合にでないといっているぞ、彼女にそんなことを思わせることをどう思うのだ」と激しく問い詰めています、日頃は「昼あんどん」みたいな温厚な男(しかも、好意さえ寄せていました)から、そんなふうに言われたら、そりぁ相当なショックだと思います、彼の口から白麗をかばい自分を非難する一方的な言葉を浴びせかけられたわけですから、彼女のダメージは相当なものがあったと思います。
会社の命令で、武雄のハルビン出張に通訳として同行するよう指示されたとき、白麗は、彼らのこじれた関係を取り持とうと八重にも同行を誘いますが、結局、どこまでも煮えきらない武雄の態度に苛立ちを募らせて八重は東京へ戻ってしまいます。そして、これを契機に白麗も北京へ去り、武雄は奉天にひとり帰り、仕事の合間に近所の中国人の子供たちを集めて剣道を教える元の生活に戻ります。
このラストの全員離別の急展開に「なんだ、こりゃ」と、思わず呆れ声をあげた人の感想を読んだことがありましたが、自分としては、物語の収束の性急さを除けば、こういう終わり方もアリかなとは思います。八重の気持ちも白麗の気持ちも、そして、武雄の優柔不断さは、十分に理解の範囲内にあります。
ただ、気に掛かるのは、登場人物のそれぞれが抱え持っているあの「煮え切らなさ」でした。
ここまで、書き進んできて、そうそう、あることを思い出しました。
確かあのドキュメンタリー番組を見たときも、いまと同じように「満映」に興味をもって、自分のブログでも取り上げようかとあれこれ調べてみましたが、資料があまりにも少なすぎて、手掛かりというか、これだという取っ掛かりがどうしてもつかめずに、結果的には平凡な報告みたいなものしか書けなかったのだと記憶しています。
たぶん、どうにかこうにか書きあげたものの、文章にしたものは、番組の内容紹介のようなものにすぎず、自分としては不本意なかたちで終わったという感じでした。
そもそもなにが頓挫した原因だったのかといえば、その理由ははっきりしています。
戦争が終わったというのに、日本の映画人(のなかの幾人か)がなぜ中国にとどまり中国の映画づくりに協力したのか、不可解というよりも、なんだか割り切れない「奇妙」な乖離感のようなものを感じたからだと思います。
彼らが中国から協力を要請されとして、その実体は、「半分暴力的にとどまることを強いられたのではないか」という思いから、「日本人の側から祖国への帰還を先送りしてまで、あくまで善意で中国の地にとどまって映画作りに援助する途を選んだのか」まで、その辺の事情をはっきりと知りたかったのだと思います。
もし、前者の場合(強制留置)なら、そりゃあ、戦勝国ソ連の「捕虜を抑留して酷寒の地に追いやり奴隷のように死ぬほど強制的に酷使した」という例もあるくらいですから、中国にだって、たぶんそいうことなら大いにあり得るだろうなと、かえって納得できる部分はあります、もし、前者ならね。
しかし、仮に後者の場合(善意の協力)だとすると、実に「奇妙」な思いに囚われざるを得ません。
戦時中にあっては、当時の日本の映画批評家たちの「満映」作品を論難する痛烈にして冷淡な反応のその語調だけ見ても、満映作品の稚拙さ・劣悪さは、おおかたの察しがつく冷やかなものばかりです。「論ずるにさえ値しない」という、もはや門前払いの印象です。
例えば、1939年製作の満洲映画協会作品に『知心曲』という作品があります、監督は高原富士郎、解説によるとこの作品を撮る以前は文化映画を撮っていた人とかで、これが最初の劇映画だとありました、「トォキィ技巧概論」1935という著作もあると書き添えてありましたが、「日本映画監督全集」(キネ旬1976)には残念ながらその名を見つけ出すことはできませんでした。
映画についての著作もあるくらいですから、ズブの「素人」ではなかったでしょうが、劇映画には経験の浅かったこういう人でも、当初のころの「満映」では、国策と「中国人慰撫」の緊急の必要から、たとえ経験がどうあれ、意欲さえあれば、どんどん採用していったことがこれだけで推察できます。
この映画『知心曲』をハルビンの映画館で見た岩崎昶は、まずは「失望した」と書き残しています、これが満映の傑作では困る、と。上映した館の中国人の支配人もこの作品には大層不満で、こんな感想を彼に話しました。
「満映の映画は、上海映画に比べて、既に半分の価値しかない。そのうえ、その演出にはなんのリアリティも感じられない。スクリーンに展開されるアクションや会話について、そもそも満人はあのような場合にあのようには言わない、あの身振りや心理の動きは、まさに日本人のものであって中国人としては不自然なものだ」と。
岩崎はその中国人の率直な感想を聞いていちいち納得し、いまさらのように満映の仕事の容易ならざる困難を痛感します。
日本からどんなに優れたプロデューサーや映画人が来ても、中国人の生活や生の言葉をまるで理解しないところで、はたしてこれ以上の仕事ができるだろうか。誰もが、満州の映画がこのままでいいと思っているはずはない、岩崎は、そこにこそ満映の製作首脳部の苦悩があると指摘します、どんなに優れた芸術家でも、その国の民衆の生活様式や心理や感情を知ることなしに「芸術」として民衆の生態を表現することは不可能だと。そう分かってはいるものの、どうにもできないでいる現地の状況というものを述懐しています。
読んでみると、いささか腰が引けた遠慮がちな岩崎の、牙を抜かれた不甲斐ない述懐ですが、ときは戦時下、意のある部分を汲み取って真意の片鱗だけはどうにか理解できるような気がします。
しかし、なにもこうした思いは日本人だけのものではなく、中国人もまた、異国からの支配者・侵略者が、政策として強権をもって押さえにかかってくる象徴として、どこの国のことを描いているのやら分からない「奇妙な映画」(かつての日本映画を片っ端から焼き直したわけですからそれは当然で、無国籍映画と表現しています)を見ることを強いられ、内心では屈辱感と敵意と苦々しい怒りを秘めながら、ウワベは従順を装って微笑を浮かべているという、植民地における被支配者・中国人にとっての「嘘とたてまえ」の象徴として「映画」があったのだと思います。
こうした知識人の賢しらな「だから満映作品はダメなんだ」という迷いに対して、例えば今日出海は、「支配の論理」をむき出しにして、こう一石を投じています。
「文化などまるでない所、そもそも町の姿もろくに無かった所に町を建設し、文化を樹立しようとしてゐるのだ。内地から機構設備や工人をもたらして、内地並みの写真を作ろうと心がけて成功するとも思われない。五民族が、あるいは以上の民族がひとつの国家を作ろうというのに、文化のほうが先にできたなどというとんでもない話があるだろうか。(中略)一朝に建国の実が揚がったとは誰も思うまいが、個々のことになると進歩がない、それをもって文化が低いと断じるとは、どうしたことか。一朝にして成った文化など一体どんなものか、想像すらできぬではないか。(中略)思想が形象化する過程は複雑を極めている。映画は技術だという世迷言は撮影所人種の泣き言にすぎぬ。ぼくは監督たちにも会った。(中略)彼らは傑作を出さぬかも知れぬ。しかし要は傑作ではなく、こうした誠実が文化を支持する柱石であり、文化を育む温床であるということだ。」
支配する側と支配される側とのあいだで、決して埋めることの出来ない溝と亀裂のうえで、互いに本音を隠し虚偽と架空のタテマエで成り立っている「映画」でしかないことを誰もが内心では薄々気がついているのに、それでも、終戦後、日本の映画人たちが「祖国への帰還を先送りしてまで、あくまで善意で中国の地にとどまり中国の映画作りに協力する」なんてことが、あり得るだろうかというのが、自分の素直な疑問でした。
中国人にしたって、満映作品に対して「いい気なものだ」とひそかに冷笑していたに違いない彼らがその怒りの乖離を清算して、日本人の「協力」を受け入れたものとはなんだったのか、いろいろな資料を読んでいく過程で、こんなふうに考えてみました。
満映作品に対して「いい気なものだ」と感じるのは、それは、あくまで抑圧されていた中国人の、あくまで鑑賞者としての態度であって、映画を作る側に現場で身を置いていた中国映画人たち、まだまだ技術的には未熟で、日本人から技術を学び習得しなければならなかった中国人たちにとっては、違った考えを持っていたのかもしれないと。それこそ「タテマエ」と「本音」です。
いままで読んできたものは、植民地にあって、支配する側とされる側のどちら側から見るかという二極的な論点ばかりで、「満映作品」を自立した映画作品として見ようという立場からは、程遠い論議のように感じます。
関東軍がどうの、満州建国や甘粕正彦がどうのというところから語り始められた歴史の本や、大局的なところから論じた戦争史なら、それこそ嫌というほど存在しているのに、当の満映で作られた作品そのものについて言及した資料がほとんどなく、例えば、どういう作品が作られたのか、具体的・逐事的に列挙したような資料が手にすることができなかったからだと思います。
しかも、そのなかでも手にすることのできた限られた資料から読み取れるものといえば、どれもがふたつに引き裂かれているような矛盾と乖離に満ちたものばかりだったということもあります。
日本の植民地支配・管理者にとっての「満映」で作られた作品は、単に、中国人を日本人化しようという目的で作られたふたつの顔(強圧と慰撫)を持っていたものであることが分かります。当時、上海で中国人が撮っていた抗日映画に包囲されている状況下において、対内的にも対外的にも日本の当局者が植民地支配を正当化し対抗するための「宣伝」がどうしても必要とされて、そのひとつが「映画」だったにすぎず、内容的には、中国人への「日本教育」とか「飼い馴らし」にあったのであって、作品の質なんかは二の次、実際、日本の当時の批評家が、この「植民地映画」をまともに論じた(難詰した)ものも幾つかあって、ぼくたちはその惨憺たる評文を孫引きによって読むことができます。
日本国内にあって批評家たちに「満州映画」が箸にも棒にも掛からない愚作だと酷評されていたときに、はたして満映の撮影現場にあっても、意気消沈したり反省したり、みずからの無能さに失望したり自己嫌悪におちいったかどうか、
佐藤忠男の「キネマと砲聲」(岩波現代文庫)という本を読み始めたときに痛感したことがありました。
副題に「日中映画前史」とあるこの本は、満映を調べているいまの自分の調査にはまさに打って付けの本だと、飛びつきました。
自分は、中学のときに教えられた通り、新たな本を読む場合は、最初に「まえがき」を読み、「目次」を眺め、「あとがき」に眼を通してから、おもむろに本文を読み始めるというプロセスをずっと堅持・励行しているのですが、まあ、この本に「まえがき」(著者の執筆意図を知るうえでの早道とかつて教えられました)こそありませんでしたが、「目次」を見ると、書かれているのは、おもに中国映画全般にわたっていて(当然です)、「満映」について書かれている部分といえば、「7、『満州』に日本が夢の工場を作る」と「14、満映が活動する」のふたつの章でした。なるほど、なるほど。
そして、巻末の「著者ノート」には、衝撃的に一文がありました。
「私はこの本を、日中友好のために書いたのであって、現在の中国映画界に無用の波風を立てるために書いたのではない。何人かの中国の友人から、この点について憂慮に充ちた忠告を受けたが、この本を読んでいただければ私の真意は理解していただけると思う。日本の占領下に生きた中国映画人の苦難と苦悩の責任はすべて日本側にある。この本はその日本側において可能な限り中国に友情を保とうとした何人かの日本の映画人の存在を強調したが、だからといって日本人の全体の責任を軽減しようとはまったく思っていない。」
この文章には、映画「迎春花」に感じた「煮え切らなさ」と同質のものが脈々と受け継がれているような気がしました。
●満洲映画協会 全仕事
【1938年(昭和13年)】
★『壮志濁天』(1938満洲映画協会)原作・脚色・監督・坪井與、脚本・仲賢礼、撮影・大森伊八、
出演・王福春、鄭暁君、劉恩甲、張敏、戴剣秋、
匪賊に襲われ、肉親や親友を失った村の青年・劉得功は、匪賊首の馬徳堂を討つために満州国軍に入ることを決意する。恋人の瑞坤は得功を励ましたが、年老いた母や叔父は反対していた。しかし、吉林の第二軍管区に入隊した得功は、やがて伍長に昇進した。そしてある年の匪賊討伐でついに馬徳堂を倒した。得功も深い傷を受けたが、国防婦人会の看護を受けて間もなく治癒した。やがて除隊となって村へ帰ると、村人全員が彼を英雄として迎えた。
この作品は、仮スタジオ完成前のために新京郊外と吉林でのオールロケでほとんど作られた。元マキノ映画の撮影の大森伊八(元P・C・L)のほかは、監督の坪井與(元満州日報社記者)も含めてほとんど素人ばかりで、出演者も近藤伊與吉の特訓を受けた新たに募集したニューフェイスばかりだった。脚本を書いた仲賢礼は、政府の弘報処の役人で映画も満州国軍が活躍する軍の宣伝臭の強い作品になった。この作品は、劇場公開されず、縦貫映画に使われただけなので試作品というところ。嵐寛プロで山中貞雄と仕事(戸波長八郎、磯の源太・抱寝の長脇差)をしたカメラマンの藤井春美は、後輩吉田貞次に「あんなもの、映画のテイをなしておらん」と一蹴し、一度は渡満の要請を蹴ったものの、のちに吉田とともに満映に入社する。
★『明星的誕生』(1938満洲映画協会)原作・脚色・監督・松本光庸、撮影・竹内光雄、照明・松田藤太郎、
出演・何奇人、張敏、孟虹、曹佩箴、高翮、
田舎の青年男女が映画俳優に憧れ、都会に出て首尾よく俳優になることができた。その俳優生活は想像していたようなものではなく、明朗健全なもので彼らのその生活ぶりが展開されていく。坪井與とともに、満映に入社した松本光庸の作品で、彼はそれまで、満日新聞記者として映画評論を書いていた。
★『七功図』(1938満洲映画協会)監督・矢原礼三郎、原作・脚色・裕振民、撮影・杉浦要、
出演・高翮、季燕芬、孫李星、王宇培、劉恩甲、
孫仁の経営する選択屋で働く李意は、その店の娘小茹をひそかな思慕を抱いていた。孫仁は、失業している青年建築家の趙吉、そしてその友人の銭祥に家を貸していた。二人は家賃を払えずに困っているが、小茹は趙吉に同情していた。小茹は趙吉から、李意が自分の事を熱愛していることを聞かされた。
★『満里尋母』(1938満洲映画協会)原作・脚色・監督・坪井與、撮影・大森伊八、
出演・葉苓、郭紹儀、王丹、戴剣秋、
か弱い少年が、母を訪ねて、ただひとりの老人の庇護を頼りに流浪の旅を続け、ついに母にめぐり会う。ヴィクトル・マローの小説「家なき児」を坪井與が脚色し、主演の少年役には女優の葉苓が扮した。娯楽作品として主題歌が挿入され、レコードも吹き込まれた。
★『知心曲』(1939満洲映画協会)監督・高原富士郎、脚本・重松周、撮影・杉浦要、録音・井口博、
出演・杜撰、李鶴、季燕芬、劉恩甲、王宇培、
不良の趙国傑は、ダンスホールで働く恋人の梅麗に、まともな生活をするように説得され、これからは改心してまともになると心に誓った。国傑はある日、子供を轢いて逃げる自動車を目撃した。その自動車を張氏の家まで追うと、その正義心を張氏に惚れ込まれて彼の息子の家庭教師となった。その息子がギャングにさらわれる事件が起こったが、国傑と警官の活躍で解決した。負傷した国傑を看護するのは、国傑に思いを寄せる張氏の令嬢。貧しい花束を抱いて見舞いに来た梅麗は、国傑の将来を思い、身を引こうとした。しかし、国傑は、梅麗のアパートに帰ってきた。
それまで文化映画を撮っていた高原富士郎の始めての劇映画で、著書には「トォキィ技巧概論」1935がある。この映画をハルピンの映画館で見た岩崎昶は失望したと書いている、これが満映の傑作では困る、と。上映した館の支配人も大層不満で、彼からこんな感想を聞く。「満映の映画は、上海映画に比べて既に半分の価値しかない。そのうえ、その演出において何のリアリティも感じられない。スクリーンに展開されるアクションや会話について、そもそも満人はあのやうな場合にあのやうには言わない、あの身振りや心理の動きは、まったく日本的で不自然である」と個々に注釈をつけて不満をもらした。ぼくはそれを聞いていちいち頷ながら、いまさらのように満映の仕事の容易ならぬ難しさを思い知ったのだった。いまのところ、日本からどんなに優れたプロデューサーや芸術家が出かけていったとしても、すぐにこれ以上の仕事はできないに相違ない。しかも、満州の映画がこれであってはいけないこともはっきり分かっているのである。そこに満映の製作首脳部の苦悩がある。どんな国民でも、その生活様式や心理や感情の隅々までを知らずに、これを芸術に表現することは不可能である」
だから満映作品はダメだというこの風評に、今日出海は一石を投じます。
「文化などまるでない所、そもそも町の姿もろくに無かった所に町を建設し、文化を樹立しようとしてゐるのだ。内地から機構設備や工人をもたらして、内地並みの写真を作ろうと心がけて成功するとも思われない。五民族が、あるいは以上の民族がひとつの国家を作ろうというのに、文化のほうが先にできたなどというとんでもない話があるだろうか。(中略)一朝に建国の実が揚がったとは誰も思うまいが、個々のことになると進歩がない、それをもって文化が低いと断じるとは、どうしたことか。一朝にして成った文化など一体どんなものか、想像すらできぬではないか。(中略)思想が形象化する過程は複雑を極めている。映画は技術だという世迷言は撮影所人種の泣き言にすぎぬ。ぼくは監督たちにも会った。(中略)彼らは傑作を出さぬかも知れぬ。しかし要は傑作ではなく、こうした誠実が文化を支持する柱石であり、文化を育む温床であるということだ。」
★『大陸長虹』(1938満洲映画協会)原作・脚色・監督・上砂泰蔵、監督助手・周暁波、撮影・玉置信行、
出演・玉福春、杜撰、鄭暁君、季燕芬、
積鴻は不良の仲間に入り、警察署に留置されたりするので、妹の秀娟はいつも心配していた。積鴻は家に帰った晩、金を持ち出そうとしてあやまってランプの火から火事を起してしまう。秀娟は許婚の李慶恩に救われたものの、慶恩は悪徳警官の策略で放火犯として連行されてしまう。そこに満州建国となった。秀娟は賄賂の金を持って警察へ行ったところ、新国家の警官は正しい者の味方で賄賂など受け取らないと説諭された。慶恩も釈放され、みずからも警官になることを望み、新京の警察官訓練所に入った。妻となった秀娟を連れて、警官となった慶恩は、田舎町に赴任した。渡し舟で子供が溺れたのを慶恩が助けたことから、架橋問題が持ち上がった。やがて橋ができ、町の人々と慶恩夫婦の喜びは大きかった。
監督の上砂泰蔵は、同志社大から新興キネマに入り溝口健二、村田実、内田吐夢の助手を務め、「敵艦見ゆ」1934などを撮ったのち満映に入社した。
【1939年(昭和14年)】
★『蜜月快車』(1939満洲映画協会)監督・上野真嗣、原作・脚色・重松周、撮影・池田専太郎、録音・井口博、
出演・李香蘭、杜寒星、張敏、周凋、戴剣秋、馬旭儀、
子明と淑琴は列車に乗って新京から北京への新婚旅行に出発する。奉天で寝台車に乗り換えたところ、向かいのベッドの男は泥棒で、淑琴のトランクが盗まれてしまう。しかし、泥棒がベッドから転げ落ちてひと騒動おきる。子明と淑琴のあいだでも早くも痴話喧嘩がはじまる。列車が錦県駅に入ると、情婦を連れて北京に向かおうとしていた実業家の孫氏が、ヒステリーの夫人に見つかりひと悶着おきる。さまざまなトラブルを巻き起こして列車は北京へと走り続ける。北京に着いて、ふたりはようやく幸せになる。
李香蘭のデビュー作。大谷俊夫監督「のぞかれた花嫁」(日活多摩川作品)の翻案作品である。日本のB級映画を片っ端から換骨奪胎し満映映画を作った。質より量の、いわば大量生産体制の確立を象徴する一本である。監督の上野真嗣は上砂泰蔵とともに1937年満映に入社した。淑琴を演じた李香蘭は「デビュー作の辛かったこと、恥ずかしかったことは今でも忘れられない」と、自伝に記した。以後、5本立て続けに出演し、李香蘭は人気と名声を高める。そして昭和14年、東宝と提携した渡辺邦男監督「白蘭の歌」「熱砂の誓ひ」が、日本で公開された結果、満映の李香蘭の名は爆発的に高まった。しかし、このことによって、皮肉にも李香蘭は、あくまでも「中国人」でいなければならなかった。彼女の苦悩はここから始まった。
★『田園春光』(1939満洲映画協会)監督・高原富士郎、原作・脚色・山川博、撮影・杉浦要、
出演・李鶴、杜撰、張敏、崔徳厚、
満州の都市と田舎とが背景となり、若い男女の恋がついに田園に実を結び、地方農業の開発に力を注ぐ、満州の農村建設を謳った国策的恋愛映画。
★『國法無私』(1939満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、原作・脚色・楊正仁、撮影・池田専太郎、
出演・郭紹儀、李明、薜海樑、張敏、
法と愛情の岐路に立たされた検察官が、法のために全ての至上をなげうつ。満州国における法の神聖さを謳った水ケ江龍一の入社第一回作品。日活映画「検事とその妹」の翻案である。
★『国境之花』(1939満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、原作・脚色・楊正仁、撮影・藤井春美、
出演・隋尹輔、王麗君、王福春、徐聡、
青年アルタンの父母はソ連外蒙軍にスパイ容疑で射殺され、アルタンは叔父に連れられて内蒙で成長した。やがてアルタンは軍学校に入り、卒業すると見習い士官となって帰郷した。アルタンが思いを寄せている西宝が、アルタンの配属されている守備隊を訪ねた。その帰り、西宝は連行されソ連兵に守備隊に関してのことを尋問される。なにも答えない西宝は夜中に密書を奪って逃走した。その密書により某事件の企みが判明する。日本軍はその先手を打って勝利を収めることができた。アルタンも戦闘中に傷を負ったが、西宝が看病した。
★『富貴春夢』(1939満洲映画協会)監督山内英三・上野真嗣・鈴木重吉
〈プロローグ〉監督・鈴木重吉、脚本・荒牧芳郎、
〈第一話〉監督・山内英三、脚本・図斉与一、
〈第二話〉監督・上野真嗣、脚本・津田不二夫、
〈第三話〉監督・上野真嗣、脚本・長谷川清、
〈第四話〉監督・上野真嗣、脚本・木村能行、
〈第五話〉監督・上野真嗣、脚本・荒牧芳郎、
〈エピローグ〉監督・鈴木重吉、脚本・荒牧芳郎、撮影・藤井春美、
出演・李香蘭、杜撰、張敏、戴剣秋、
百万円という大金を手にした人々のさまざまな物語。第一話は、罪を犯した子と逞しい母親の愛情との双曲線。第二話は、いつも怒鳴られてばかりいる小僧が手にした百万円。第三話は、帝政時代をしのぶイワン将軍の儚い夢。第四話は、豪華な料理よりは焼き芋が大好物の大王少年。第五話は、百万円は手にしたが、その代わりに恋を失う・・・彼方の空中楼閣で、金の神と貧乏の神とが、それらの人々の姿を眺めては人間を幸福にするものはいったい何なのか、首をひねっている。
★『冤魂復仇』(1939満洲映画協会)監督・大谷俊夫、原作・脚色・高柳春雄、撮影・大森伊八、
出演・張書達、劉恩甲、李香蘭、周凋、
満映最初のお化け映画で勧善懲悪の意思を持つお化けが活躍する。佐藤忠男は「キネマと砲聲」で、当時の野口久光の「満映作品に望む」を紹介している。「ここにはアメリカ製喜劇の型をそのままに、李香蘭をヒロインに、張書達、劉恩甲をコメディアンに見立てた仕草をやらしている。ピンからキリまで、てんでアメリカ映画の模倣なのだ。ローレル、ハーディの二巻物の同じ単純な構成、いや全然これは二巻物の台本である。その二巻物の台本を九巻に撮ってしまったのだからたまらない。これが映画に訓練されていない満人大衆に理解させるための映画手法というなら、もう何も言う言葉はない。・・・日本は将来の満州国の幸福を約束しなければならないと同様、満州映画の芸術発展を全責任を持って当たらなければならない」(キネ旬「日本映画監督全集」の「大谷俊夫」項中、岸松雄の記述からの孫引き)
★『慈母涙』(1939満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、原作・脚色・荒牧芳郎、撮影・藤井春美、
出演・李明、張敏、李鶴、杜撰、崔徳厚、王宇培、周凋、趙玉佩、
美貌の歌手・李麗淬は、資産家の息子・曹鳳閣との子・兆鵬を産む。しかし、鳳閣は、麗淬との結婚を両親が許さない。そして鳳閣は曹愛茄と結婚させられてしまう。麗淬は、乳飲み子を抱えて吉林の友人を訪ねるが友人は既に転居していた。行く当てもなく吹雪の中をさまよったあげく倒れていた麗淬母子は成財夫婦に助けられる。わが子を成財夫婦に預け、麗淬は、奉天に働きに出る。八年たっても子宝に恵まれない鳳閣は、成財夫婦を騙して兆鵬を連れ去る。事情を聞いた麗淬は兆鵬を取り戻すが、しかし、兆鵬は成財夫婦になついており、麗淬にはなつこうとしない。麗淬は兆鵬の幸福を祈りながら、ふたたび北満へと働きに出てゆく。本作品は曽根純三監督「母三人」(新興キネマ)の翻案作品である。
★『真仮姉妹』(1939満洲映画協会)監督・高原富士郎、脚色・長谷川清、撮影・島津為三郎、音楽・長沼精一、
出演・李明、鄭暁君、王宇培、杜撰、張敏、徐聡、季燕芬、
吉林の片田舎、郁芬と郁芳の姉妹は年老いた母の手一つで育てられた。その母は、臨終の床で姉の郁芬に遺言書を渡し、それを妹に見せるように言い残して息絶えた。郁芬がその遺言書を盗み読むと、そこには妹がある大金持ちの娘で、郁芬の母はその乳母であることが記されていた。郁芬は遺言書を破り捨てると、ある日、母の告白により自分は金持ちの娘であることが分かったと妹に語る。姉の言葉を信じた妹の郁芳は、姉の留守にふと目にした新聞の尋ね人が姉のことと知り、その広告主に手紙を出す。やがて姉は周佑臣に引き取られ、そして佑臣の甥の李家璧と婚約する。しかし、かつての恋人の王琦が現れて郁芬に結婚を迫る。相手にされなかった王琦は、嵐の夜に郁芬を殺し、自らも命を絶った。死の間際、息も絶え絶えの郁芬は、皆に真実を話すと息を引き取った。
★『煙鬼』(1939満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、原作・坂田昇、脚色・中村能行、撮影・藤井春美、
出演・周凋、李顕廷、馬旭儀、季燕芬、張翊、徐聡
銀行員をしている依健章の娘小菊は周家に嫁ぐ。しかし、周家は阿片屋の王某に借金があり、父の健章は、そのために不当貸付をし、自らも阿片屋へと入っていく。小菊は虐待から逃れるために家出をし、戒煙所に勤める。健章の息子・萬年は警官だが、父の不始末に耐え切れず辞表を出す。しかし、所長に諭されて思いとどまる。健章は、王某から逃れることができずに、ケシ畑の管理をさせられている。やがて萬年の所属する警官隊がここを襲い、健章は死ぬ。萬年は父の死を悲しみながらも、阿片の害悪と闘う決意を新たにする。題名の「煙鬼」とは阿片患者のこと。満州の阿片断禁政策を強調するための吉林省からの委嘱作品で公募脚本を助監督・古賀正二が手を加えた。
★『東遊記』(1939満洲映画協会・製作提携・東宝映画)監督・大谷俊夫、原作・脚色・高柳春雄、撮影・大森伊八、
出演・劉恩甲、李香蘭、霧立のぼる、原節子、高峰秀子、藤原釜足、沢村貞子、小島洋々、
満州の片田舎に住む陳と宋は、東京で華やかな生活を送っている友人・王からの手紙に心躍らされ東京へ行く決心をする。東京へ着くとサンドイッチマンの仕事をしながら友人・王を探す。やがてあたりの仕事が認められて化粧品会社の宣伝の仕事につき、美人タイピストの麗琴が通訳として付けられる。その後、二人は昭和映画の俳優となり、ある日、満州料理店で王と出会う。通訳の麗琴は王の妻の姉であり、しかも日本人の愛人がいることが分かった。その麗琴の結婚を機に、二人はふたたび満州へ帰って働くことを決意した。満州国民に日本を紹介する目的で、当方の協力の下に作られた。日本公開は1940年。
東遊記 1939満映系 李香蘭
★『鐡血慧心』美しき犠牲(1939満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・高柳春雄、撮影・杉浦要、
出演・李香蘭、趙愛蘋、姚鷺、劉恩甲、杜撰、隋尹輔、李顕廷、
密輸業者を討伐する警士の献身的な活躍を描く。1941年「美しき犠牲」の題名(日本映画貿易株式会社提供)で日本でも公開された。山口猛の「幻のキネマ・満映-甘粕正彦と活動屋群像-」(平凡社)19頁には、日本公開時のポスター(大写しの李香蘭)を掲載していて、その本文の解説では中国における「満映」の微妙な立場に言及している。
《戦前のプロキノ運動の中心的メンバーであり、満州の製作に関係して、戦後もジャーナリストとして活躍した北川鉄夫(当時は西村隆三と名乗っていた)は、はっきりと言い切っている。「『満映』は日本の映画史における恥部である」と。一方この満映作品については、今日見ることができないこともあり、評価をすることは難しい。ただ、当時の一般的な作品評価はきわめて低く、「映画旬報」でも、酷評に近いものが多い。たとえば「鐡血慧心」にしても、「映画旬報」(昭和16.10.21号)では、「すぐれた映画を紹介するのが輸入業者の公徳心ならこの作品は輸入しない方がいい」、さらには「この映画の内容は粗悪」とまで評されている。ならば、満映は芸術性とは無縁だったのかといえば、これには、はっきり「否」と答えることができる。・・・いわば、満映の芸術的価値は、その時点で結実しなくとも、未来ということでは、大きな貢献をしたのである。国内的には、内田吐夢、加藤泰から吉田貞次、坪井誠といった、日本を代表するまでになる多くの監督、技術者を生み出したことを見れば十分だろう。のみならず、中国に対してでも、その後の中国映画に旧満映の人々が及ぼした影響は大きなものがある。すでに、彼(亡くなる一年程前の八木保太郎)には、かつての豪傑の面影はなく死因の直接的な箇所である足がかなり痛そうで、話すのも辛そうだった。それでも、満映について、彼は悲痛にこう叫んだ。「あそこの写真は違うんだ!」日本人が関わりながら、中国人のための映画制作をしている奇妙さ。できあがった国籍不明の混血児とも言うべき作品。ここで、彼は筆を取ることなく、製作事務に励んでいた。だが、八木は、思想では正反対であるはずの甘粕の信奉者であることを隠そうともしなかった。不思議なことに立場として正反対にいる人も、八木同様、ほとんど例外なく、この甘粕正彦に対して親近感を示す。「満映は恥」とする北川鉄夫でさえ、甘粕が魅力的であることを否定しないどころか、「人物の大きさは首相級」と、人間的魅力を、むしろ誰よりもよく語っているほどである。こうした矛盾。それは満映という国策映画会社のもつ本質ではなかったのだろうか。満州という侵略国家の中の文化的象徴としての満映、橋頭堡としての満映が、片や中国人の映画を育て、密接な人間関係が成立してしまった。満映には、そうした矛盾が、至るところに渦巻いていたのである。右翼や軍人に対してはもちろん、左翼の人々に対しても、驚くほど深い洞察力を持っていた甘粕正彦に、それは凝縮していたかもしれない。》
鉄血慧心 1939満映系 李香蘭
★『白蘭の歌 前篇』製作・森田信義、演出・渡辺邦男、製作主任・斎藤久、脚色・木村千依男、原作・久米正雄、撮影・友成達雄、音楽・服部正、演奏・P.C.L.管弦楽団、主題歌・「白蘭の歌」(詞・サトウ・ハチロー、曲・竹内信幸、歌・伊藤久男、二葉あき子)、「いとしあの星」(詞・久米正雄、曲・服部良一、歌・渡辺はま子)、装置・北猛夫、録音・鈴木勇、照明・岸田九一郎、編集・岩下広一、満語監修・首藤弘、製作=東宝映画(東京撮影所)1939.11.30 日本劇場 2,128m 78分 35mm 白黒
出演・長谷川一夫(松村康吉)、斎藤英雄(次弟 徳雄)、中村英雄(末弟 克之)、中村健峰(三人の父)、山根千世子(三人の母)、山根寿子(松村京子)、霧立のぼる(松村杏子)、悦ちゃん(悦子)、清川虹子(芸者歌丸)、高堂国典(建設局長 八丁)、小杉義男(康吉の親友 秋山三郎)、御橋公(康吉の叔父)、江波和子(その娘)、榊田敬治(移民村団長)、谷三平(移民村の隣人 世話役安田)、加藤欣子(その女房)、原文雄(測量隊長 大森)、大杉晋(隊員 鈴木)、手塚勝巳(隊員 三浦)、李香蘭(李雪香)、王宇培(雪香の父 李苑東)、崔徳厚(李苑東の義弟 程応棋)、徐聡(その息子 程資文)、趙書琴(下婢)、芦芸庭(趙祐臣)、李林(苦力場)、張翊(山荘の下男)、薫波(密偵)、宋来(敗残兵A)、当波(敗残兵B)、華愚(敗残兵C)、進藤英太郎(義勇軍訓練所長 後藤)、小島洋々(満鉄総裁)、生方賢一郎(副総裁)、藤田進(満鉄理事)、藤輪欣治(満鉄理事)、柏原徹(満鉄理事)、江藤勇(運輸局長)、伊藤洋(文書課長)、横山運平(下男)、三條利喜江(カフェーのマダム)、
★『白蘭の歌 後篇』
製作・森田信義、演出・渡辺邦男、製作主任・斎藤久、脚色・木村千依男、原作・久米正雄、撮影・友成達雄、音楽・服部正、演奏・P.C.L.管弦楽団、主題歌・「白蘭の歌」(詞・サトウ・ハチロー、曲・竹内信幸、歌・伊藤久男、二葉あき子)、「いとしあの星」(詞・久米正雄、曲・服部良一、歌・渡辺はま子)、装置・北猛夫、録音・鈴木勇、照明・岸田九一郎、編集・岩下広一、満語監修・首藤弘、製作=東宝映画(東京撮影所)1939.11.30 日本劇場 1,812m 66分 35mm 白黒
出演・長谷川一夫(松村康吉)、斎藤英雄(次弟 徳雄)、中村英雄(末弟 克之)、中村健峰(三人の父)、山根千世子(三人の母)、山根寿子(松村京子)、霧立のぼる(松村杏子)、悦ちゃん(悦子)、清川虹子(芸者歌丸)、高堂国典(建設局長 八丁)、小杉義男(康吉の親友 秋山三郎)、御橋公(康吉の叔父)、江波和子(その娘)、榊田敬治(移民村団長)、谷三平(移民村の隣人 世話役安田)、加藤欣子(その女房)、原文雄(測量隊長 大森)、大杉晋(隊員 鈴木)、手塚勝巳(隊員 三浦)、李香蘭(李雪香)、王宇培(雪香の父 李苑東)、崔徳厚(李苑東の義弟 程応棋)、徐聡(その息子 程資文)、趙書琴(下婢)、芦芸庭(趙祐臣)、李林(苦力場)、張翊(山荘の下男)、薫波(密偵)、宋来(敗残兵A)、当波(敗残兵B)、華愚(敗残兵C)、進藤英太郎(義勇軍訓練所長 後藤)、小島洋々(満鉄総裁)、生方賢一郎(副総裁)、藤田進(満鉄理事)、藤輪欣治(満鉄理事)、柏原徹(満鉄理事)、江藤勇(運輸局長)、伊藤洋(文書課長)、横山運平(下男)、三條利喜江(カフェーのマダム)、
満鉄の優秀な技師・村松はが熱河の豪族の娘と恋に落ち、上司の娘や父が遺言で薦めた養女との縁談も断る。長谷川一夫と初共演の李香蘭は、生粋の満州娘として登場し、大陸の理想化されたイメージと一体化して絶大な人気を博した。長谷川一夫にとっては東宝入社以来、初めての現代劇だった。
☆あるサイトで「白蘭の歌」を東宝との提携作品と表示しているものがありましたが、jmdbによると、どうも「製作=東宝映画(東京撮影所)」らしく、あきらかに「製作・提携東宝映画」は誤りのようですが、満映映画の常連俳優が多数参加しており、満映にとっても重要な重要な作品だと思うので、当一覧に加えることにしました。
白蘭の歌・前後篇 1939東宝系 李香蘭
【1940年(昭和15年)】
★『愛焔』(1940満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・楊葉、撮影・遠藤灊吉、
出演・李明、李顕廷、王福春、趙愛蘋、
李警士の妹・素雲は村の豪農の息子・王景福の児を産むが、王の両親は二人の結婚を許さない。素雲は子どもを他へ預け、新京で看護婦となって働く。しかし、留守中に子どもは病死してしまう。そして王には別の女との結婚話が持ち上がっていた。警士は妹を思って王の両親に結婚を許してくれるよう頼むが無駄だった。王の結婚式の日がきた。なにも知らない素雲は、子どもと王に会うのを楽しみにかえってきた。恋人に裏切られたことを知った素雲は、思い余って王の家に放火してしまう。やがて兄の言葉に従い、墓に眠る子供に別れを告げると、裁きを受けるために自首して出るのだった。
★『現代日本』(1940満洲映画協会)監督・脚本・大谷俊夫、撮影・杉浦要、
出演・周凋、隋尹輔、徐聡、白玫、中田弘二、風見章子、日暮里子、
宋と陳は、それぞれ満州国と中華民国の村長をしている。そして宋の息子・英福、陳の娘・桂芳もそれぞれに日本に留学中である。恋人同士のふたりの誘いで、宋と陳は日本見物の旅に出る。一緒に神戸に着いた宋と陳は、英福と桂芳の案内で神戸、大阪、奈良、京都と見物し、日本の美しさに感心する。旅はさらに名古屋、東京へと続く。東京では、皇紀二千六百年紀念の祝典の真っ最中で、宋と陳はすっかり日本通になる。英福と桂芳の結婚も手っ取り早く取り決めると、飛行機に乗って帰国の途についた。
★『如花美眷』(1940満洲映画協会)監督・脚本・荒牧芳郎、撮影・池田専太郎、
出演・郭紹儀、隋尹輔、白玫、陶滋心、
身寄りのない麗仙と麗英の姉妹は楊家に引き取られて生活していた。楊家には会社員の兄・克勤と絵の勉強のために洋行している弟・克明がいた。克勤と麗仙とは相愛の中だったが、克明が帰国すると麗仙の心は克明に移っていった。克勤は二人の仲を知って、自ら東辺道の支社へと転勤していった。麗仙は克明と結婚したが、克明の放蕩、そしてむかしの愛人の出現から悲観のあまり家出をする。しかし、克勤に諌められてふたたび固く結ばれる。やがて克勤も麗英と結ばれて新しい生活を始めた。
★『情海航程』(1940満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・熙野(八木寛、長畑博司、張我権)、撮影・藤井春美、
出演・徐聡、季燕芬、白玫、崔徳厚、
王世寛は、幼少のころに両親を失い、張家の世話を受けていた。世寛を見込んだ張家は、世寛が大学を卒業したのち、娘の素琴と結婚させることを約束して、彼を日本へ留学させた。世寛がいなくなったのを幸いに、かねてより素琴に横恋慕していた李永禄は金の力で無理やり素琴と結婚してしまう。世寛は、急いで帰国したものの学生の身分では何もできるはずもなく、自暴自棄になって、高利貸・鄭夫人の手先となった。素事の夫は放蕩三昧の生活から、商売も破綻、世寛より金の援助を受けることになる。そして世寛の悪辣さに逆上し彼を射殺しようとするが、素琴に阻まれてかえって自ら死んでしまう。素琴も自責の念から命を絶とうとするが救われる。病床の素琴を前に、世寛はふたたび人生に幸福を見出す。日満脚本家共同による第一回作品で、熙野は三人の共同のペンネーム。満映が洪熙街にあったことに由来する。なお坪井與の記録では、荒牧芳郎の脚本とある。
★『誰知她的心』(1940満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・熙野(八木寛、長畑博司、張我権)、撮影・谷本精史、
出演・葉苓、王麗君、李顕廷、白玫、
小英は、周家の女中として働いていたが、きれいな着物も着られず、化粧ひとつすることのできない今の境遇が情けなく、周家の娘のような令嬢生活に憧れていた。折りしも周一家が旅行に出ることになり、広い豪邸の留守を預かる女中の小英と王媽のふたりは、伸び伸びとした日を迎える。周家の娘の着物を着てすっかり令嬢気取りの小英を、趙喆生は周家の令嬢と誤解して、ふたりの仲は急速に発展する。小英が本当のことを言い出すことができないうちに、とうとう一家が旅行から帰ってくる日がきた。騙されたことを知った趙喆生は怒り、小英も田舎に帰る決心をする。しかし、一度は起こった趙喆生も純情な小英が犯した夢を許して、改めて彼女の手を固く握りなおすのだった。周暁波に次ぐ満州側の二人目の監督による作品。
★『有明自遠方来』(1940満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・張我権、撮影・藤井春美、
出演・徐聡、杜撰、白玫、李鶴、陶滋心、
徐緩と佩娟の新婚家庭に、徐緩の同窓で鉱山師として山を渡り歩いている豪傑の趙自強が突然闖入してきた。この闖入者、一日中酒ばかり飲み、酔うと金鉱主の令嬢を助けた武勇談を繰り返す。二人は夫婦喧嘩の芝居をしてなんとか追い出そうとするが、俺が新しい女房を世話すると言い出して佩娟を追い出し、金鉱主の令嬢秀敏との見合いの段取りまでする。見合いの席上、徐緩は白痴を装って難を逃れると、金鉱主は娘の結婚相手は趙自強と決め、押し問答となる。さすがの豪傑も困ってふたたび鉱山に逃げ去り、徐緩と佩娟にも甘い新婚生活が戻ってきた。
★『風潮』(1940満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、撮影・谷本精史、
出演・張敏、徐聡、季燕芬、趙愛蘋、
女工の小香は、社長の弟である俊明と相愛の仲だった。やがて二人は結婚、娘雪苓も生まれて楽しい日々を送っていた。しかし、俊明が研究のために日本へ行っているあいだ、財産目当てから二人の結婚にも反対した社長の妾は、小香に姦通の濡れ衣を着せ、家から追い出してしまう。小香は雪苓を同善堂に預けると自活の道を求めた。それから二十年、雪苓は同善堂で乳児の世話をしながら、女学校に通っている。雪苓の学友美英の兄紹華は、雪苓との結婚を望んでいるが、両親から素性のはっきりしない女はダメだと反対されている。美英の乳母となっている小香はそれを知って、同善堂長を通じて雪苓が俊明の子であることを知らせる。やがて、雪苓と紹華の結婚式の日がくる。小香は母と名乗れぬ悲しみを胸に二人の幸福を祈っていた。満州側監督・周暁波による初めての作品で脚本もオリジナル。
★『芸苑情侶』(1940満洲映画協会)監督・大谷俊夫、脚本・荒牧芳郎、撮影・池田専太郎、
出演・季燕芬、白玫、杜撰、徐聡、周凋、
憧れの新京での舞台を目前にして、火災のために解散した旧劇芝居の一座の花形女優李碧雲は、育ての親である陳百歳、それに蘭芳、連栄とともに自分を捨てた両親を探しに新京にきた。碧雲は連栄を愛していたが、連栄は蘭芳に心惹かれていた。しかし、蘭芳は苦しい生活から逃れるため金持ちの元へ走った。残った二人の生活もいよいよ窮した。しかし、運良く碧雲の美声が放送局に認められ、専属となって放送されたことから両親ともめぐり会うことができた。碧雲は李家に引き取られることになったが、幼いときから辛酸をともにした一座の人々と芸への執着を諦められず、両親の許しを得て一座を再興する。そして、一座の憧れであった新京の舞台を踏む日がきた。
★『流浪歌女』(1940満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・楊葉、撮影・福島宏、
出演・李明、陶滋心、李顕廷、戴剣秋、周凋、
淑玲、淑瑯の姉妹は、瞼の母に逢える日を唯一の楽しみとして、冷酷な呉のもとで太鼓叩きの芸人として働いていた。内気なふたりだったが、呉が淑瑯を売り飛ばそうとしたのに堪りかね、呉のもとを逃れる。そして妹は盲目の姉の手を引き、奉天にいるという母を探し求めて流浪の旅に出た。歌をうたって僅かな稼ぎを得ながら苦しいたびを続けるふたりは、ときには諍いを起こしながらも遂に母にめぐり会い、薄幸のふたりにもようやく楽しい日々が訪れる。
★『人馬平安』(1940満洲映画協会)監督・高原富士郎、脚本・中村能行、周藍田、撮影・福島宏、
出演・劉恩甲、張敏、張書達、王麗君、呼玉麟、
城内の裏長屋に住む馬車夫の張は、酒好きで仕事嫌いのその日暮しをしていた。今朝も女房に叩き起こされて仕事には出たものの、人通りの少ないところを選んで流すので客はさっぱり寄り付かない。ところがある夜、酔っぱらいの客が代金のかわりにおいていった籤が一万円の当選と分かり、有頂天になって豪遊する。しかし、家に帰ると、女房から番号が一桁違うと教えられ今度は真っ青になる。それからは心を入れ替えて真面目に働くようになった。懸命に働いたので生活にも余裕ができてきた一年後、女房が突然張の前に一万円を差し出す。あのときに張が一万円を握ったらますます怠け者になると思って女房が嘘をついたのである。同時に子供ができたことを知らされ、張はもっと精を出して仕事をするのだった。高原富士郎の始めての喜劇作品。
★『王属官』(1940満洲映画協会)監督・高橋紀、藤川研一、原作・牛島春子、脚色・高柳春雄、撮影・杉浦要、
出演・趙剛、王三、馬雪筠、張剣秋、
満州建国後、日も浅い頃、属官の王文章は恋人麗英の待つ故郷へ帰ってきた。この村ではまだ地方官吏が税金を不当に徴収するなどの横暴が行われている。麗英の父も娘に人並みの結婚をさせてあげたいばかりに趙牌長の手先となって不正を働いている一人である。不正に気がついた王は麗英との結婚を延期して急ぎ帰任した。発覚を恐れた趙は虚偽の報告書を提出したものの、非を悔いた王の父が一味の名簿を盗み出して王に手渡そうとした。しかし、一味に見つかって半殺しの目にあい、名簿を麗英に渡すと息絶えた。証拠を手にした王は一味を検挙して事件は解決する。王は喜びのむんみんに迎えられ、麗英と結婚式場に向かった。新聞に連載されて好評を博した小説が原作。作者の牛島春子は満州国官吏夫人。新京の大同劇団によるユニット出演作品。
★『新生』(1940満洲映画協会)監督・高原富士郎、原作・姜学潜、脚色・周藍田、撮影・遠藤灊吉、
出演・董波、劉恩甲、徐聡、孟虹、
青年訓練所の出現は、昔ながらに営々と働く老人たちの間では、反対の声が多かったが青年たちからは大いに歓迎された。その青年訓練所を卒業した王維国、章郎、呉漢の三人が村に帰ってきた。そして彼らによって奉仕隊が組織されて各地の刈入れなどに派遣されると、青年たちの心もようやく老人たちに通じた。派遣地では、そこで知り合った村の娘・毛蘭香と呉漢との結婚が発表された。満州の協和会青年運動を描いた作品。
★『現代男児』(1940満洲映画協会)監督・脚本・山内英三、撮影・池田専太郎、藤井春美、
出演・杜撰、崔徳厚、陶滋心、王影英、
自動車修理工の梁国平は国兵徴兵検査に合格、妻の雪英に励まされて入営する。国平の田舎の地主は国平の妹・小麗に思いを寄せているが、その思いが叶わないので、梁一家に恨みを抱いていた。刈入れの季節が来て、梁一家も家族総出で野良仕事に励むが、兄の国英が病気で働けないために、なかなか捗らない。そこへちょうど帰郷した国平も刈入れを手伝うが、帰営時間に遅れてしまう。わけを聴いた体調の情けで翌日に特別休暇が許される。帰郷してふたたび刈入れに精を出ていると、隊長と戦友たちが手伝いにきてくれた。またたくまに刈り入れは進んでいった。夕陽の沈む頃、刈入れを終えた国平は感激の涙を浮かべて村民に送られ戦友たちと兵営に帰っていった。
★『地平線上』(1940満洲映画協会)監督・脚色・荒牧芳郎、原作・宮本陸三、撮影・谷本精史、
出演・劉白、王潔衷、白苹、馬黛娟、
レンガ積みの現場で働く苦力頭の郭は忠実に黙々と仕事をしていたが、もうひとりの苦力頭の修は事業主に賃金の値上げを要求していた。その修の横恋慕に、現場監督の楊と郭の娘・蘭光の恋は急速に進展する。賃上げ要求が通らず、恋にも破れた修は、手下の苦力を連れて現場から引き上げてしまう。困った楊が郭に相談すると、郭は徹夜してでも工事を期日までに仕上げることを約束した。ある日、楊が銀行に工事の金を受け取りに、蘭光と一緒に楽しそうに歩いていく姿を見た修は、銀行の帰りを狙って大金を奪おうとする。王は重傷を負いながらも現場まで逃げ帰るが、金を井戸に投げ込むと息絶える。犯人は修とにらんだ郭は、井戸の金を取りにきた修を待ち伏せし、格闘の末に修を射殺。しかし、郭もまた修の銃弾に倒れた。
★『大地秋光』(1940満洲映画協会)監督・島田太一、脚本・高森文夫、撮影・南田常治、
出演・崔徳厚、李顕廷、李景秋、葉苓、
農夫の崔は、古い頭の持ち主で、息子の明徳が勧める新しい耕作法には耳を貸さず、依然として昔ながらの農法に頼っていた。一方、李はそれとは正反対で、県の技術員の指導を受けて積極的に科学的な農法を取り入れていた。李の娘・小蘭は、親同士が両極端ながらも明徳とは仲が良かった。秋の収穫、李は賞状を受けるほど豊作だったが、崔の家はさんざんで、家畜も病気になっていた。目の前のどうすることもできない現実には、さすがの崔も考えを改めないわけにはいかなかった。そして、来年からは新しい農法に切り替えていくことを明徳と小蘭のふたりに誓うのだった。
★『劉先生回顧』(1940満洲映画協会)監督・山内英三、撮影・遠藤灊吉、
出演・崔徳厚、安琪、葉苓、趙愛蘋、
劉は立派な腕を持つ彫刻の職人だったが、賭博に夢中になり、今日も祭りに着せる娘・素琴の着物を質に入れてしまった。母親の王梅が、娘の着物を質から出してくれるよう別の質草を都合したのだが、途中に賭博場が立っていることを知ると、ふらふらと入り、無理して工面した金をすべて使ってしまった。金に窮した劉は素琴を抵当にして高利貸しから金を借りる。しかし、期日が来ても劉には返すあてがない。素琴は父の素行と一家を救うために自ら身を売る決心をする。それを聞いた素琴の恋人・宋は、自分の蓄えで素琴を救う。ようやく自分の過ちに気づいた劉は、ふたたび仕事に腕を振るう決意を新たにするのだった。
★『都市的洪流』(1940満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、撮影・島津為三郎、
出演・杜撰、孟虹、鄭暁君、王宇培、
鳳姐は、町の金貸しの手代・李四に借金のかたとして連れて行かれることになった。鳳姐は恋人の小三子も連れて行くことを条件に村を離れた。李四の主人で好色漢の林は、さっそく鳳姐を自分の女中にしてちょっかいを出す。虚栄に目のくらんだ鳳姐は、やがて放蕩ナ生活に溺れていく。金の魅力に負けて恋人を棄て林と結婚した林太太は鳳姐の出現で自分の座を奪われることとなり、同じく自棄になっている小三子と不倫の関係に陥る。数年後、爛れ腐敗した生活に疲れた鳳姐と小三子は、むかしの二人に戻って村に帰ろうとするが、鳳姐は、いまの自分にその資格がないことを書き残して姿を消した。小三子は彼女が残していった着物を抱え、丘の上に立ち尽くしていつまでも鳳姐の呼び続けた。
★『胖痩閙三更』(1940満洲映画協会)監督・脚本・新田稔、撮影・谷本精史、
出演・那娜、劉恩甲、張書達、
二巻ものの短編喜劇
★『黎明曙光』(1940満洲映画協会・製作提携・松竹、大同劇団)監督・山内英三、原作・脚色・荒牧芳郎、撮影・遠藤灊吉、
出演・季燕芬、徐聡、笠智衆、周凋、杜撰、西村青兒、王宇培、惆長渹、
満州建国当時、東辺道にて匪賊絶滅工作のさなかに殉職した警察官・清水裕吉の物語。松竹との提携第一回作品。満映初のオーンプンセットが組まれた。満州帝国国務総理製作指定作品、満映・松竹・大同劇団提携映画。ポスターには、「建国の聖業に当たり、烈々たる精神を以って人柱となりし英霊は、いま、安らかに眠る。王道楽土の国の礎は永遠に堅く、その栄光は銀幕に燦たり」とある。
支那の夜・前後篇 1940東宝系 李香蘭
熱砂の誓ひ 1940東宝系 李香蘭
孫悟空 1940東宝系 李香蘭
【1941年(昭和16年)】
★『籬畔花香』(1941満洲映画協会)監督・宋紹宗、脚本・熙野(八木寛)、撮影・島津為三郎、
出演・張静、劉潮、杜撰、王影英、張敏、孟虹、
魏雄飛は、童養媳婦児(他人の娘を幼少のときよりもらって女中として使い成長の後、息子に娶る妻のこと)の小鈴を嫁にもせずに、情婦を引っ張り込んでいた。ある日、情婦に愛想をつかされた雄飛は、小鈴に挑みかかるが、小鈴は魏の家を逃げ出し、李の家の門前で気を失って倒れてしまう。しかし、李の娘・敏華に助けられ、やがて李家の女中として働くようになった。夏になると李の息子・頌華が新京の大学から帰郷してきた。小鈴と頌華の二人はやがて離れられぬ間になっていった。小鈴が李家にいることを知った雄飛は図図しく金をせびりにきた。そして小鈴がすでに頌華の子供を孕んでいることを知ると、それをタネに李夫人をゆすった。はじめて事情を知った李夫人は、臨月の小鈴を追い出してしまった。頌華を頼って新京に出るが、急いで帰郷する頌華と入れ違いになり、旅館で産気づいて倒れる。小鈴のお産は重かったが、孫の顔を見て李夫人もようやく二人の結婚を許した。
★『她的秘密』(1941満洲映画協会)監督・脚本・朱文順、撮影・島津為三郎、
出演・王麗君、徐聡、隋尹輔、呉菲菲、
梅雪音の父は、彼女を金持ちの尊重の息子に嫁がせようとして田舎に呼び寄せた。しかし、雪音は、家を飛び出して恋人・程大鵬のもとへ走った。大鵬の父が病死すると程の家は没落した。大鵬も学業を続けることができなくなった。かねてより大鵬に思いを寄せる歌手の宋丹馥は彼に学費を援助することで結婚を迫った。大鵬は断ったものの、それを知った雪音は、大鵬の将来を思って姿を消した。大鵬は宋丹馥と結婚した。それから二十年、大鵬とのあいだに雪音が生んだ子・懐音は、大鵬のもとで立派な青年となり結婚の話も進んでいる。大鵬は偶然に新京で雪音に出逢い、再びむかしの思いが甦る。それを知った懐音の結婚相手の親は、縁談を拒否してきた。懐音は自分の母親とも知らずに雪音を責める。雪音は何事も語ることなく再び身を引く。懐音の結婚式の夜、雪音が着とくとの知らせが届いた。懐音は大鵬と病床に駆けつけるが、懐音から「お母さん」と呼ばれるのを聞きながら、雪音は静かに息を引き取った。
★『雙妹涙』(1941満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・安龍斉、
出演・季燕芬、馬黛娟、隋尹輔、
李栄春は白華と相愛の仲だったが、白華の父から貧しさゆえに結婚を反対され新京へ働きに出る。白華は李を追って新京へ向かうが、すでに李は引っ越したあとだった。白華は百貨店に勤めながら、李を探すことを決めると、そこで同年輩の秀蘭と仲良くなった。李はある工場で働いていたが、その隣が病む祖父を抱えた秀蘭の家だった。親切に面倒を見てくれる李を秀蘭は兄と呼び、その噂を白華にもするのだが、白華はそれが李であるとは知らないでいる。秀蘭の祖父はやがて秀蘭を李に託して息を引き取る。しかし、今度は李が過労のために倒れる。秀蘭は自分のみを犠牲にして李を入院させようとすると、それを知った白華は彼女を助け、そして、兄と呼ばれている人が李であることを初めて知る。しかし、李は二人に見守られつつ息絶える。白華と秀蘭は互いに力を合わせて職場に生きることを誓い合った。
★『新婚記』(1941満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・熙野(八木寛)、撮影・福島宏、
出演・劉恩甲、白玫、李景秋、
関克武は社長の娘・宵音と結婚したが、お嬢様育ちの宵音は、気の弱い克武をこきつかう。田舎の父から訪問するという便りに、惨めな生活を見られたくない克武は、同僚の張に相談する。張は、家庭での暴君的な亭主振りを克武に見せ付けるが、しかし、実は張も恐妻家で腕時計を買ってやるという約束で妻と一芝居演じたのだった。克武は宵音に哀願して、やっと父を安心させて田舎に返すことができた。ある夜、社宅の隣組精神を宵音が冒涜したことから、日頃から苦々しく思っていた同僚たちの怒りが爆発した。社長の娘だからと躊躇する主任を押し切り、克武を後押しして宵音を懲らしめる。宵音は起こって実家に帰ってしまうが、かつて恐妻家だった父親に諭され、ようやく自分の非を悟った。晴れた日曜日、隣組同士のピクニックでは、皆が明るく合唱した。坪井與の記録では、脚本の熙野は、八木寛、張我権、長畑博司の三人の共同になっている。
★『天上人間』(1941満洲映画協会)監督・周暁波、脚本・張南、撮影・遠藤灊吉、
出演・季燕芬、杜撰、陶滋心、張奕、
蹴球の選手・呉廷玉は、妹の友人である趙芸芳と愛し合っている。しかし、芸芳の父母は、彼女の卒業を待って従兄と結婚させるつもりでいる。やがて学校を終えた芸芳は耐え切れずに家出して廷玉のもとに走る。二人の固い決意に両家は結婚を許すことにする。ところが、子供もでき、平凡な家庭生活が訪れると、廷玉は飽きてしまい茶社の歌手・艶紅に心引かれ、毎日のように通うようになる。彼女にそそのかされてハルピンに駆け落ちした廷玉は艶紅と情夫の孫根に計られて金を巻き上げられ、阿片密売者の汚名を着せられることになる。ハルピンに駆けつけた廷玉の父の力で無実が判明し、一方、艶紅と情夫の孫根は捕らえられた。悪夢から覚めた廷玉は病床の妻に心から詫びるのだった。
★『雨暴花残』(1941満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・劉果全、撮影・島津為三郎、
出演・李顕廷、張静、趙愛蘋、劉潮、鄭暁君、
東京で二年余りの研究を積んで新京へ帰った新進の画家・汪仁良は、自分を待っているはずの愛人・桂芳が、親友の作家・週明敏と同棲していることを知った。汪は、桂芳のために身を引く決意をするが、実は桂芳はいまでも汪を愛し、気弱さから執拗な周の誘惑に勝てないでいるのだった。汪は周に桂芳を託して去っていった。やがて周は自分の戯曲があル劇団によって上演されるようになり、その劇団の女優・麗娜と深い仲になる。身重の桂芳は、周の心を再び取り戻そうとするが、病に倒れてしまう。桂芳の友人・玉華からの知らせを受けた汪は、新京へかけつけると、死に瀕している桂芳を前に、誓いを破った周を激しく責めた。自分の非を思い知らされた周は、悄然と雨の中を去っていく。そのとき、麗娜を周に奪われた劇団員の俳優の刃に刺されて倒れる。その頃、汪と玉華の看病も空しく桂芳は息絶えた。
★『巾幗男児』(1941満洲映画協会)監督・王則、脚本・梁孟庚、撮影・遠藤灊吉、
出演・王麗君、李顕廷、張奕、戴剣秋、張敏、
小珍珠は母をつれて父を訪ねるため、父・張国祥のいる炭鉱の鉱夫募集に、男装して応募する。採用された小珍珠は父母と一緒に暮らすようになるが、しかし、賭博好きの父はいつも借金のために料理屋の馬二虎から責められている。ある夜、小珍珠は馬に女であることを見破られ脅迫されて馬の店で女給として働かされた。組頭の斉は、馬と共謀して鉱夫への配給品を私腹におさめていたが、それも露見する日がきて、呉大福が組頭になった。小珍珠にしつこく言い寄る馬は、呉大福に倒され、呉大福は初めて小珍珠の男装の秘密を知る。そして二人の間には幸福が訪れた。
★『運転時来』(1941満洲映画協会)監督・高原富士郎、原作・鈴木重三郎、脚色・張我権、撮影・池田専太郎、
出演・劉恩甲、張書達、季燕芬、
仲の良い街頭商人の劉と張は、茶社の女・蘭芳の気を引こうと、商売に身が入らないほどお互いに張り合っている。挙句の果てに一攫千金を夢見て北満の鉱山に出かけるが、山の酒場に蘭芳とそっくりの鳳珍がいて、二人はここでも張り合うことになる。大晦日の夜、二人は財布をはたいて鳳珍を招待するが、吹雪にまぎれて迷い込んできたのは虎だった。ますます激しくなる吹雪に小屋ごと二人は谷底に転落する。しかし、かろうじて助かった二人は金塊を発見して、一躍大金持ちになる。モーニング姿の金持ちになったふたりは、蘭芳のいる茶社を再び訪れるが、そこに蘭芳と鳳珍がいて、姿かたちがそっくりならと、それぞれに仲良く収まる。
★『明星日記』(1941満洲映画協会)監督・脚本・山内英三、撮影・福島宏、
出演・劉恩甲、葉苓、李顕廷、
ホテルのガラス拭きの劉と、エレベーターガールの葉苓は互いに淡い恋心を抱いて仲良く働いていた。劉は、いつの日にか映画スターになることを夢見ていた。そして、その苦労が報われて、ようよっと端役で映画に出演できることになった。しかし、葉苓には主役を得ることができたと嘘の手紙を書いてしまう。ところがある日、撮影所の重役と監督の徐が、葉苓のいるホテルに宿泊した。そして、葉苓をひと目で気に入り、女優としてスカウトし入社させた。劉は嘘がばれるので戸惑っていると、徐からラヴシーンのセリフをつけてもらっている葉苓を見てカッとなり、彼女を殴りつけてしまう。葉苓から事情を聞いた徐は劉を抜擢し主役にする。そして葉苓も一本撮り終えたら家庭の人となることを約束して二人はまた元の仲に戻る。
★『黄金夢』(1941満洲映画協会)監督・大谷俊夫、脚本・安関、撮影・福島宏、
出演・蕭大昌、趙愛蘋、姚鷺、葉苓、劉恩甲、張書達、
金鉱掘りに全財産をつぎ込み、借金で首の廻らなくなった王所斉は、支配人から有望な鉱脈が発見されたという知らせを受けるが、五千円の資金の都合がつかない。王の娘・麗芳をひそかに思う高利貸しの銭銅秀は、麗芳が自分の息子の家庭教師になることを条件に出資を引き受ける。王は理学博士の牛米国を連れて鉱脈の鑑定に赴くが、牛博士は実は考古学の学者で鉱脈の鑑定どころではなくなる。皆が悲嘆しているところへ次男が、第二夫人に五万円の富くじが当たったことを知らせにきた。さらに、鉱脈も金こそ出なかったが、契丹の古都であることが牛博士によって発見された。
★『鏡花水月』(1941満洲映画協会)監督・谷俊(大谷俊夫)、脚本・姜衍、撮影・池田専太郎、
出演・浦克、馬黛娟、
常発の父は、小さな別荘以外は何の財産も残さずに死んだ。隣家の娘・桂芬に再会を約し、常発は仕事もない村をあとに都会に出て行った。しかし、お人よしの常発はやっとある会社の計算係に就職したものの、同僚や酒場の女に騙されて三ヶ月でクビになった。悄然として帰郷し、桂芬の家に居候するが、ある日、桂芬の父から自分の別荘に幽霊が出るという話を聞く。常発は別荘に入ると、一巻の奇書を発見した。それによって忍者の隠身術を体得する。そこで再び都会へ行き、かつて自分を騙した者たちを片っ端からやっつける。しかし、ふと目覚めると、それはすべて夢の中の出来事。常発は桂芬の愛情を感じながら田舎で働くべきだと思い直す。
★『花瓶探索』(1941満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・呂平(長畑博司)、撮影・藤井春美、
出演・劉志人、董波、鄭暁君、陶滋心、
探偵事務所を開いている劉と張は、隣の家の富豪・李の娘の姉妹とそれぞれに仲が良い。その李が遺産のありかをかいた紙片を残して死ぬと、正夫人と第二夫人との間で争いが起き正夫人と二人の娘は追い出されてしまう。一週間ほどして、李から遺言状を預かっていた弁護士が現れ、紙片の絵は李が愛蔵していた花瓶であることが判明した。しかし、その花瓶は既に売り払ってしまっていた。映画会社が買い取ったことを突き止めると、花瓶をめぐって第二夫人の息の掛かった無頼漢と、スタジオの中で争奪戦を繰り広げる。ようやく花瓶を取り戻し、探偵二人は遺産を受け継いだ姉妹二人とめでたくゴールインする。
★『患難交響楽』(1941満洲映画協会)監督・張天賜、撮影・谷本精史、
出演・周凋、趙成巽、浦克、王瑛、
裏町のみすぼらしい旅社に住む音楽家、小説家、画家の三人は、貧乏暮らしで家賃の支払いも半年以上滞っている始末である。しかも仲が悪くて喧嘩ばかりしている。ある日、音楽家が、自分の友人を頼って歌の修行に出てきた女を、宿がないので旅社に連れて帰ってくる。旅社の住民がそれぞれに好奇の目を向けるが、彼女が仲に入ることによって三人の仲も良くなり、力を合わせて精進することになる。そこへ旅社の主人が借金で困っていることを聞き、三人は恩返しにと芝居の興行を思い立つ。台本は小説家、音楽は音楽家、装置は画家、出演者は旅社の住民全員、そして出し物は「孟姜女」と決まる。この思い切った興行は大当たりをとり、主人の借金どころか一躍成金になり、そのうえ方々から出演の依頼が殺到し引っ張りだこになる。
★『幻夢曲』(1941満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、撮影・島津為三郎、
出演・徐聡、孟虹、杜撰、白玫、
有名な歌手・白萍のステージを見た微娜と麗々は、彼の美貌と美声に心惹かれた。麗々は毎日のように白萍を訪れるが、白萍のほうは微娜に心を寄せていて、彼女が閨秀詩人であることから自分の歌の作詞を依頼する。二人の恋は急速に発展するが、古風な考えの微娜の母親は二人の結婚を許さず、外出することさえ禁じた。白萍は奉天での公演を終えると微娜の作詞による「幻夢曲」の発表会のために新京に帰ってくる。しかし、面会を拒絶されると、自分を捨てたものと誤解し、ステージで倒れてしまう。麗々は病の白萍を西洋に誘い出すと、それを聞いた微娜も家を抜け出してあとを追う。しかし、二人の仲の良いところを見ると悄然として帰郷し、そのまま病床についてしまった。娘の憔悴した姿を見た父親は白萍に手紙を出す。白萍は微娜の病床を訪れ、母親もようやく二人の結婚を許した。
★『鉄漢』(1941満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・尚元度、撮影・撮影・遠藤灊吉、
出演・李顕廷、季燕芬、
奉天城の城壁に近い貧民外に住む鍛冶屋の趙は、このあたりの顔役・王大全の子分として綿布の闇取引に一役買っている。趙はトラックの修理を頼んできた運転手の劉も加担させようとするが、劉はきっぱりと拒否する。闇取引の夜、小鳳は養父の趙に強要されて警察の目を誤魔化す役をするが、事情を知らない劉が通りかかって小鳳を助け、自宅に連れ帰ってしまう。闇取引は失敗する。起こった王は小鳳を連れ去る。劉は王の家が城壁の真下にあるのを幸いに、上からロープを使って屋敷に忍び込み、小鳳を救い出すことに成功する。必死にロープを伝って城壁を登ると、古びた城壁の一部が悪人たちの頭上に崩れ落ちていき、二人は無事に逃れることができた。奉天協和劇団の脚本による。坪井與の記録では撮影は気賀靖吾になっているという。
★『家』(1941満洲映画協会)監督・脚本・王則、撮影・池田専太郎、
出演・張敏、周凋、劉潮、鄭暁君、姚鷺、
代々が鍛冶屋の王家は、父の死後、老母の姚氏、長男の家福が仕事を継いでいた。そして生活の因習的でつつましくそのために洋画を勉強している家禄や女学生の桂芬はいつも兄・家福とぶつかっていた。家福にとっては姉の桂芳がいつも生活費の無心を言ってくることが不満で、なにかと波風が絶えない。ある日、桂芳の夫が新事業のために千円の融資を頼んできたことから家福もついに怒りを爆発させてしまう。老母は皆のいざこざから神経衰弱で倒れ、やがて重体に陥る。皆は老母の病気を前にしてようやく目が覚め、家福も、そして家禄や桂芬も老母を中心にして家を守っていくことを誓うのだった。
★『園林春色』(1941満洲映画協会)監督・周暁波、脚本・熙野(長畑博司)、撮影・谷本精史、
出演・杜撰、孟虹、候志昂、
林檎園の管理人の家には、桂芬と和甫の姉弟がいたが、親戚の孤児・小蘭が引き取られてくる。農園には作男の進財もいて、四人はすぐに仲良くなる。ある日、農園の持ち主は和甫の気性に惚れ込み、町の農学校に入学させて、卒業後は管理を任せる約束をする。十年の歳月が流れて和甫は学業を終えて再び農園に帰ってくる。小蘭は美しい娘に成長していて、和甫は妹としてではなく小蘭を娘として見るようになるが、小蘭から進財を愛していることを聞かされて苦悩する。しかし、嫉妬する自分を恥じて父母に二人が結婚できるように説く。なにも気づいていない小蘭は、和甫に感謝しつつ進財のもとに嫁いでいった。
★『奇童歴険記』(1941満洲映画協会)監督・徐紹周、脚本・王智侠、撮影・遠藤灊吉、
出演・趙愛蘋、葉生、戴剣秋、王兆義、馬曼麗、
幼いときに両親をなくした王宏模少年は、継母の宋氏に育てられていた。宋氏は王少年につらく当たっていた。王少年の仲良しは馮兄妹、それに墓守の谷平老人だった。ある夜、馮少年と王少年は、村の不良・趙が墓地で金持ちを刺殺、谷平老人に口止めしているところを目撃した。谷平老人にかかる嫌疑を、王少年は訴えでて趙が犯人であることを証言する。趙は山の中に姿を隠すが、山遊びに行って皆とはぐれた王少年と馮菊児が迷い込んだ洞窟が、趙の隠れ家だった。しかし、趙は誤って谷底に落ち、王少年は洞窟の中に貴重な古鼎を発見して表彰される。継母もようやく前非を悔い、王少年を可愛がるようになった。
★『荒唐英雄』(1941満洲映画協会)監督・脚本・張天賜、撮影・谷本精史、
出演・浦克、張暁敏、馬黛娟、
王大凡は大学を出て三年経つが、まだ就職もできない。恋人の麗華のすすめで体育雑誌社の記者に応募し、運良く就職することができた。運動のことなど皆目分からぬ大凡を主任は首にしようとするが、大凡はあるマラソン退会の取材中に犬に終われて選手団にまぎれ、間違って優勝者にされてしまったことから、社長の信任を得ることになった。そこで運動界の権威・馬博士の奉天での講演の随行を命じられるが、馬博士は汽車に乗り遅れ、大凡ひとりが奉天にいく。大凡が馬博士とそっくりなことから間違えられて大歓迎を受ける。じきに化けの皮が剥がれるが、町外れで馬車夫にハンドバックを奪われようとしている令嬢をたすけると、それが社長の令嬢と分かって一躍課長に抜擢され、晴れて麗華と結婚することになった。
★『満庭芳』(1941満洲映画協会)監督・王則、脚本・張我権、撮影・池田専太郎、
出演・徐聡、王麗君、孟虹、李顕廷、隋尹輔、
梁其祥は娘二人の嫁いだあと、まだ国民学校に通う息子の成長を楽しみに余生を送っている。姉の玉敏は請負師の周誠に嫁いだが、夫が事業に失敗して貧乏していた。妹の玉鳳は、建築会社で働く林長華に嫁いでいるが、夫が薄給でもかまわず虚栄心が強くて濫費を重ね、やがて夫が会社の金を使い込むまでになる。林は退職金で清算するつもりで、其祥にすべてを打ち明けた。もとはといえば自分の娘の濫費から出たこと、其祥は千五百円の金を出してやる。しかし、林は周がようやく落札した請負工事の保証金に困っていることを知り、その金を周に貸し与えてしまう。周からその話を聞いた其祥は、林の思いやりに感動して改めて林に金を与え玉鳳も自分の非を悟るのだった。
★『青春進行曲』(1941満洲映画協会)監督・張天賜、脚本・張我権、
出演・董波、趙成巽、張奕、張暁敏、孟虹、
蒋達夫は母を失い田舎の祖父母のもとで育てられていたが、大学卒業とともに、会社の支配人をしている父・実甫に呼ばれて都会に出てくる。父は達夫を試練のために平社員として入社させる。達夫は同僚の高佩時とアパートに同居するが、佩時が管理人の娘・秀琳を思っているのを知り、橋渡しをしてやる。ところが、秀琳は達夫に思いを寄せていた。一方、達夫は、集金の際に顧客の柳と取っ組み合いの喧嘩をするが、柳の娘・柳莉が中に入っておさめ、この柳莉からも達夫は好意を寄せられる。秀琳は嫉妬から佩時に気持ちが向いていく。ある日、達夫と佩時は副支配人が同業者と結託して、経理をごまかそうとしていることを知ると、二人の活躍でその証拠を掴み陰謀を暴く。実甫は大手柄の息子を支配人に、佩時を副支配人に任命した。やがて達夫と柳莉、佩時と秀琳の二組は幸福を掴む。
★『王麻子膏薬』(1941満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・張我権、撮影・福島宏、
出演・周凋、劉志人、陶滋心、張氷玉、劉恩甲、
街の一角にある平民娯楽場の市場に覗き眼鏡屋の店を出している王麻子、手品師の王俊子は、さっぱり客が入らず金にならない。一方、京韻太鼓の桂芬と桂香の姉妹は人気を呼んでいる。4人は同じ田舎から出てきた仲間である。王麻子は、儲からない覗き眼鏡屋を諦め、市場の主人・牛若旦那から金を借りて王麻子膏薬屋をひらく。王俊子も負けてはならじと、桂香の援助でその向かいに老王麻子膏薬屋をひらく。仲の良かった二人も商売上の争いから喧嘩を始める。桂芬と桂香がとりなして、今度は共同して店を持つことになる。しかし、桂芬に手を出そうとして逆に王麻子たちに袋叩きにされた牛若旦那は、王たちの店を叩き潰してしまう。追い出された4人は、街を捨てて再び仲良く田舎へと帰っていった。
★『小放牛』(1941満洲映画協会)監督・王則、撮影・遠藤灊吉、
出演・世枢、孟虹、
牛飼いの朱曲が郊外で放牛していると、村娘の雲姐が通りかかり、杏花村への道を尋ねる。朱曲は道を教えるかわりに、娘に歌を歌ってくれるように頼む。仕方なく娘は歌いだすが、一曲終えると、また頼まれる。そのうちに朱曲も歌いだし、二人は歌のやり取りに連れて踊り、舞い始める。京劇の舞台をそのまま撮影した巡回映写用の作品で四巻の短編。この牛飼いの役を演じては他に並ぶものがないといわれた王長林の、その高弟・世枢が主役を務める。世枢は、王長林亡きあとの第一人者といわれた。
★『玉堂春』(1941満洲映画協会)監督・王心斉、指揮・大谷俊夫、撮影・池田専太郎、島津為三郎、
出演・趙嘯瀾、尚富霞、朱遇春、朱徳奎、
金持ちの息子・王金龍は、源氏名を玉堂春と名乗る芸妓の蘚三と相愛の仲となって金を使い果たしてしまう。蘚三はひそかに王金龍に金を与え都に上って出世し自分を再び迎えに来てくれるように頼む。王金龍は途中で強盗に金を奪われるが、再び蘚三から金を与えられて都へ急ぐ。その後、蘚三は妾として売り飛ばされるが、売られた先の男の女房には情夫がいて、女房は情夫と共謀のうえ夫を毒殺、その罪を蘚三になすり付ける。蘚三は巡按署で裁判を受けることになる。裁判の日、巡按使としてこの事件を裁くのは王金龍であった。王金龍は犯人として出廷したのが蘚三だったので、その場で気絶してしまう。医者の手当てを受けて再び開廷されるが、王金龍は、自分の過去まで明るみに出され、私情を挟むことは許されないので、上司の裁断を乞う。そして心を鬼にして、慕い寄ろうとしてくる蘚三を退廷させる。「小放牛」と同様、京劇の舞台をそのまま撮影したもので、巡回映写用として作られた。映画は前半の部分の舞台劇をカット、裁判の場面の後半のみを作品にしている。王心斉の監督昇進第1回作品で、主役の蘚三を演じた趙嘯瀾は、梅蘭芳と並ぶ四大名女形のひとりといわれる尚小雲の高弟である。巡回で民衆に大好評を得た。
★『夜未明』(1941満洲映画協会)監督・脚本・張天賜、撮影・福島宏、
出演・周凋、馬黛娟、趙恥、浦克、
北満の小さな町で旅行者を営む楊は、温厚な人柄だったが、裏では、呉服屋と称して時おり新京から訪れる王から阿片を仕入れる密売者だった。しかし、楊自身は古い人々と同様に阿片を売ることを罪悪だとは考えていなかった。楊は妻を亡くしたあと、娘の小蘭を目に入れても痛くないような可愛がり様だったが、その小蘭が新京での学業を終えて帰ってくることになった。ある日、小蘭は、父の阿片を見つけると、新時代の教養を身につけた彼女は父を責めて阿片の密売をやめさせる。小蘭が留守のあいだに訪れた王はふたたび阿片の密売を続けさせようとして楊と争い、誤って自分の刃で自らの命を落す。楊は死体を始末するが、やがて王の息子・棟材が父を探しに来た。楊は良心の呵責から、自殺する積りで家を出た。遺書を見た小蘭と棟材は楊を追って馬車を走らせるのだった。坪井與の記録では昭和16年の項に収録されている。
★『春風野草』(1941満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・楊葉、撮影・藤井春美
出演・隋尹輔、白玫、劉志人、陶滋心、
会社員の周超の妻・芳梅は、ある日、周の帰宅が遅かったことから喧嘩となり家を飛び出して、親友の華の家に駆け込む。しかし、華も小説家の夫・李博文と夫婦喧嘩の最中だった。突然転がり込んできた芳梅を前に、喧嘩を一時中断、李夫婦は甘ったるい芝居を打つ。それを見せ付けられた芳梅は堪らずふたたび夫の元へ帰っていく。芳梅が帰ると、李夫婦もさっきまでの喧嘩はやんで、李は明日までといわれていた放送劇を、たったいま体験したばかりの二組の夫婦喧嘩をネタにして書き上げた。翌日の夜、二組の夫婦はそれぞれに放送劇を楽しんで聞いていた。坪井與の記録では昭和16年の項に収録されている。
★『龍争虎闘』前篇・後篇(1941満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・姜衍(姜学潜)、撮影・藤井春美、
出演・徐聡、蕭大昌、張敏、白玫、崔徳厚、張暁敏、隋尹輔、
(前篇)李懐玉は、老母と兄・懐風との三人で貧しい生活を送っている。しかし幼児から山野を駆けあるいは、経書に親しみ、文武両道に秀でた青年に育っていた。官吏登用令が発せられて武芸にすぐれたものを募集することを知って、懐玉は受験の意を固めるが、かつて婚約を結んだ月英の父・呉員外に旅費を借用にてったところ、呉は小銭をやって追い返そうとする。呉の若い後妻・艶雲がを引き止めて歓待すると、呉は二人の間を誤解し、さらに月英との縁を断つために懐玉の暗殺を企てる。月英は小間使いから暗殺の話を聞くと懐玉の部屋にしのんできた刺客を殺し、懐玉に旅費を与えて出発させる。兄・懐風は懐玉の帰りの遅いのを心配して呉の家に談判に赴き、はずみで召使を傷つけてしまう。怒った呉は老母と懐風を捕らえるが、男装した月英の働きで逃げ出す。月英は懐玉を追うが、出会うことができずに、山中で匪首の白狼に襲われる。
(後篇)女ながらも武芸で鍛えた月英に白狼はあっさりと屈服した、義兄弟の縁を月英に乞う。一方、懐玉は、途中で道連れになった葛欽洪と雨宿りのためにある寺に立ち寄る。月英もこの寺に宿を求めるがこの寺は賊の巣窟で、葛欽洪は殺されてしまう。乱闘の末、懐玉は、月英と知らずにまた別れてしまう。やがて試験の日、懐玉は及第するが、遅れてきた月英は、相手を懐玉と知らずに試合を申し込む。試合が始まって月英は、相手が懐玉と気づいたものの懐玉は、男装している月英に気づかず、真剣勝負を挑む。月英は、わざと試合に負け、ようやく一切を知った懐玉は、月英、老母、兄・懐風を伴って故郷へと帰っていった。
唐代の武侠小説をヒントにした満映最初の古装片(時代劇)、日本のチャンバラ映画のテクニックを導入して「胭脂」とともに日本でも高く評価された作品である、興行的にも記録破りの好成績をおさめた。この作品の脚本を書いた姜衍(姜学潜)は、甘粕正彦が満映に入れた人物、満映で中国脚本家として養成された。実は秘密国民党員だったことから、日頃憲兵に目をつけられ、ある日、憲兵に連れ去られた、八木保太郎がそのゆくえを必死になって探したというエピソードが残っている。結局、甘粕の尽力で彼を無事取り返すことができるのだが、探し回る八木が満州における公安機関が林立し、あまりにも複雑すぎて、どこから探せばいいのか分からなかったという「複雑な連れ去られた先」を紹介している。満州内には当時、日本特務機関、日本憲兵隊、満州国憲兵隊、満州国国家警察、市警察、日本領事館警察、刑事警察、満州国特務機関、鉄道警察、と計9機関もあり、それぞれが独立して活動して縄張り争いがはげしく、たがいに反目しているので、結局どこを探せばいいのか途方にくれたという。満映で働く中国人もそこで職を得ているからといって、なにも保護されたり特別扱いされているわけではなく、中国人は日本の官憲に始終目をつけられ監視されており、街の本屋で左翼系の本(そもそもそれが仕掛けられた罠で)を立ち読みしてだけでも、特務機関とつながっている店主から密告されてすぐさま拘束され、ひどい拷問にあったという。
蘇州の夜 1941松竹系 李香蘭
【1942年(昭和17年)】
★『迎春花』(1942満映、撮影協力・松竹)監督・佐々木康、脚本・長瀬喜伴、撮影・野村昊、森田俊保、中根正七、美術・磯部鶴雄、音楽・万城目正、録音・中村鴻一、現像・富田重太郎、平松忠一、編集・濱村義康、台詞指導・王心斎、製作担当・大辻梧郎、磯村忠治、撮影事務・安井正夫、1942.03.21 9巻 74分 白黒
出演・李香蘭、近衛敏明、浦克、木暮実千代、藤野季夫、吉川満子、那威、張敏、日守新一、戴剣秋、袁敏、曹佩箴、干延江、周凋、王宇培、関操、三和佐智子、路政霖、江雲逵、宮紀久子、下田光子、瀧見すが子、
佐藤忠男は「キネマと砲聲」のなかで、当時「キネマ旬報」に掲載されたこの作品の批評として「・・・それにしても之は何という貧しい作品であろう。之は観客を喜ばしめ、楽しませるものを僅かしか持っていない。物語は先ずよいとしても、映画表現の貧困さは、結局、此映画が、李香蘭を売りものにした興業価値に頼る以外に取り柄の無いという感じを与える。二人の女性に日満夫人を象徴せしめた脚本の組み立ては大船映画の常道であるとしても、此処には二人の女の心は明確に汲み取れるほどには描かれていない。・・・満映作品には、之に及ばぬものが数限りなくあるには違いないが、松竹スタッフの全面的な生産である点、それが満映作品としての輝かしい存在理由を持たぬ点に、何よりの不備が感じられる。」(1942.4.21号・村上忠久)とこの作品を酷評するだけでは足りず、満映の一般の作品は、さらに水準が低いはずだと決め付けられたと紹介している。
★『胭脂』(1942満洲映画協会)監督・谷俊、脚本・柴田天馬、撮影・池田専太郎、
出演・鄭暁君、隋尹輔、趙愛蘋、杜撰、候志昂、郭宛、浦克、
終日刺繍をして孝行している胭脂は、向かいに住む龔の妻・王氏と日頃から仲が良いが、王氏は軽口の女だった。ある日、遊びに来ていた王氏を送るために通りに出たところ、通りかかった青年・顎秋隼を見そめる。行商人の夫が留守がちなのを幸い、王氏は宿介という青年と深い仲になっていたが、宿介が顎と同学であることから王氏は仲を取り持つ約束をした。その話を聞いた宿介は、胭脂の家に顎だと偽って忍び込み、胭脂に迫った。胭脂に撥ね付けられたものの、鞋を盗んで逃げる。鞋を男に渡すことは女が全てを許すしるしとされている。しかし、宿介は途中で鞋を落としてしまい、毛大、張三、李四の誰かがそれを拾う。そして拾った人物は胭脂の家に忍び込むが、部屋を間違えて起きてきた父親を殺してしまう。胭脂は鞋を持ち去った男が顎だと思っていたので、それを供述すると嫌疑は顎に掛かった。しかし、裁判ののち、毛大、張三、李四も捕らえられその中から真犯人も判明した。やがて胭脂と顎はめでたく結ばれる。
原作は、清代の小説「聊斎志異」で、京劇「胭脂判」としてもよく知られた怪異譚。脚色の柴田天馬は「聊斎志異」の研究家で、そして大の映画ファンでもあり、満映の嘱託になっていた。坪井與の記録では昭和17年(康徳9年)の項目におさめられている。佐藤忠男の「キネマと砲聲」には、「従来、北京語映画として作られながら、東北三省(満州)以外に公開されなかった満映の劇映画(娯民映画)から優秀作品を選んで、上海ではじめて公開した。それは「龍争闘虎」と「胭脂」の二本であり、ことに後者は情感のある秀作であった。」と高く評価されたことを紹介している。
★『瓔珞公主』(1942満洲映画協会)監督・山内英三、脚本・姜衍、撮影・島津為三郎、
出演・李顕廷、劉潮、趙成巽、安琪、徐聡、趙愛蘋、張静、
遠い昔、魁量とよばれる国は、土地は肥え、五穀は豊穣、民は太平を謳歌し、国王は仁慈の心厚く、城下は賑わっていた。国王夫妻は19歳になる公主に婿を取ることが唯一の望みである。そこで4人の重臣達の公子から婿を選ぶことに決め、親書を送った。やがて、何声春、馬得勝、厳重福、魏鳴が集められたが、魏鳴ひとりだけが献上物も持たずに逞しい体を粗衣に包んだだけで現れた。公主は、それぞれに魔鬼山に棲む龍の目を取ってくるように難題を与えると、何声春、馬得勝、厳重福の三人は龍に近づくこともできず偽の龍眼を持ち帰って公主を欺こうとするが、魏鳴は龍を倒して龍眼を手に入れる。公主は三人の偽物をすぐに見抜き、魏鳴はめでたく公主を得て、魁量国の王位を継いだ。この作品は、坪井與の記録には昭和17年(康徳9年)の項目に収録されている。
★『黄河』(1942満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、助監督・徐紹周、撮影・谷本靖史、美術・伊藤彊、
出演・周凋、徐聡、張奕、孟虹、王麗君、隋尹輔、王影英、李香蘭、王字培、
孫唯倹は先祖代々より黄河畔に住む農民だが、盲目の母と妹を抱えて貧乏のどん底生活をしている。わずかな麦畑さえ地主・万才の抵当に入っている。妹の小玉は万才の三男・発泉と許婚であるが、万才はもはや喜んではいなかった。麦畑の刈り入れがきて、唯倹は抵当をめぐって趙と争い、誤って傷つけてしまったことから流浪の旅にでる。その頃、日支の戦いは激烈を極め、敗走する中国軍は黄河を決壊させて日本軍の進路を阻んだ。唯倹は故郷に帰ってみると、家は跡形もなく、村から遠くはなれたところで、ようやく母や妹にめぐり会えた。発泉の兄・発有は中国軍の遊撃隊長だが、民衆の苦しみを眼前にして悩んでいる。しかし、さらに破壊工作の命令が下る。躊躇する発有は、政治局員に狙われるが、それを知った次男の発源が殺されてしまう。発有は政治局員を射殺して日本軍に協力する態度をしめす。決壊された黄河に、軍民協力のもとで新たな堤防が作られ始めた。
黄河 1942満映系 李香蘭
★『歌女恨』(1942満洲映画協会)監督・朱文順、原作・樑孟庚、脚本・丁明(山内英三)、撮影・藤井春美、
出演・白玫、浦克、趙愛蘋、楊恵人、李景秋、呉菲菲、劉恩甲、張静、江雲達、蕭大昌、
若く美しい譚小黛の率いる譚一座は、旅興行の途中、馬車を引く馬が足を痛めて動けなくなってしまった。そこへ通りかかった騎馬の青年・王仲菲は、事情を知って譚小黛を駅まで送り届けた。都会に帰ったある夜、小黛はふたたび王仲菲にめぐり会った。彼はある地主の息子で、叔父の娘・淑鳳と結婚することになっていたが、この再会から二人は愛し合うようになる。二人の秘密を知った義母は、王の叔父と王の通う学校へ密告し二人の仲を割こうとした。叔父は小黛を訪れ、王の将来のために別れてくれるように頼んだ。小黛は願いを聞き入れ王に絶縁状を送った。小黛は旅先の宿で好色の銭に力づくで迫られたが、そのとき、銭に棄てられた妾が飛び込んできて銭を撃った。小黛は、子供を抱いた妾を哀れに思って、自分で罪を着ようとし、裁判を受けた。しかし、真犯人は名乗り出て、小黛は犯人の子供を育て上げることを誓うのだった。
★『一順百順』(1942満洲映画協会)監督・脚本・王心斎、撮影・福島宏、
出演・浦克、張奕、葉苓、周凋、陶滋心、王安、
大順は、子供のときに両親を失い、いまは自動車掃除夫をしている。大順はタイピストの小萍を愛しているのだが、彼女の父が欲張りで金のない大順の結婚を許さない。大順は、自動車掃除夫をやめて、海水浴場の救護員の仕事につく。しかし、彼は泳ぐことができない。ある日、舟の中で遊んでいると、突然助けを求める声がした。自分が泳げないことも忘れて、夢中で海に飛び込む。無事に助けた相手は前の会社の社長令嬢だった。社長からお礼として千円を送られた大順は、ふたたび前の会社に復職できた。そしてめでたく小萍とも結婚することができた。
★『雁南飛』 : 監督楊葉
★『皆大歓喜』 : 監督王心斎
★『黒痣美人』(1942満洲映画協会)監督・劉国権・笠井輝二、脚本・佐竹陸男、撮影・気賀靖吾、
防諜をテーマとした三巻の短編映画。
★『花和尚魯智深 水滸伝初集』(1942満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・何群、張我権、撮影・中根正七、
出演・陳鎮中、李顕廷、徐聡、蕭大昌、戴剣秋、張静、劉恩甲、浦克、杜撰、趙愛蘋、白玫、
金翠蓮と父親は酒楼で琵琶を弾き歌を唄うことで生活している。金翠蓮は愛人の趙が東京に行くための旅費を鎮関西に借りている。一方で鄭に妾のなるように責め立てられている。鄭はある日、場銭の取立てに来て、棒使いの豪傑・李忠、李忠の弟子・史進と争い大騒ぎを起す。そこへ乱暴者の魯達も加わり鄭の一味を追い払う。李忠、史進、魯達の三人は意気投合して酒楼にあがる。そこで翠蓮親子の話を聞いた三人は金を出し合い親子を東京の趙のところへ旅立たせる。翠蓮は趙と出会い、いままでのイキサツを語る。魯達は懸賞を懸けられ追われるが、趙にかくまわれ、やがて五台山文殊院の智真長老を頼って出家し、智深と法名を名乗る。しかし、大酒を飲んで手に負えず、大相祥寺にやることにする。魯智深は長老に感謝し、預けていた禅杖と戒刀を受け取るために旅にでる。
★『娘娘廟』(1942満洲映画協会)監督・水ケ江龍一、脚本・姜衍、撮影・遠藤灊吉、
出演・曹佩箴、張静、馬黛娟、徐聡、張奕、張敏、趙愛蘋、戴剣秋、王瑛、張望、陳鎮中、劉恩甲、郭範、鄭暁君、張暁敏、張氷玉、陶滋心、呉菲菲、周凋、何奇人、王影英、馬旭儀、蕭大昌、
王母娘娘の大殿で三人の天女・碧宵、瓊宵、雲宵が唄い踊っている。これを見た来客の九天娘娘は、三人に天露の酒を与える。酔った三人は、王母娘娘の怒りに触れて下界に追放される。そして、それぞれに下界で生まれ変わり育つ。やがて文武両道を教えられ、ある夜、馬賊が襲来するが、三人の娘は撃退する。そして王娘娘の声で「早く天に帰れ」という夢を見る。三人の娘が歩き疲れていると、若者の馬車に救われ、お礼の歌を唄うと、天に昇っていく。若者は、村人にこのことを告げると、村では娘たちの座っていた石の上に廟を建て三人を祭った。
満鉄広報部で、カメラマン藤井静が隣の丘にカメラをすえ、ズームレンズの威力を駆使して、大石橋の娘々廟に詣でる素朴な農民の姿を精密にとらえた「娘々廟会」(製作は満鉄映画制作所で日本初の文化短編映画とされている)とは別の作品で、解説を中村伸郎が語っている。この娘々廟は、満人の信仰厚く、満州各地にあるが、なかでもこの大石橋郊外迷鎮山の祭りは一番にぎやかで、春になれば農民たちは遠くからこの祭りのためにやってくるその様子が沿道の屋台店とともに親愛を込めて描かれている。この作品を編集・構成したのは名編集者・芥川光蔵、本作は彼の代表作のひとつである。このほか「ガンジュール」、「草原バルガ」、「秘境熱河」があり日本国内でも高く評価され、いずれも佳作としてベストテンを賑わし、あるいはランクされた。彼は青地忠三とともに戦前の日本を代表する記録映画作家のひとりである。1930年の「ガンジュール」は、北蒙古最大のラマ廟の祭礼を記録したもので、美文調のタイトルと原住民の情緒的な描き方が注目された。「草原バルガ」は、満州コロンバイル、バルガ地方の草原風景と遊牧蒙古人の生活をフォトジェニックにとらえ、茫洋として果てしない大陸の風景を巧みに活写した。
★『愛的微笑』(1942満洲映画協会)監督・丁明、脚本・荒牧芳郎・佐竹陸男、撮影・中根正七、美術・堀保治、
出演・葉笙、曹佩箴、王芳明、李唐、干延江、江運達、張敏、畢影、
楊春生は家は貧しかったが、学校では首席を通して
董先生に愛されていた。同じ組の達元は、そんな春生を妬んでいて、いつも意地悪だた。組で万年筆が紛失したときも、春生のせいにした。学校ではグライダーを飛ばすのが流行っているが、買ってもらうことができない春生は、肯定の隅からさびしく眺めているだけだった。しかし、ある日、誘惑に負けて玩具店からグライダーを盗んでしまった。姉はそれを知って、グライダーを店に返させた。店の主人は正直な行為に感心して、かえって大きなグライダーをくれた。生徒たちが写生に出かけた日のこと、達元の画用紙が風に飛ばされて河の中に落ちてしまった。春生は河に入ってそれを拾おうとするが、溺れそうになり、董先生に助けられた。それからは達元と春生は友達になって、運動会では肩を組んで二人三脚に出場するのだった。
★『雁南飛』(1942満洲映画協会)監督・楊葉、脚本・荒牧芳郎、撮影・池田専太郎、
出演・李顕廷、鄭暁君、李景秋、李雪娜、趙恥、陶滋心、杜撰、張愛蘋、蕭大昌、李映、
発動船の機関夫をしている楊徳成は、船主の銭世忠の娘・王華と愛し合っている。しかし、世忠は二千円の金を持ってこなければ、娘との結婚は許さないと楊徳成に言い渡す。楊は、金を稼ぐために地方に出かけて行く。王華と楊とのあいだには、名吉という子供も生まれていたのだが、八年という歳月が流れ、王華の父母は新しい船長の劉源泉との結婚を娘に勧めた。父親のいない名吉を不憫に思って王華は結婚を決意する。三人は幸福だった。そんにところに楊が二千円の金を貯めて帰ってきた。王華は自分の不実を詫びたが、楊は承知できなかった。しかし、劉を実の父親だと信じている名吉の姿を見て、自分から身を引くのだった。そして金をためる九年のあいだ、自分を励ましてくれた義侠の女・静英を懐かしく思い出だしていた。
★『皆大歓喜』(1942満洲映画協会)監督・王心斎、脚本・八木寛、撮影・福島宏、
出演・張敏、徐明徳、劉婉淑、趙愛蘋、浦克、徐頴、王安、
田舎のおばあさんの所へ新京にいる長女・喜英と次男・克定から、建国十周年祝賀行事に来るよう誘いがくる。喜英は病院長の夫人だが、ヒステリーで嫉妬深い。祖母が来たら夫を困らせようと企んでいる。克定は新聞記者で、祖母に結婚の許しを得ようと思っている。三男は博覧会場で会計兼ボーイの仕事につき、妻があるが祖母には隠している。博覧会場で落ち合った一家は、すべてをおばあさんがうまく裁いて、まるい収めてくれる。おばあさんはまた、豊年の喜びに湧く田舎へと帰っていった。
★『恨海難塡』(1942満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・丁明、撮影・竹村康和、
出演・徐聡、李顕廷、張静、張慧、趙成巽、隋尹輔、葉苓、陶滋心、
検事・楊国は、妻・秀娟、そして子供の春生と平穏な日々を送っている。そこへ、長年外国で暮らしていた弟の国祚が帰ってきた。かつては秀娟と愛を語ったことのある国祚は、秀娟に金を要求した。そして、もし金を出さなければ、昔もらった秀娟からの手紙を楊国にばらすと脅迫した。秀娟はやむなく信托証書を渡すが、国祚はさらに兄の実印を使って金を手に入れる。しかし、悪党の馮に撃たれて金も証書も奪われる。馮は秀娟の美貌にも目をつけ脅迫する。やがて秀娟は全てを告白して裁きを待つのだった。
★『黒瞼賊 前篇 後篇』(1942満洲映画協会)監督・張天賜、脚本・丁明、姜衍、撮影・藤井春美、
出演・周凋、白崇武、劉恩甲、畢影、王宇培、趙愛蘋、陶滋心、張奕、馬黛娟、戴剣秋、
ある県域で武士ばかりが狙われる殺人事件が起こる。犯人は黒瞼賊と思われているが、捕手頭の高順には手に負えない。高順は呂明と呼ばれるせむしの画家を、その腕を見て武芸達者の者と判断した。呂明は妓館の紫花を描いている。夏輝と名乗る青年武士も足しげく通ってくる。父を黒瞼賊に殺された青年剣客の魏良は、やがて夏輝と一騎打ちをする。高順は夏輝を殺人事件の犯人と見て家を襲うが、夏輝は平然として奥に消えると入れ替わりに黒瞼賊が現れる。高順は地下室に突き落とされ、黒瞼賊の高笑いが響き渡る。やがて犯人が追い詰められるときがくる。呂明は変装をとると夏輝になり、そして、その正体は黒瞼賊であることを自ら暴いて倒れる。張天賜の監督による初めての古装片。前篇 後篇に分かれ、張奕が呂明、夏輝、黒瞼賊の三役を演じている。
★『豹子頭林冲 水滸伝第二集』(1942満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・熙野(八木寛、長畑博司、張我権)、撮影・深田金之助、
出演・周凋、王麗君、王芳蘭、李顕廷、趙成巽、陳鎮中、徐聡、
近衛兵の槍術の師範・林沖は、教頭・張の娘・貞娘と許婚だった。ある日、林沖は街中で鉄の禅杖を振り回している一人の僧を押し留めた。有名な花和尚・魯智深であった。二人はすぐに意気投合して酒楼で義兄弟の縁を結ぶと花和尚の大相祥寺へ出かけた。そのとき、ちょうど貞娘が大相祥寺へお参りに来ていたが、貞娘は狩猟の帰りらしい立派な服装の若者に言い寄られて楼上に連れ込まれようとしていた。林沖は若者を打ち倒そうとしたところ、自分の上官・高大尉の息子・高衛内であることから許してやる。高衛内は林沖をなんとかして陥れようと画策する。新しい刀を購入した林沖は、高大尉の使いが、自分の刀と比べたいことを伝えに来たので役所へ出向く。しかし、役所には誰もいず、白虎節堂の中まで入ってしまった。そこは軍の規律で誰も入ってはならない場所だった。そこへ高大尉があらわれ、林沖を取り押さえる。計られた林沖は裁判の後、滄洲へ流罪となる。高衛内の部下は、林沖の護送途中で殺してしまうよう役人に金を与える。しかし、これを花和尚が聞きつけ、やがて衛内もその部下を斬り捨てる。駆けつけた貞娘は、うれし泣きに泣いて林沖と抱き合うのだった。
★『五千万人の合唱』(1942満洲映画協会)監督・大谷俊夫・朱文順、製作・伊東弘、監修・多田満男(牧野満男)、脚本・谷俊・爵青、撮影・藤井春美・福島宏、美術・堀保治、録音・大森伊八、編集・石野誠三、
満州建国十周年の紀念映画として企画された。詳細は不明。坪井與の記録には「作られなかったのではないか」との記述がある。
★勤労的女性(1942満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
★健康的小国民(1942満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
【1943年(昭和18年)】
★『誓ひの合唱』(1943満洲映画協会)製作・藤本真澄、監督・脚本・島津保次郎、撮影・鈴木博、音楽・服部良一、美術・松山崇、録音・鈴木勇、照明・平田光治
出演・李香蘭、黒川弥太郎、鳥羽陽之助、清水将夫、河野秋武、石島房太郎、浅田健三、佐山亮、冬木京三、西村慎、生方明、中村彰、黒井洵、載剣秋、灰田勝彦、
製作=東宝映画=満州映画協会 1943.08.12 紅系 10巻 2,321m 85分 白黒
誓ひの合唱 1943満映系 李香蘭
★『碧血艶影』(1943満洲映画協会)監督・劉国権、脚本・丁明、撮影・気賀靖吾、
出演・徐聡、周凋、張奕、浦克、趙成巽、張静、陳鎮中、李瑞、
金富貴という富豪の家に十万円を要求する脅迫状が届いた。現金を指定の場所に置くと警官が張り込んでいたにもかかわらず持ち去られてしまう。何文才の手下の一人・張甲祖とその女房・蘇秀麗、そして羅子安の三人組が企てた事件だった。終われる犯人の一人・秀麗は、寺の僧に返送して隠れていたが、何文才に突き止められる。そこへ警官が踏み込んできた。金を隠した場所を言わない秀麗を何文才が撃つ。秀麗は倒れながらも何文才を撃ち、金の場所を示す言葉を残して死ぬ。蘇秀麗は、金富貴の家で働く女中・秀麗の姉だった。二人で仲良く暮らすことを夢見て犯した過ちだった。
★『求婚啓事』(1943満洲映画協会)監督・王心斎、脚本・佐竹陸男、撮影・福島宏、
出演・周凋、葉苓、杜撰、浦克、江雲達、梅秋、趙愛蘋、
大順百貨店主の呉国卿は、十年前に妻を失い、いまでは一人娘の芳娥の成長を楽しみにしている。芳娥は、父が再婚しない限りは、一生父のそばにいる積りであった。しかし、ある日、百貨店で逢った田華圃に心惹かれる。国卿は、紅蓮という女の元に通い詰めていたが、紅蓮とその情夫に金をゆすられる。ある日、新聞の求婚広告を見て、国卿は、その相手と会うことになる。しかし、相手の方女史を訪ねたところ、広告のことは何も知らないという。その犯人は芳娥だった。方女史は芳娥の女学校時代の先生だった。やがて国卿と方女史、芳娥と華圃の二組の夫婦がめでたく誕生する。
★『銀翼恋歌』(1943満洲映画協会)監督・大谷俊夫、脚本・長畑博司、撮影・竹村佐久象、
出演・徐聡、戴剣秋、王麗君、趙成巽、陳鎮中、張奕、浦克、趙愛蘋、孟虹、馬黛娟、袁敏、
林志人と秦大華の操縦する小型飛行機が鏡泊湖畔に不時着した。そこで知り合った可憐な乙女・小鳳は、母を失い、叔父を頼って新京に出てきて李家の女中となって働いた。下男として働く従兄の金吾は小鳳をものにしようと狙い、叔母は売り飛ばそうともくろんでいる。ある日、小鳳は、街に出て志人と再会し、飛行場を訪ねて飛行機に乗せてもらう。小鳳は、志人から結婚を申し込まれるが、その頃、金吾は金を使い込んで李家をグビになり、小鳳も家を追われた。全てを諦めて小鳳は身売りすることを承知し、代金はそのまま志人に研究費として送るのだった。落ち込んでいる志人を大華は花街を連れて行く。そこで、いまは雪梅と名乗っている小鳳だった。小鳳は、鏡泊湖に逃げ帰った。志人もあとを追ったが、ときすでに遅く、湖上に小鳳の清らかな姿を見つけた。小鳳は、志人の腕の中で静に息絶えた。
★『白馬剣客』(1943満洲映画協会)監督・張天賜、脚本・八木寛、撮影・藤井春美、
出演・張奕、呉恩鵬、浦克、華影、張暁敏、周凋、戴剣秋、王英影、
城主・陳大守には、白爵のほかに、側室の段氏の子・実念の二人の子供がいた。大守は、跡継ぎを白爵と決めていた。段氏は自分の子供を立てたいという念願で一杯だった。その頃、白爵のみを案ずる重臣たちが、黒衣隊と称する騎馬隊に次々と殺された。白爵派は、黒衣隊を討つには周志傑の帰りを待つよりほかなかった。しかし、帰ってきた志傑は、黒衣隊に恐怖心さえ抱いている様子で、一同は大いに失望した。志傑の恋人・勝姑の父・呂悦まで黒衣隊に殺されるに及んで、勝姑も志傑の不甲斐なさに憤慨する。段氏側は、大宴会を開きその席で大守暗殺さえ企てる。そこへ白馬剣客が現れ、賊を倒す。白馬剣客の仮面の下は志傑その人であった。勝姑は彼の忠誠にただ涙を浮かべた。
★『富貴之家』(1943満洲映画協会)監督・脚本・周暁波、撮影・福島宏、
出演・張敏、王宇培、白玫、周凋、呉菲菲、常娜、梅枝、隋尹輔、張奕、馬黛娟、江雲達、何奇人、陳鎮中、劉恩甲、
大家族丁家の長男・世業は、一家の権力者として家事の一切を妻・大嫂に任せている。次男・世家は、遊び好きで密かに女を作っている。長女・治範は楽天的である。大嫂は、治範を邪魔者扱いして早く嫁にやろうとする。三男・世勤は日本留学中、次女・治平も女学生で学友の桂芬は、兄・世勤と意気投合している。暗い雰囲気の家庭を、帰国した世勤は改革しようとする。しかし、大嫂は治平に結婚を強制しようとして、治平を自殺に追い込む。世勤は大嫂と口論の末、大嫂を殺してしまう。家の財産を自分のものにしようとたくらんでいた長兄の反省を、ようやく牢獄につながれている世勤は知る。桂芬の同情を得て、未来の新生に希望をつないでいる。
★『却後鴛鴦』(1943満洲映画協会)監督・脚本・朱文順、
出演・浦克、張静、徐聡、趙愛蘋、孟虹、張奕、王麗君、王宇培、曹佩箴、江雲達、袁敏、
金持ちの息子・唐鴻志の家には、孤児で従妹の陶英華が引き取られている。英華はすでに鴻志のタネを宿しているが、継母は自分の姪・玉茹と鴻志を結婚させて家を牛耳ろうと思っている。しかし、鴻志が承知しないので英華を弟の家に追いやってしまう。英華は死を考えたこともあるが、腹の中の子供のために仕事を転々としながら、仕事場の同僚の家で出産する。ふたたび鴻志とめぐり会ったとき、子供はすでに死んでいた。鴻志の父は、自分の非を悔いて、財産の一部で貧しい子供たちのために平民学校を創立する。ようやく鴻志と英華の二人も幸せをふたたび取り戻すのだった。
★『千金花子』(1943満洲映画協会)監督・王心斎、撮影・福島宏、
詳細不明
★『燕青と李獅子』水滸伝第三集(1943満洲映画協会)監督・張天賜、脚本・八木寛、撮影・島津為三郎、
燕青は任侠の若者、縁あって梁山泊の宋江の世話になる。宋江は、自分たち梁山泊の連中は悪党ではなく、正義と義侠のために挺身していることを天子に奏上するため、東京城に向かう。しかし、天子は面会しようとはしない。天子の愛している芸妓・李獅子が、宋江に従ってきた青燕に惚れ込んでしまう。李獅子の手引きでようやく宋江は目的を果たすことができる。
★『白雪芳踪』(1943満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・馮宝樹、撮影・竹村佐久象、音楽・満映国楽研究部、
出演・張敏、趙成巽、白玫、張素君、華影、戴剣秋、
金持ちの紳士・魏以康は、妻の死後、十回忌の夜、社交界の花形である燕影と再婚するために、女中の呉媽に縁を切ることを伝える。呉媽とのあいだに仲明という男の子までもうけた関係だったが、家を追われて呉媽は仲明の手を引き街をさまよう。ある日、歌う唄いの少女・蓮芳とその祖父との二人連れと知り合い、互いに力を合わせて生活することになる。蓮芳は、歌手としてある茶館と契約した。すこしは収入も安定して仲明も小学校へ通うことができる。それから十二年、仲明は大学生になり、蓮芳と相愛の仲になっている。その頃、魏以康は、燕影との生活にも失敗し、さらに投機にも失敗して破産してしまう。ある夜、魏以康は、茶館で蓮芳を見初め、家に連れ込んで手篭めにしてしまう。魏の家で蓮芳は呉媽と仲明が写っている写真を見つけ、呉媽の告白から過去を知ることになる。蓮芳は汚れた体になったいま、家を出て仲明から去っていく。祖父の死を契機に蓮芳は看護婦となって働くが、ある日、病院に危篤の身となった魏以康が運ばれてくる。魏以康は過去を悔いて呉媽と仲明に会いたいと訴えるが、仲明は自分の過去を知って怒り、会おうとしない。やがて魏以康は息を引き取った。仲明は蓮芳を探したが、ふたたび蓮芳は仲明の前から姿を消して遠くへ去っていった。
★『今朝帯露帰』(1943満洲映画協会)監督・楊葉、脚本・原健一郎、
詳細不明
★『サヨンの鐘』(1943松竹(下加茂撮影所)・台湾総督府・満州映画協会)監督・清水宏、脚本・長瀬喜伴、牛田宏、斎藤寅四郎、撮影・猪飼助太郎、音楽・古賀政男、挿入歌・「サヨンの歌」詩・西条八十、曲・古賀政男、唄・李香蘭、「なつかしの蕃社」唄・霧島昇 菊池章子、「サヨンの鐘」唄・渡辺はま子、美術・江坂実、装飾・井上常次郎、録音・妹尾芳三郎、編集・猪飼助太郎、斎藤寅四郎、衣裳・柴田鉄造、字幕・藤岡秀三郎
出演・李香蘭(サヨン)、近衛敏明(武田先生)、大山健二(村井部長)、若水絹子(その妻)、島崎溌(サブロ)、中川健三(モーナ)、三村秀子(ナミナ)、水原弘志(豚買・サヨンの父)、中村実(ターヤ)、応援参加・桜蕃社
1943.07.01 紅系 9巻 2,520m 92分 白黒
サヨンの鐘 1943満映系 李香蘭
★『萬世流芳』(1942・公開1943中華聯合製片公司=中華電影=満映)監督・張善琨・卜萬蒼・朱石麟・馬徐維邦・楊小仲、
出演・陳雲裳(靜嫻)、袁美雲(玉屏)、李香蘭(鳳姑)、高占非(林則徐)、王引(潘達年)、
阿片戦争 (1840-1842) 百周年記念作品で、中国のトップ俳優4人と李香蘭が共演した話題作。当時広東で阿片の取締りにあたっていた英雄的な大臣林則徐の伝記映画として製作された。中華聯合製片公司と中華電影 (中華電影公司) は日本占領下の上海の国策映画会社 (1943年に合併して中華聯合電影公司) で、満州の国策映画会社満映 (満州映画協会) との共同製作。当初、「反英」のコンセプトで製作されたが、中国人は「抗日映画」と読み替えてヒットしたという。硬質な官憲の伝記映画というよりは、あまいメロドラマと割り切ってみた方が楽しめる。登場する女性3人は女優陣が演技を競う。林則徐が最初に客として招かれた福建巡撫の家の娘靜嫻は林則徐に縁談を断られ、尼寺に篭って阿片中毒を直す薬「戒煙丸」作りに精を出す、阿片戦争が始まると民衆軍を率いて戦い戦死する。福建巡撫の後に林則徐が客として招かれた元県令の家の娘玉屏は、病に倒れた林則徐を看病し、その縁で妻となる。玉屏は母の阿片中毒を直すために「戒煙丸」を求めることで靜嫻と出会い、阿片と戦う林則徐を共に支える。李香蘭が演じるのは阿片窟に出入りする飴売りの娘鳳姑で、阿片中毒で身を崩した潘達年(林則徐の学友)を支えて社会復帰させる妻を演じている。潘達年の阿片中毒を直すために「戒煙丸」を求める鳳姑も靜嫻と知り合う。林則徐の出世や、潘達年の阿片中毒や社会復帰の描写は淡白に描かれているが、女性の成就しない恋、献身、微妙な三角関係と女性間の友情を描いた部分はメロドラマ色が強い。阿片窟で飴売りする靜嫻が阿片窟で飴売りのふりをして『売糖歌』を歌う場面が印象的である。林則徐らの阿片の害毒と国を憂う直接的なセリフよりも、むしろ李香蘭の歌の方が、むしろ説得力があると評された。
萬世流芳 1943満映系 李香蘭
★戦ひの街 1943松竹系 李香蘭
★開拓の花嫁(1943満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
★野菜の貯蔵(1943満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
★暖房の焚方(1943満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
【1944年(昭和19年)】
★『虱は怖い』(1944満洲映画協会)演出・加藤泰通、脚本・今井新、撮影・吉田貞次、動撮(アニメーション)・笹谷岩男、森川信英、音楽・金城聖巻・新京音楽団、照明・山根秀一、2巻 14分 白黒 原題:子虱的怕可
加藤泰(通)が満映で撮った文化映画。実写部分のさまざまな映画技法や当時としては高水準のアニメーションを駆使することによって面白い作品になっている。満映時代にはもう1本『軍官学校』(1944)という作品もある。(原題;子虱的怕可)』(アニメーション;2巻14分)
★『軍官学校』(1944満洲映画協会)演出・脚本・加藤泰通、撮影・黒田武一郎
製作・満州映画協会 白黒
★『晩香玉』(1944満洲映画協会)監督・周暁波、脚本・姜学潜、撮影・藤井春美、王福春、
出演・浦克、白玫、寒梅、屠保光、徐聡、
寒梅は、大連の出身でこの作品でデビューした新人。この一本でスターとなり、「蘇少妹」の主役に抜擢されることになる。
★『緑林外史』(1944満洲映画協会)監督・王心斎、脚本・栗原有三、撮影・近藤稔、
出演・浦克、陳鎮中、曹佩箴、
建国前に監獄に入っていた緑林出身の馬賊が、建国後に出獄して都会に出てくるが、以前の社会とは一変。勝手が違って失敗ばかりする。
★『好孩子』(1944満洲映画協会)監督・池田督、脚本・館岡謙之助、撮影・竹村康和、
出演・干延江、
少年教育を目的とした少年院を舞台とした物語。多くの中学生がエキストラとして参加した。
★『愛與讐』(1944満洲映画協会)監督・笠井輝二、原作・原健一郎、脚本・熙野(八木寛、長畑博司、張我権)、撮影・岸寛身、
出演・孟虹、杜撰、張敏、徐聡、張奕、
文芸作品で、国務院芸術賞を受けた。
★『血濺芙蓉』(1944満洲映画協会)監督・広瀬数夫、脚本・原健一郎、撮影・竹村康和・王福春、
出演・徐聡、白姍、隋尹輔、芦田伸介、
活劇物で監督・広瀬数夫が俳優・ハヤブサ・ヒデト時代のアクロバット芸を披露している。新京放送局放送劇団員の芦田伸介が出演している。
★『夜襲風』(1944満洲映画協会)監督・広瀬数夫、脚本・原健一郎、撮影・福島宏、
周凋、張奕、隋尹輔、李顕廷。
活劇物。助監督の池田督が作った予告編から優れていて好評だった。
★『映城風光』(1944満洲映画協会)監督・大谷俊夫、撮影・深田金之助、
撮影風景を面白く見せる風景映画。
★『妙掃狼煙』原題:王順出世記(1944満洲映画協会)監督・脚本・大谷俊夫、撮影・深田金之助
詳細不明。
★『化雨春風』(1944満洲映画協会)監督・不明、脚本・佐竹陸夫・片岡董、
良家の子だが、臆病な小学生が、遠足に行ってグライダーを見学。そのプロペラを傷つけてしまう。小学生は心配のあまり荒野をさまようが、やがて父の力で気丈夫な子供に成長していく。
★『一代婚潮』(1944満洲映画協会)監督・周暁波、脚本・楊輔仁、
出演・孟虹、杜撰、張敏、周凋、冯露、丹江、云逵、
★『百花亭』(1944満洲映画協会)監督・張天賜、
張奕、寧波、顧萍、寒梅、王人路。
★『月弄花影』(1944満洲映画協会)監督・広瀬数夫、脚本・原健一郎、撮影・深田金之助、音楽・竹内輪治、
出演・李顕廷、顧萍、王宇培、
満映第一回の歌謡映画。歌の上手な人気少女を新京放送局よりスカウトし、顧萍という名前でデビューさせた。
★『私の鶯』(1944満洲映画協会)監督・脚本・島津保次郎、企画製作・岩崎昶、原作・大仏次郎、撮影・福島宏、音楽・服部良一、助監督・池田督、製作提携東宝、
出演・李香蘭、千葉早智子、黒井旬(二本柳寛)、進藤英太郎、グリゴリー・サヤーピン、ヴィクトル・ラウロフ、ニコライ・トルストホーフ、オリガ・エルグコーア、
満州事変で北満にいた日本人一家はそれぞれにはぐれてしまい、母をなくした娘は日系ロシア人の交響楽団員の一人に拾われる。やがて娘は歌手となり、父ともふたたびハルビンでめぐり会う。しかし、養父は最後の舞台で倒れて、娘に看取られて息を引き取る。娘は墓前でひとり「私の鶯」を歌う。戦争の中で家族の別離と再会を描いた東宝との提携作品。内地から演技指導の厳しい名匠島津保次郎を迎え、満映の総力をあげて作った自信作といえる。原作は大仏次郎による「ハルビンの歌姫」。主題歌のほか、李香蘭が次々と名曲を歌う音楽映画。当時、ハルビンの劇場で活躍していた白系ロシア人の歌手を多数出演させ、オペラやロシア歌謡を盛り込み、本編で交わされる会話はほとんどロシア語という異色のミュージカル映画である。しかし、この作品は、昭和19年3月に完成しても一般公開されなかった。内務省の検閲で時局に会わずという理由で公開見送りとされ、満州でもそれに倣ったとされている。しかし、昭和59年に「放浪の歌姫」と改題されたプリントが発見された、当初二時間近くあったものが、半分ほどに再編集されたプリントで、昭和61年6月「私の鶯 ハルピンの歌姫」として一般にも公開された。再編集された短縮版とはいえ脚本は残っているので欠落部分の類推は可能である。一説によると、戦勝国(ソビエト、中国)に差しさわりのある部分は遠慮してカットしたとみられる。満映作品として現在唯一見ることのできる満州映画協会娯民映画である。この作品の撮影中、昭和18年3月に、内田吐夢が脚本家・新藤兼人と「陸戦の華・戦車隊」のロケハンのために渡満していて、島津保次郎の撮影隊と会ったという。1960年代の初めに北京の中国電影資料館の外国映画の整理の仕事をしたアメリカ人の映画史家ジェイ・レイダは、この映画をボルシェヴィキを攻撃・非難している反共映画とした。しかし、元の完全版を見ている大塚有章は、「未完の旅路」五巻で「しかし、あの映画自体は愚劣だったな。シナリオも島津氏が書いたと聞いていたが、仮にも反共映画を作ろうというのなら、少なくとも監督は共産主義のABCくらいは勉強してかからねば駄目だと思うな。ハルビンのキャバレーを舞台にして共産主義者が暗躍しているところを描いたつもりだろうが、あそこまでお粗末では張り合う気も起こらんな」と述懐した。
★室内園芸(1944満洲映画協会)監督・坂根田鶴子、
★野戦軍楽隊 1944松竹系 李香蘭
【1945年(昭和20年)】
★『虎狼闘艶』(1945満洲映画協会)監督・大谷俊夫・池田督、脚本・館岡謙之助、撮影・深田金之助、進行主任・牧野寅太郎、
出演・王心賂、薛素煕、
森林匪賊の物語。虎の出てくる場面が見せ場となるはずだったが、動物園の虎を借りることができず、縫いぐるみと実写のカットバックを用いた。
京劇の舞台女優・薛素煕を抜擢して、龍井から森林鉄道で入った奥地で撮影を開始したが、その鉄道で監督の池田督が足を挟まれ大怪我をするという事故があった。急遽、進行主任の牧野寅太郎が、池田督の書いた絵コンテをカメラマンの深田金之助に渡して撮影は続けられた。撮影末期には池田が5月の大量応召で戦地へ向かうこととなり、さらに深田金之助も撮影終了と同時に招集されたが甘粕が軍に掛け合い南嶺からの外出を許されて完成作品を見ることができた。この作品の完成は、池田の師・広瀬数夫によってなされた。池田督は、甘粕からの特別な書状を持っていたにもかかわらず、誰にも見せることなく、ソ連参戦、日本敗戦で捕虜になり、シベリアへ送られた。
★『芝蘭夜曲』(1945満洲映画協会)監督・朱文順、脚本・周暁波、撮影・杉浦要、音楽・武川寛海、
出演・曹佩箴、
大石橋、娘娘廟を背景とする地での男女の甘い恋物語。
★『蘭花特攻隊』(1945満洲映画協会)監督・笠井輝二、脚本・館岡謙之助、撮影・岸寛身、音楽・武川寛海、
出演・水島道太郎、小杉勇、
昭和20年1月以来、上記のスタッフ・キャストで製作を進行、しかし5月になって笠井輝二監督の応召、そして飛行機の不足から製作中止となった。
★『蘇少妹』(1945満洲映画協会)監督・木村荘十二、脚本・姜学潜・長畑博司、撮影・杉山公平、音楽・武川寛海、
出演・寒梅、
題名の蘇少妹は、宋の詩人・蘇東坡の妹をさすが、実際には妹はなく、伝説中の人物。セットを組み、撮影を開始したところで終戦、未完成に終わった。杉山公平撮影技師は、藤フィルムと交渉して、ラストの部分をカラーにしたい希望があったという。
★『大地逢春』(1945満洲映画協会)監督・周暁波
出演・水島道太郎、小杉勇、
★『夜半鐘声』(1945満洲映画協会)監督・王心斎
出演・王芬蘭
★『租界的夜景』仮題(1945満洲映画協会)脚本・笠井輝二、
昭和19年より満映と華北電影との提携、大東亜省協力作品として笠井輝二が脚本を書き上げた。「脚本が大東亜省の許可を得たので、満映の中村監督、気賀キャメラマン等が華北へ出張、製作スタッフは満映、俳優は華北の企画のもとに天津租界を背景として英国の謀略を描くもの」と、雑誌「日本映画」に紹介された。
●満映における中国人俳優たち
杜撰、周凋、浦克、白玫、江雲逵、王宇培、王安、王影英、王瑛、王麗君、王芳蘭、王芳明、楊恵人、干延江、呉菲菲、劉恩甲、何奇人、戴剣秋、徐聡、李映、李顕廷、李景秋、李雪娜、季燕芬、李唐、李瑞、陳鎮中、曹佩箴、陶滋心、蕭大昌、孟虹、張静、張敏、張望、張奕、張暁敏、張氷玉、張素君、馬黛娟、趙愛蘋、趙成巽、趙恥、趙嘯瀾、張慧、朱徳奎、葉苓、葉笙、隋尹輔、鄭暁君、董波、馬旭儀、安琪、高翮、朱遇春、畢影、杜寒星、劉潮、郭範、尚富霞、候志昂、顧萍、寒梅、袁敏、常娜、梅枝、梅秋、徐明徳、劉婉淑、徐頴、白崇武、李香蘭、
【「満州映画協会」関係文献】国立国会図書館調べ
★満洲映画 [復刻版] 雑誌 ゆまに書房, 2012-2013
★満州の記録 : 満映フィルムに映された満州 図書 集英社, 1995.8
★満映男演員名簿 図書 [満洲映画協会], [1940]
★満映女演員名簿 図書 [満洲映画協会], [1940]
★「満州映画協会」研究史の整理と今後の展望 雑誌記事 池川 玲子
★満州映画協会の繁栄と悲劇--大スター李香蘭と甘粕理事長の自決 雑誌記事
★満映 : 甘粕正彦と活動屋群像 幻のキネマ 図書 山口猛 著. 平凡社, 1989.8
★幻のキネマ満映 : 甘粕正彦と活動屋群像 (平凡社ライブラリー ; 588) 図書 山口猛 著. 平凡社, 2006.9
★「満州」移民映画とジェンダー : 満州映画協会女性監督・坂根田鶴子を中心として 博士論文 池川玲子 [著]. [池川玲子], [2006] 関西 冊子体
★映画随談(第14回)満州映画協会 : 配給部配給係が観た満州とシベリア(1) 雑誌記事 佐伯 知紀
★映画随談(第15回)満州映画協会 : 配給部配給係が観た満州とシベリア(2) 雑誌記事 佐伯 知紀
★甘粕正彦と李香蘭 : 満映という舞台 図書 小林英夫 著. 勉誠出版, 2015.7
★満映とわたし 図書 岸富美子, 石井妙子 著. 文藝春秋, 2015.8
★新中国映画の形成 : 旧満州映画協会から東北電影制作所 博士論文 向陽 [著]. [向陽], [2008] 関西 冊子体
★岸富美子(きしふみこ)(元満州映画協会編集者) 甘粕正彦と満洲映画「94歳最後の証言」 雑誌記事 石井 妙子
★満映 : 国策映画の諸相 図書 胡昶, 古泉 著, 横地剛, 間ふさ子 訳. パンドラ, 1999.9
★文化映画 雑誌 文化映画協会
★文化映画 1(5) 雑誌 文化映画協会, 1938-06
★文化映画 1(4) 雑誌 文化映画協会, 1938-05
★初期満映の活動に関する資料--雑誌『月刊満洲』の映画関連記事 (特集 ヴィジュアリズムの光と影--〈満洲〉&東京) 雑誌記事 有馬 学
★映画技術 雑誌 映画出版社 [編]. 映画出版社, 1941-1943 <雑35-335> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★映画技術 6(1) 雑誌 映画出版社 [編]. 映画出版社, 1943-07 <雑35-335> デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★教材映画 雑誌 十六ミリ映画教育普及会
★教材映画 (64) 雑誌 十六ミリ映画教育普及会, 1940-06
★講座日本映画 4 (戦争と日本映画) 図書 今村昌平 [ほか]編. 岩波書店, 1986.7
★朱夏 : 文化探究誌 雑誌 『朱夏』編集部 編. せらび書房, 1991-2007
★朱夏 : 文化探究誌 (7) 雑誌 『朱夏』編集部 編. せらび書房, 1994-08
★文化映画 雑誌 映画日本社
★文化映画 2(9)(20) 雑誌 映画日本社, 1942-09
★文化映画 2(5) 雑誌 映画日本社, 1942-05
★満洲行政経済年報 昭和17-18年版(康徳9-10年) 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 昭和17-18 <14.5-944> 関西 オンライン
★満洲行政経済年報 昭和18年版(康徳10年) 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 昭和17-18 <14.5-944> デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 オンライン
★満洲行政経済年報 昭和17年版(康徳9年) 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 昭和17-18 <14.5-944> デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★満洲行政経済年報 昭和17-18年版 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, [19--] <317.9225-M178-N> 関西 オンライン
★満洲行政経済年報 昭和18年版 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 〔19--〕 <317.9225-M178-N> デジタル 国立国会図書館限定 オンライン
★満洲行政経済年報 昭和17年版 図書 日本政治問題調査所行政調査部 編. 日本政治問題調査所, 〔19--〕 <317.9225-M178-N> デジタル 国立国会図書館限定 冊子体
★矢原礼三郎--経歴及び著作目録 雑誌記事 与小田 隆一
★満洲から筑豊へ : 幻灯『せんぷりせんじが笑った!』(1956)をめぐる「工作者」たちのゆきかい 雑誌記事 鷲谷 花
★映画テレビ技術 = The motion picture & TV engineering 雑誌 日本映画テレビ技術協会, 1965-
★映画テレビ技術 = The motion picture & TV engineering (465) 雑誌 日本映画テレビ技術協会, 1991-05
★映画テレビ技術 = The motion picture & TV engineering (464)
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★満洲国策会社綜合要覧 図書 満洲事情案内所, 1939 <335.49-M178m> 関西 デジタル インターネット公開 冊子体
★図説満州帝国の戦跡 (ふくろうの本) 図書 太平洋戦争研究会 編, 水島吉隆 著. 河出書房新社, 2008.7
★映画国策の前進 図書 山田英吉 著. 厚生閣, 1940 <778-Y158e> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★映画国策の前進 図書 山田英吉 著. 厚生閣, 昭15 <773-91> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 マイクロ / オンライン
★映画国策の前進 3版 図書 山田英吉 著. 厚生閣, 昭和15 <特219-301> 東京関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★満洲国策会社綜合要覧 康徳6年度 (満洲事情案内所報告 ; 第54号) 図書 満洲事情案内所 編. 満洲事情案内所, 康徳6 <789-94> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★滿洲映画. Manchou movie magazine 日文版 雑誌 滿洲映畫發行所, 1937-[1939]
★滿洲映画. Manchou movie magazine 2(8) 日文版 雑誌 滿洲映畫發行所, 1938-09
★滿洲映画. Manchou movie magazine 2(5) 日文版 雑誌 滿洲映畫發行所, 1938-05
★満洲帝国 : 満鉄・満映・関東軍の謎と真実 (洋泉社MOOK) 図書 洋泉社, 2014.11
★ダイヤモンド産業全書 第13 図書 ダイヤモンド社, 昭13 <744-83> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 マイクロ / オンライン
★映画戦 (朝日新選書 ; 13) 図書 津村秀夫 著. 朝日新聞社, 昭和19 <778-Ts74-9ウ> 東京関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体 / オンライン
★映画戦 (朝日新選書) 図書 津村秀夫 著. 朝日新聞社, 1944 <778-Tu735e7> 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★メディアのなかの「帝国」 (岩波講座「帝国」日本の学知 ; 第4巻) 図書 山本武利 責任編集. 岩波書店, 2006.3 東京関西 冊子体 / オンライン
★帝国の銀幕 : 十五年戦争と日本映画 博士論文 Peter Brown High [著] p236 (0126.jp2)2「王道楽土」への招待 / p238 (0127.jp2)3 李香蘭と満州映画協会 / p241 (0128.jp2)4「支那人を描け!」 / p246 (0131.jp2)第8章 関西 デジタル 国立国会図書館内/図書館送信 冊子体
★写真集成近代日本の建築 7 図書 ゆまに書房, 2012.3
★特殊会社準特殊会社法令及定款集 康徳5年 (調資B5 ; 第10号) 図書 満州中央銀行調査課, 1938
★二〇世紀満洲歴史事典 図書 貴志俊彦, 松重充浩, 松村史紀 編. 吉川弘文館, 2012.12
★秘密のファイル : CIAの対日工作 下 図書 春名幹男 著. 共同通信社, 2000.4 ,155,162,164,330マルコムX//(上)56丸紅//(下)390丸山真男//(上)432満州映画協会(満映)//(上)351満州国//(上)235,351,411 (下)79,162,164満州国通信 東京関西 冊子体
★新聞集成昭和編年史 昭和15年度版 1 図書 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1992.10
★新聞集成昭和編年史 昭和14年度版 4 (十月~十二月) 図書 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1992.8
★新聞集成昭和編年史 昭和15年度版 4 図書 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1993.4
★新聞集成昭和編年史 昭和13年度版 3 図書 明治大正昭和新聞研究会 編集製作. 新聞資料出版, 1991.8